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72.賊
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すみません、仁科盛信が高遠城の城主になるのはもっと後の話でしたので前話を修正いたしました。
今話でも向かっているのは森城になっております。
視点は松姫→主人公です
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以下本編
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駕籠に乗り込んですでに3日。
お兄様の居城である森城まではあと10日ほど、このまま駕籠に乗っていなければなりません。
揺れる駕籠に10日も座ったままなのは苦痛ですが、お兄様の申し出は正直助かりました。
今の武田本家は息が詰まりそうでしたから。
誰もが口を開けば徳川を倒すだの織田を滅ぼすだの。
徳川や織田と関わりがあったというだけで糾弾される毎日。
私の婚約者を決めたのは前ご当主であった父だというのに、織田家の嫡男の元婚約者だからという理由でなぜ私が責められねばならないのでしょうか。
私が本気で勘九郎様をお慕いしているのは事実ですが、それは私が自害をはかるまでは近しい者しか知らぬことだったはずです。
武田家内で私の立場が悪かったのは単純に織田の元婚約者だったから。
しかしそれを言うのならば現ご当主であらせられる四郎様だって、織田家から正室をもらっていたではありませんか。
病か暗殺かで亡くなってしまったようですが。
私は暗殺ではないかと思っております。
四郎様は織田がお嫌いなのです。
だから織田の嫡男の、勘九郎様の婚約者であった私のこともお嫌いなのでしょうね。
家臣たちは領地が欲しいのか徳川と織田を悪し様に罵り、四郎様の戦への意欲を高めているようです。
戦をして活躍すれば領地が増える。
誰もが欲望のために戦っているのですね。
本当に醜い。
まるで獣が餌を取り合って争っているようです。
そんなことのために利用されるほうの身にもなって欲しいです。
もはや武田は止まりませんね。
ですが私にはすでに関係の無いこと。
お兄様が連れ出してくださって本当に助かりました。
勘九郎様と決して結ばれる未来の無いこの世で、まだどう生きたらいいのか分かりませんが私だって好き好んで死にたいわけでもありません。
私にはお兄様を筆頭に、私のことを大切に思ってくださる方々がまだいらっしゃいます。
一時は気が昂ぶって喉を突いた私ですが、大切な人たちを悲しませてしまうのは本意ではないのです。
お兄様の話では仁科家の居城である森城は湖の畔に建つ風光明媚なお城らしいです。
他の男性に嫁ぐ気はしませんし、出家でもして勘九郎様のことを想って静かに余生を終えたいですね。
「なっ、なんだ貴様らは!」
「この大名行列は武田家家臣仁科五郎様の行列であるぞ!!」
なにやら外が騒がしいです。
少し怖いですが、私は駕籠の御簾を少しだけめくって外を見てみました。
そこには怪しげな黒装束の男たちが大挙しておりました。
なんということでしょうか。
刀や槍を持っており、見るからに賊です。
恐ろしくて私はすぐに御簾を下げて駕籠の中で縮こまりました。
こちらはお兄様が引き連れてきた100名ほどの兵が警備しているのみ。
賊は300はいるように見えました。
一度は死のうとした私ですが、今は死ぬのが恐ろしく思えます。
一度拾った命だからでしょうか。
運命というものがあるのならば、なぜ私とあのお方の運命を交わらせてはくれないのか。
神や仏がいるのならば、なぜこの世はこんなにも生きることが辛いのでしょうか。
余生を出家して過ごすつもりでしたが、私は神にも仏にも祈りたくありません。
祈るのならば、そうですね、天狗様にでも祈ります。
お願いします、どうかこの世をめちゃくちゃにしてください。
何もかもが間違っているこの世を、いっそのこと原型を留めないほどにめちゃくちゃにしてください。
私と勘九郎様が結ばれることなど些末なことと思えるほどに。
