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73.松姫様と勘九郎君
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いけると思ったが、案外ダメだった。
いくら腕自慢揃いでも、100対300の戦いに参戦して覆せるほどではない。
「「「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」」」
肩で息をする俺たちと、それを囲む黒装束の男たち。
端的に言って、ピンチだ。
もはやなりふり構っていられる状況ではない。
俺は手信号でゴーストたちに指示を出す。
「ぐぁっ」
「な、なんだ、力が……」
「身体に力が入らない……」
「し、死ぬ……」
目の前で黒いモヤに纏わりつかれ、バタバタと倒れていく男たち。
今回は手加減の指示を出していない。
ゴーストたちは喜々として黒装束たちの生気を吸いつくしていく。
安らかな顔で死んでいく男たち。
「な、なんじゃこいつら、呪いでも貰っておったのか?」
「気味が悪いな。帰ったら私たちもお祓いを受けたほうが良いかもしれぬ」
「まあ結果的に助かったからよかったんじゃないですか?」
なるべく気にしない方向に話を持っていこうとする俺。
みんな疲れ果てていて、あまり細かいことを気にする余裕もないようで助かった。
「勘九郎様、早く姫のところに向かわないと」
「そ、そうじゃな。よし、付いて参れ」
勘九郎君はやはり一人では不安なようで、勝三さんを引き連れて姫の乗る駕籠に近づいていく。
その歩みは非常に遅い。
やきもきしながら見守る。
2分ほどかけて駕籠の近くまで行った勘九郎君。
なかなか声が出せない。
「私は武田家家臣、仁科盛信。助太刀感謝する」
「わ、私は……」
「勘九郎様、無理なようなら某が……」
「い、いや、大丈夫だ。黙って見ておれ」
なかなか名乗りを上げることができない勘九郎君を、勝三さんが甘やかそうとするが君のその優しさが勘九郎君をダメにするんだよ。
勘九郎君は史実の織田信忠なのだから、ちょっと突き放したほうがきっとうまくいく。
ポテンシャルだけは高いからね。
「勘九郎様!?今、勘九郎様と申しましたか!?」
「こ、こら松。出てきてはならぬ!」
勘九郎君がもたもたしすぎたせいで、松姫様のほうから出てきてしまった。
ちょっとカッコ悪い。
松姫様は意思の強そうな大きな瞳がチャーミングな可愛らしい姫君だった。
今にも零れ落ちてしまいそうなその大きな瞳は勘九郎君を真っ直ぐ見据えていた。
「ああ、ああ……一度もお会いしたことはありませんが、私にはわかります。あなた様が、勘九郎様なのですね」
「ま、松姫で、あらせられ……」
「勘九郎様!松は、松は、お会いしとうございました!!」
勘九郎君は棒立ちのまま、駕籠を降りた松姫に抱き着かれる。
ずいぶんと積極的な姫様だ。
今までの想いが爆発してしまったのかもしれないな。
「こ、こら、松!はしたないぞ!」
「良いのです、お兄様。私は今このひと時のためならば、死することをも恐れません。外聞などは二の次三の次でございます」
「し、しかし……その、まだ名乗りを聞いておらなんだが、本当に、織田家の?」
「あ、ああ。私が織田勘九郎信重だ」
「なぜこのような場所に?」
「家臣が節介焼きでな。好いた女と結ばれるのを諦めるなど男らしくないとか抜かしてな。松姫を貰い受けに来た」
俺も殿も男らしくないとまでは言ってない。
ただ我慢することもないと言っただけだ。
勘九郎君は松姫に抱き着かれて照れているのか、顔がどんどん赤くなっていく。
節介焼きの家臣は姫のお兄さんへの貢ぎ物でも用意しますかね。
街道の近くに隠してきた大八車を取りに向かう。
貢ぎ物は力づくで姫を奪っていったわけではないという軽い言い訳に過ぎないけれど、心証は全然変わってくるからね。
なぜだか襲撃を受けていたようだし、武田家内もかなり混沌としているようだ。
