71 / 131
71.仁科盛信(松姫視点→主人公視点)
しおりを挟む
目が覚めた私は、絶望しました。
あの世に行けなかった。
あのお方とは決して一緒になることのできない最悪の世に生き残ってしまった。
涙があふれて止まりません。
「姫様!姫様が目を覚ましました!!」
側で見守っていた側仕えの者がどこかへ走り去っていきます。
きっと私が目覚めたことを誰ぞに伝えるつもりなのでしょう。
私は責められるでしょうか。
この世では自害などは珍しくもないですが、このタイミングでの自害は意味が違ってきます。
私の心が、織田に向いていると判断されてもおかしくありません。
いっそ殺してくださればいいのに。
ドタバタと走って側仕えが戻ってきます。
一人の足音ではないので誰か連れてきたようですね。
お医者様でしょうか。
私は涙を袖で拭い、平静を装います。
「松、入ってもよいか?」
「お兄様でいらっしゃいましたか……どうぞ」
御簾を上げてお兄様が入ってきます。
お兄様といっても私には兄がたくさんおります。
入ってきたのは私の本当のお兄様、武田家の家臣である仁科家の当主となった同母兄です。
「松、なぜこんなことをしたんだ」
「ごめんなさい、お兄様。でも、私……」
「織田の嫡男のことが忘れられぬか?」
「はい……ごめんなさい」
「謝ることはない。人の心などは誰のものでもなく自分のもの。誰を好こうが構わんさ。だが、松にはここは居辛かろう。私と一緒に信濃の森城へ行こう。そこでゆるりと心の傷を癒せばよい。別の男を好きになるのもいい、織田の嫡男を想い続けるのでもいい」
「お兄様……」
「とにかく、松の怪我が大したことなくてよかった。これも神仏の御加護かもしれぬな」
兄の言葉で少し気が楽になった私は、短刀で突いたはずの喉を触ってみます。
膏薬のようなものが貼ってありますが、その下には傷も痛みも感じません。
意識が無くなる寸前短刀はかなり深く刺さったと思ったのですが、気のせいだったのでしょうか。
私はふいに視線を感じ、天井を見上げます。
一瞬でしたが、何か黒い影のようなものが見えた気がします。
私は目をこすってもう一度天井を見上げます。
何もいませんね。
世の中には不思議なことがあるものです。
ゴーストの報告によれば、松姫様は今現在移動中らしい。
松姫様はこれまで躑躅ヶ崎館という武田家のお屋敷で暮らしていたらしい。
武田と織田が敵同士になって松姫様の立場は微妙になり、家内ですったもんだしていた。
そこに今回の自害騒動があって、史実通りお兄さんの仁科盛信さんの住んでいる森城というところにお引越しすることにしたようだ。
森城は未来で言えば長野県大町市のあたり。
ほぼ富山だ。
現在は山梨と長野の県境である南アルプスのふもとあたりを移動中だそうだ。
ゴーストたちはダンジョン領域の中しか移動できないので、俺は南アルプスをダンジョンに取り込んだ。
けっこうダンジョンポイントを使ってしまったけれど、南アルプスはダンジョンポイントがそれなりにもらえる土地だったのでなんとか取り返せそうだ。
ついでに将来突然噴火することになる長野県と岐阜県の県境にある御嶽山にもサブコアを設置してダンジョン領域にしてみた。
そっちもそこそこポイントが入ってきている。
やはり火山や断層などの高エネルギー地帯は土地から吸収できるダンジョンポイントが多いようだ。
エネルギーの取り過ぎで温泉とか出なくなったらごめん、未来の人。
その代わり火山の噴火や地震も同時に無くなるかもしれないので許してほしい。
「この先に、松姫がおるのだな」
「ええ、俺の手の者(モヤ)が知らせてきました。この先の街道を集団でこちらに向かってきているそうです」
「そうか……」
俺達は貢物やら色々の箱を大八車に載せて引いてきているので、速度があまり出なかった。