現実から逃避するかのごとき荒唐無稽な願いに、駕籠の中でひとり私は苦笑いを浮かべました。
「お、おい、伊右衛門、どうなっておる。私たちが襲う前に大名行列が襲われておるぞ!」
「そんなことワシに聞かれてもわかりませんよ。善次郎、どうなっておる?」
「いやぁ、俺もちょっとわからないですね。でも助けたほうがよくないですか?あの駕籠に松姫様が乗っているはずなんで」
「だが、結構数の差があるぞ?無理ではないか?」
「伊右衛門!なんとかせよ!!」
「だからワシに言われても無理なもんは無理ですよ!善次郎、なんとかせよ!」
はぁ、平社員は辛いね。
ていうかゴースト君、松姫様たちが襲われているなんて聞いてないよ。
こちらは武勇に優れる面々ではあるが、300の相手はさすがにきついかな。
松姫様たちの兵が100くらいだから、そちらに加勢すればいけなくはないか。
「賊の背後を突いて挟撃しましょうか。みんな、これを」
俺はガチャから出た爆竹と火のついた火縄を全員に配っていく。
これで敵を錯乱させつつ背後から突いて崩す作戦だ。
「火をつけて敵に投げると爆発して鉄砲みたいな音が出るので、敵が驚いているうちに倒してください」
「おう!行くぞ!!」
そんなわけで二度目の出陣。
俺達は敵の背後から回りこみ、急襲した。
「なっ、なんだ!」
弾ける爆竹、驚く賊。
爆竹は多少効果があったようだが、敵はすぐに体勢を立て直した。
襲ってきたのが10人ほどの集団ではそれほど威圧感は与えることができないか。
しかも体勢を立て直すのが早い。
戦闘訓練も受けているようだし、傭兵か忍かもしれない。
「おおぉぉぉっ、貴様ら勘九郎様の前に立ち塞がることは許さんぞぉっ!!」
勝三さんは馬上で槍をブンブンと振り回して敵を薙ぎ払う。
槍の扱いはもはや織田家でもトップクラスに上手いのではないだろうか。
おまけにあの体格だ。
すごい迫力だ。
俺達も負けていられない。
特攻する勝三さんに追随するように敵に突進していくのは慶次と善住坊さんだ。
「何者か知らんが、討ち取らせてもらうぜ」
「刀の錆になりたくなければ引くことだ」
慶次にあげた朱槍が敵を薙ぎ払い、剣術の極意を掴んだ善住坊さんが敵の首を切り飛ばす。
俺はちょっとついていけないので殿と勘九郎君の横でロケット花火でも撃ってるかな。
今話でも向かっているのは森城になっております。
視点は松姫→主人公です
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以下本編
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駕籠に乗り込んですでに3日。
お兄様の居城である森城まではあと10日ほど、このまま駕籠に乗っていなければなりません。
揺れる駕籠に10日も座ったままなのは苦痛ですが、お兄様の申し出は正直助かりました。
今の武田本家は息が詰まりそうでしたから。
誰もが口を開けば徳川を倒すだの織田を滅ぼすだの。
徳川や織田と関わりがあったというだけで糾弾される毎日。
私の婚約者を決めたのは前ご当主であった父だというのに、織田家の嫡男の元婚約者だからという理由でなぜ私が責められねばならないのでしょうか。
私が本気で勘九郎様をお慕いしているのは事実ですが、それは私が自害をはかるまでは近しい者しか知らぬことだったはずです。
武田家内で私の立場が悪かったのは単純に織田の元婚約者だったから。
しかしそれを言うのならば現ご当主であらせられる四郎様だって、織田家から正室をもらっていたではありませんか。
病か暗殺かで亡くなってしまったようですが。
私は暗殺ではないかと思っております。
四郎様は織田がお嫌いなのです。
だから織田の嫡男の、勘九郎様の婚約者であった私のこともお嫌いなのでしょうね。
家臣たちは領地が欲しいのか徳川と織田を悪し様に罵り、四郎様の戦への意欲を高めているようです。
戦をして活躍すれば領地が増える。
誰もが欲望のために戦っているのですね。
本当に醜い。
まるで獣が餌を取り合って争っているようです。
そんなことのために利用されるほうの身にもなって欲しいです。
もはや武田は止まりませんね。