うまくいけば武田家の家臣をいくらかこちらに引き込むことができるかもしれない。
貢ぎ物はみんなで分けてもらおうかね。
ゴロゴロといくつもの大八車を手分けして押し、先ほどの場所まで戻った。
「ああ、松はなんという幸せ者なのでしょう。私の願いを聞き届けていただきありがとうございます天狗様」
戻ると松姫様がひとり異世界にトリップしていた。
天狗様とか口走っているし、ヤバイ薬でもキメたんじゃないだろうね。
ゴーストたちのほうを見て確認するも皆一様に首を傾げている。
何も知らないようだ。
武田家で天狗信仰でも流行っているのかもしれないな。
この時代の人は信心深いからね。
「松、とりあえず落ち着け。それから織田殿、このようなことをされても松を渡すことは出来かねます。織田と武田は敵同士なのですぞ?普通に考えて婚姻など無意味でしょう」
「無意味とはなんですかお兄様!」
「松、武家の婚姻の意味が分からぬお前ではあるまい?少し頭を冷やせ」
「うぅ……勘九郎様……私は……」
「松姫、わかっておる。私がなんとかしてみせよう。任せておけ。伊右衛門、なんとかせよ!!」
「善次郎、なんとかせよ」
そしてまたたらいまわしで俺のところにアバウトで無茶苦茶な命令が来るのか。
まあいい。
一応やってみるだけやってみて、無理なら攫って逃げればいいんだから。
「どうぞこちらを。結納品の数々でございます」
持ってきたのは基本の米などの穀物類、刀などの武器類、櫛や鏡などの女性が喜びそうな品々、金や銀でできた装飾品の数々、あとは俺の私物の箱4つ。
織田家レベルの家の結納品としては少ないかもしれないが、人数的にこのくらいしか持ってこられなかったのだ。
しかしガチャから出たものも多く、品質はどれも一級品。
質のレベルで言えば、この時代の人間には集められるレベルではない。
さあ、松姫様を織田家に売り渡してもらおうか。
そしてついでに武田家なんてさっさと辞表を提出して辞めるんだ。
織田家という再就職先が待っている。
ちょっとブラックだけど、アットホームでいい職場だよ。
いくら腕自慢揃いでも、100対300の戦いに参戦して覆せるほどではない。
「「「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」」」
肩で息をする俺たちと、それを囲む黒装束の男たち。
端的に言って、ピンチだ。
もはやなりふり構っていられる状況ではない。
俺は手信号でゴーストたちに指示を出す。
「ぐぁっ」
「な、なんだ、力が……」
「身体に力が入らない……」
「し、死ぬ……」
目の前で黒いモヤに纏わりつかれ、バタバタと倒れていく男たち。
今回は手加減の指示を出していない。
ゴーストたちは喜々として黒装束たちの生気を吸いつくしていく。
安らかな顔で死んでいく男たち。
「な、なんじゃこいつら、呪いでも貰っておったのか?」
「気味が悪いな。帰ったら私たちもお祓いを受けたほうが良いかもしれぬ」
「まあ結果的に助かったからよかったんじゃないですか?」
なるべく気にしない方向に話を持っていこうとする俺。
みんな疲れ果てていて、あまり細かいことを気にする余裕もないようで助かった。
「勘九郎様、早く姫のところに向かわないと」
「そ、そうじゃな。よし、付いて参れ」
勘九郎君はやはり一人では不安なようで、勝三さんを引き連れて姫の乗る駕籠に近づいていく。
その歩みは非常に遅い。
やきもきしながら見守る。
2分ほどかけて駕籠の近くまで行った勘九郎君。
なかなか声が出せない。
「私は武田家家臣、仁科盛信。助太刀感謝する」
「わ、私は……」
「勘九郎様、無理なようなら某が……」
「い、いや、大丈夫だ。黙って見ておれ」
なかなか名乗りを上げることができない勘九郎君を、勝三さんが甘やかそうとするが君のその優しさが勘九郎君をダメにするんだよ。
勘九郎君は史実の織田信忠なのだから、ちょっと突き放したほうがきっとうまくいく。
ポテンシャルだけは高いからね。
「勘九郎様!?今、勘九郎様と申しましたか!?」
「こ、こら松。出てきてはならぬ!」
勘九郎君がもたもたしすぎたせいで、松姫様のほうから出てきてしまった。
ちょっとカッコ悪い。
松姫様は意思の強そうな大きな瞳がチャーミングな可愛らしい姫君だった。
今にも零れ落ちてしまいそうなその大きな瞳は勘九郎君を真っ直ぐ見据えていた。
「ああ、ああ……一度もお会いしたことはありませんが、私にはわかります。あなた様が、勘九郎様なのですね」
「ま、松姫で、あらせられ……」
「勘九郎様!松は、松は、お会いしとうございました!!」
勘九郎君は棒立ちのまま、駕籠を降りた松姫に抱き着かれる。
ずいぶんと積極的な姫様だ。
今までの想いが爆発してしまったのかもしれないな。
「こ、こら、松!はしたないぞ!」
「良いのです、お兄様。私は今このひと時のためならば、死することをも恐れません。外聞などは二の次三の次でございます」
「し、しかし……その、まだ名乗りを聞いておらなんだが、本当に、織田家の?」
「あ、ああ。私が織田勘九郎信重だ」
「なぜこのような場所に?」
「家臣が節介焼きでな。好いた女と結ばれるのを諦めるなど男らしくないとか抜かしてな。松姫を貰い受けに来た」
俺も殿も男らしくないとまでは言ってない。
ただ我慢することもないと言っただけだ。
勘九郎君は松姫に抱き着かれて照れているのか、顔がどんどん赤くなっていく。
節介焼きの家臣は姫のお兄さんへの貢ぎ物でも用意しますかね。
街道の近くに隠してきた大八車を取りに向かう。
貢ぎ物は力づくで姫を奪っていったわけではないという軽い言い訳に過ぎないけれど、心証は全然変わってくるからね。
なぜだか襲撃を受けていたようだし、武田家内もかなり混沌としているようだ。
うまくいけば武田家の家臣をいくらかこちらに引き込むことができるかもしれない。
貢ぎ物はみんなで分けてもらおうかね。
ゴロゴロといくつもの大八車を手分けして押し、先ほどの場所まで戻った。
「ああ、松はなんという幸せ者なのでしょう。私の願いを聞き届けていただきありがとうございます天狗様」
戻ると松姫様がひとり異世界にトリップしていた。
天狗様とか口走っているし、ヤバイ薬でもキメたんじゃないだろうね。
ゴーストたちのほうを見て確認するも皆一様に首を傾げている。
何も知らないようだ。
武田家で天狗信仰でも流行っているのかもしれないな。
この時代の人は信心深いからね。
「松、とりあえず落ち着け。それから織田殿、このようなことをされても松を渡すことは出来かねます。織田と武田は敵同士なのですぞ?普通に考えて婚姻など無意味でしょう」
「無意味とはなんですかお兄様!」
「松、武家の婚姻の意味が分からぬお前ではあるまい?少し頭を冷やせ」
「うぅ……勘九郎様……私は……」
「松姫、わかっておる。私がなんとかしてみせよう。任せておけ。伊右衛門、なんとかせよ!!」
「善次郎、なんとかせよ」
そしてまたたらいまわしで俺のところにアバウトで無茶苦茶な命令が来るのか。
まあいい。
一応やってみるだけやってみて、無理なら攫って逃げればいいんだから。
「どうぞこちらを。結納品の数々でございます」
持ってきたのは基本の米などの穀物類、刀などの武器類、櫛や鏡などの女性が喜びそうな品々、金や銀でできた装飾品の数々、あとは俺の私物の箱4つ。
織田家レベルの家の結納品としては少ないかもしれないが、人数的にこのくらいしか持ってこられなかったのだ。
しかしガチャから出たものも多く、品質はどれも一級品。
質のレベルで言えば、この時代の人間には集められるレベルではない。
さあ、松姫様を織田家に売り渡してもらおうか。
そしてついでに武田家なんてさっさと辞表を提出して辞めるんだ。
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ちょっとブラックだけど、アットホームでいい職場だよ。
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