しかしなんとか先回りしてここに陣取ることができたのだ。
どこの関所でも税金だとか言って荷物を奪おうとするから往生したが、全て目が眩むほどの金の力でなんとかしてきた。
あとは姫様を攫いに行くだけなのだが、肝心の勘九郎様は尻込みしているようだ。
ここは年長者として殿になんとかしてもらおう。
「殿、お願いします」
「3つしか違わんじゃろうが。まあいい。勘九郎様、武田家の奴らに言ってやればいいのですよ。その姫、いらんならワシにくれと」
「そんなことが言えるか!」
「なぜです?」
「なぜって、お主……」
「なんもかんも思う通りに行かん世の中です。好いた女くらいは、嫁にしたいと思って構わんのですよ。武田とか、織田とか、そこには関係ない。お父上が文句を言うのなら、斬って下克上すればいいのですよ。武田が文句を言うのなら、攻め滅ぼしてしまえばいいのですよ。それが侍というものです」
「侍……。そうか。そうだったな。父上なら確かにそうする。もっとも、父上が好きな女のために何かをするところは想像できぬがな」
信長もそういう可愛げがあればよかったと個人的には思うけど。
僕帰蝶のこと超好きなんで斉藤と組むわ、みたいな。
そんな信長だったら仕えたかったかもしれない。
現実は第六天魔王だけどね。
勘九郎様は殿の言葉で気合が入ったようで、キリリとしたいつもの顔に戻った。
「よし、お主ら準備はよいか?」
「いつでも」
「一番槍は某にお任せくだされ」
「勝三君、戦じゃないんだから。殺さないでね」
「わかっております」
勝三君もついに自分のことをそれがしとか言うようになってしまった。
もう本格的に勝三さんだな。
股ぐらに化け物を飼っているし。
「では、出陣!」
「「「おお!」」」
馬に乗った殿と勘九郎君、勝三さんは駆け出した。
俺達もその後を追う。
なんか青春って感じがしていいね。
あの世に行けなかった。
あのお方とは決して一緒になることのできない最悪の世に生き残ってしまった。
涙があふれて止まりません。
「姫様!姫様が目を覚ましました!!」
側で見守っていた側仕えの者がどこかへ走り去っていきます。
きっと私が目覚めたことを誰ぞに伝えるつもりなのでしょう。
私は責められるでしょうか。
この世では自害などは珍しくもないですが、このタイミングでの自害は意味が違ってきます。
私の心が、織田に向いていると判断されてもおかしくありません。
いっそ殺してくださればいいのに。
ドタバタと走って側仕えが戻ってきます。
一人の足音ではないので誰か連れてきたようですね。
お医者様でしょうか。
私は涙を袖で拭い、平静を装います。
「松、入ってもよいか?」
「お兄様でいらっしゃいましたか……どうぞ」
御簾を上げてお兄様が入ってきます。
お兄様といっても私には兄がたくさんおります。
入ってきたのは私の本当のお兄様、武田家の家臣である仁科家の当主となった同母兄です。
「松、なぜこんなことをしたんだ」
「ごめんなさい、お兄様。でも、私……」
「織田の嫡男のことが忘れられぬか?」
「はい……ごめんなさい」
「謝ることはない。人の心などは誰のものでもなく自分のもの。誰を好こうが構わんさ。だが、松にはここは居辛かろう。私と一緒に信濃の森城へ行こう。そこでゆるりと心の傷を癒せばよい。別の男を好きになるのもいい、織田の嫡男を想い続けるのでもいい」
「お兄様……」
「とにかく、松の怪我が大したことなくてよかった。これも神仏の御加護かもしれぬな」
兄の言葉で少し気が楽になった私は、短刀で突いたはずの喉を触ってみます。
膏薬のようなものが貼ってありますが、その下には傷も痛みも感じません。
意識が無くなる寸前短刀はかなり深く刺さったと思ったのですが、気のせいだったのでしょうか。