ですが私にはすでに関係の無いこと。
お兄様が連れ出してくださって本当に助かりました。
勘九郎様と決して結ばれる未来の無いこの世で、まだどう生きたらいいのか分かりませんが私だって好き好んで死にたいわけでもありません。
私にはお兄様を筆頭に、私のことを大切に思ってくださる方々がまだいらっしゃいます。
一時は気が昂ぶって喉を突いた私ですが、大切な人たちを悲しませてしまうのは本意ではないのです。
お兄様の話では仁科家の居城である森城は湖の畔に建つ風光明媚なお城らしいです。
他の男性に嫁ぐ気はしませんし、出家でもして勘九郎様のことを想って静かに余生を終えたいですね。
「なっ、なんだ貴様らは!」
「この大名行列は武田家家臣仁科五郎様の行列であるぞ!!」
なにやら外が騒がしいです。
少し怖いですが、私は駕籠の御簾を少しだけめくって外を見てみました。
そこには怪しげな黒装束の男たちが大挙しておりました。
なんということでしょうか。
刀や槍を持っており、見るからに賊です。
恐ろしくて私はすぐに御簾を下げて駕籠の中で縮こまりました。
こちらはお兄様が引き連れてきた100名ほどの兵が警備しているのみ。
賊は300はいるように見えました。
一度は死のうとした私ですが、今は死ぬのが恐ろしく思えます。
一度拾った命だからでしょうか。
運命というものがあるのならば、なぜ私とあのお方の運命を交わらせてはくれないのか。
神や仏がいるのならば、なぜこの世はこんなにも生きることが辛いのでしょうか。
余生を出家して過ごすつもりでしたが、私は神にも仏にも祈りたくありません。
祈るのならば、そうですね、天狗様にでも祈ります。
お願いします、どうかこの世をめちゃくちゃにしてください。
何もかもが間違っているこの世を、いっそのこと原型を留めないほどにめちゃくちゃにしてください。
私と勘九郎様が結ばれることなど些末なことと思えるほどに。
現実から逃避するかのごとき荒唐無稽な願いに、駕籠の中でひとり私は苦笑いを浮かべました。
「お、おい、伊右衛門、どうなっておる。私たちが襲う前に大名行列が襲われておるぞ!」
「そんなことワシに聞かれてもわかりませんよ。善次郎、どうなっておる?」
「いやぁ、俺もちょっとわからないですね。でも助けたほうがよくないですか?あの駕籠に松姫様が乗っているはずなんで」
「だが、結構数の差があるぞ?無理ではないか?」
「伊右衛門!なんとかせよ!!」
「だからワシに言われても無理なもんは無理ですよ!善次郎、なんとかせよ!」
はぁ、平社員は辛いね。
ていうかゴースト君、松姫様たちが襲われているなんて聞いてないよ。
こちらは武勇に優れる面々ではあるが、300の相手はさすがにきついかな。
松姫様たちの兵が100くらいだから、そちらに加勢すればいけなくはないか。
「賊の背後を突いて挟撃しましょうか。みんな、これを」
俺はガチャから出た爆竹と火のついた火縄を全員に配っていく。
これで敵を錯乱させつつ背後から突いて崩す作戦だ。
「火をつけて敵に投げると爆発して鉄砲みたいな音が出るので、敵が驚いているうちに倒してください」
「おう!行くぞ!!」
そんなわけで二度目の出陣。
俺達は敵の背後から回りこみ、急襲した。
「なっ、なんだ!」
弾ける爆竹、驚く賊。
爆竹は多少効果があったようだが、敵はすぐに体勢を立て直した。
襲ってきたのが10人ほどの集団ではそれほど威圧感は与えることができないか。
しかも体勢を立て直すのが早い。
戦闘訓練も受けているようだし、傭兵か忍かもしれない。
「おおぉぉぉっ、貴様ら勘九郎様の前に立ち塞がることは許さんぞぉっ!!」
勝三さんは馬上で槍をブンブンと振り回して敵を薙ぎ払う。
槍の扱いはもはや織田家でもトップクラスに上手いのではないだろうか。
おまけにあの体格だ。
すごい迫力だ。
俺達も負けていられない。
特攻する勝三さんに追随するように敵に突進していくのは慶次と善住坊さんだ。
「何者か知らんが、討ち取らせてもらうぜ」
「刀の錆になりたくなければ引くことだ」
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