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おっさんずイフ

8.アタリの神器

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「ん、朝か……」

 閉じた木戸の隙間から朝日が差し込み、俺の顔を照らす。
 なんだかやけに清々しい朝だ。
 固い粗悪なベッドで眠ったはずなのに身体の不調が全く感じられない。
 むしろ眠る前よりも身体の節々が滑らかに動くし、体調も良いような気がする。
 まるで頭の中にかかっていた霧が綺麗さっぱり吹き飛んだかのように頭もすっきりしている。
 木戸を開けて朝の澄んだ空気を吸い込めば、やってやるぞという気力が湧いてくる。
 昨日までの自堕落な自分からは考えられないようなメンタリティだ。
 これも神器の力なのだろうか。
 考えられるのは寝る前に1本だけ吸った神巻きタバコか、それともあれから3杯ほど飲んで寝た神酒か。
 神巻きタバコの効果はたしか所有者の能力の増幅、神酒の方はとても身体にいい、だったかな。
 タバコの能力で俺の身体に備わった自然治癒力や思考力などが増幅されたのか、それとも神酒の健康成分的な何かで身体にいい変化がもたらされたのか。
 もしくはその両方の相乗効果かだな。
 確かめる方法は思いつかないけど、悪いことが起こったわけでもないからまあいいか。
 神器というのはやはりすごいものなんだな。
 神巻きタバコは軽いドーピングのようなものだと思っていたし、神酒も美味しい青汁程度のものだと思っていたけれどもしかしたら俺が思っている数倍は効果があるものなのかもしれない。
 
「とりあえず寝起きの1本」

 俺は神巻きタバコを具現化し、黒い箱から1本取り出して魔道具で火を着けた。
 この魔道具が火を着けるだけという100円ライターくらいの機能しかないにもかかわらず銀貨5枚もした。
 支度金金貨2枚のうち4分の1を持っていかれてしまった計算になる。
 しかしタバコに火を着けることはヘビースモーカーの俺にとっては非常に重要なことだ。
 何食か食事を抜いてでもこれだけは買う必要があった。
 すでに俺の持ち金は金貨1枚を切ってしまっている。
 今日から荷運びの仕事をするわけだけど、精一杯頑張って稼がなければな。





「荷運びの仕事の集合場所はこちらでよろしかったでしょうか」

「おう、ここで間違いないぜ」

「あんちゃん細っこい身体だが大丈夫か?荷運びはきついぜ?」

「こう見えても力はある方なんですよ」

「まあがんばんな」

 集合場所の商会の荷上場には屈強な男たちが集合していた。
 全員が全員ぎゅっと引き締まった闘牛のような筋肉の持ち主で少し気が引けたが、見た目で壁を作っては人付き合いはおしまいだ。
 俺は勇気を振り絞ってマッチョメンたちに混ざって荷運びの仕事を始める。
 マッチョメンたちは荷上場に積みあがった重そうな木箱を抱えて出発間際の荷馬車に積み込んでいく。
 これを一人で一つ持ち上げることができなければ荷運びの仕事はできないということか。
 俺は腰をやってしまわないように気を付け、いざ木箱を持ち上げる。

「あれ、意外と軽い」

 持ってみたら意外に軽々持ち上がってしまった。
 まるで空箱を持ち上げているように感じるが、中にはしっかりと荷物が詰まっているようだ。
 いったいどういうことなんだろうか。
 こんな軽い箱を筋骨隆々の男たちが体から湯気を噴き出しながらふんふん言って運んでいるはずはない。
 この箱だけが軽い荷物だったのかもしれないと思い、俺は手早く木箱を荷馬車に積み込み次の木箱を持ち上げる。
 しかしやはりこれも軽い。
 まあ箱の中身の話はあとで昼休憩のときにでも誰かに聞くか。
 俺は軽い木箱を抱えて荷馬車との間を何往復もした。






「いやぁ、今日の荷物は重かったな。あれ何入ってんだ?」

「鉄鉱石だとよ」

「石かよ。そりゃ重いはずだぜ」

 今日俺たちが運んだ木箱には鉄鉱石が満杯に入っていたらしい。
 しかし俺にはあれが全く重いとは思えなかった。
 軽い箱ばかりだからあとで何が入っているのか聞こうと思っていたのだが、まさか鉄鉱石が入っていたとは。
 いったい俺はどうなってしまったというのか。
 筋骨隆々のゴリマッチョたちが無茶苦茶重かったという荷物が俺には全く重く感じない。
 これは俺がこのマッチョメンたちを凌ぐ力持ちだからだということなのだろうか。
 俺は見かけによらず力があるとは言われたことがあるものの、さすがにゴリゴリの筋トレマニアには及ばない程度の腕力しか持ち合わせていなかったはずだ。
 これはまさか、神器の力なのだろうか。
 神巻きタバコの効果、所有者の能力の増幅。
 それが俺の思っている程度の能力ではないとしたら。
 俺は足元に落ちていた石ころを拾い上げる。
 指先にぐっと力を入れると、その石はバリバリと砕けてしまった。
 まさかのまさかである。

「なんて力だ……」

 昨日からこちらの世界で普通に生活してきたわけだけれど、こんなに力が強くなっているなんていうことには気づかなかった。
 ドアノブを引きちぎってしまうようなこともなかったし、コップを握りつぶしてしまうようなこともなかった。
 これはおそらく俺が完全にこの力をコントロールすることができているということだろう。
 筋力だけではなく、脳の演算能力や神経伝達などもすべて増幅されているということなのかもしれない。

「この神器は完全にアタリだな」

 まさか嗜好品重視で神器を選んだ俺がアタリの神器を持っていようとは。
 人生なにが起こるかわからないものだ。
 でもこれで、荷運びが俺の天職だということがわかった。
 神器の力で無双すれば鉄鉱石の満載された木箱も全く重いとは感じないし、軽い箱を持って荷上場と荷馬車の間を往復するだけの簡単なお仕事だ。
 明日からもこれで稼ごう。



 
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