私はふいに視線を感じ、天井を見上げます。
一瞬でしたが、何か黒い影のようなものが見えた気がします。
私は目をこすってもう一度天井を見上げます。
何もいませんね。
世の中には不思議なことがあるものです。
ゴーストの報告によれば、松姫様は今現在移動中らしい。
松姫様はこれまで躑躅ヶ崎館という武田家のお屋敷で暮らしていたらしい。
武田と織田が敵同士になって松姫様の立場は微妙になり、家内ですったもんだしていた。
そこに今回の自害騒動があって、史実通りお兄さんの仁科盛信さんの住んでいる森城というところにお引越しすることにしたようだ。
森城は未来で言えば長野県大町市のあたり。
ほぼ富山だ。
現在は山梨と長野の県境である南アルプスのふもとあたりを移動中だそうだ。
ゴーストたちはダンジョン領域の中しか移動できないので、俺は南アルプスをダンジョンに取り込んだ。
けっこうダンジョンポイントを使ってしまったけれど、南アルプスはダンジョンポイントがそれなりにもらえる土地だったのでなんとか取り返せそうだ。
ついでに将来突然噴火することになる長野県と岐阜県の県境にある御嶽山にもサブコアを設置してダンジョン領域にしてみた。
そっちもそこそこポイントが入ってきている。
やはり火山や断層などの高エネルギー地帯は土地から吸収できるダンジョンポイントが多いようだ。
エネルギーの取り過ぎで温泉とか出なくなったらごめん、未来の人。
その代わり火山の噴火や地震も同時に無くなるかもしれないので許してほしい。
「この先に、松姫がおるのだな」
「ええ、俺の手の者(モヤ)が知らせてきました。この先の街道を集団でこちらに向かってきているそうです」
「そうか……」
俺達は貢物やら色々の箱を大八車に載せて引いてきているので、速度があまり出なかった。
しかしなんとか先回りしてここに陣取ることができたのだ。
どこの関所でも税金だとか言って荷物を奪おうとするから往生したが、全て目が眩むほどの金の力でなんとかしてきた。
あとは姫様を攫いに行くだけなのだが、肝心の勘九郎様は尻込みしているようだ。
ここは年長者として殿になんとかしてもらおう。
「殿、お願いします」
「3つしか違わんじゃろうが。まあいい。勘九郎様、武田家の奴らに言ってやればいいのですよ。その姫、いらんならワシにくれと」
「そんなことが言えるか!」
「なぜです?」
「なぜって、お主……」
「なんもかんも思う通りに行かん世の中です。好いた女くらいは、嫁にしたいと思って構わんのですよ。武田とか、織田とか、そこには関係ない。お父上が文句を言うのなら、斬って下克上すればいいのですよ。武田が文句を言うのなら、攻め滅ぼしてしまえばいいのですよ。それが侍というものです」
「侍……。そうか。そうだったな。父上なら確かにそうする。もっとも、父上が好きな女のために何かをするところは想像できぬがな」
信長もそういう可愛げがあればよかったと個人的には思うけど。
僕帰蝶のこと超好きなんで斉藤と組むわ、みたいな。
そんな信長だったら仕えたかったかもしれない。
現実は第六天魔王だけどね。
勘九郎様は殿の言葉で気合が入ったようで、キリリとしたいつもの顔に戻った。
「よし、お主ら準備はよいか?」
「いつでも」
「一番槍は某にお任せくだされ」
「勝三君、戦じゃないんだから。殺さないでね」
「わかっております」
勝三君もついに自分のことをそれがしとか言うようになってしまった。
もう本格的に勝三さんだな。
股ぐらに化け物を飼っているし。
「では、出陣!」
「「「おお!」」」
馬に乗った殿と勘九郎君、勝三さんは駆け出した。
俺達もその後を追う。
なんか青春って感じがしていいね。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる