86 / 131
86.戦国飯マズ問題
しおりを挟む
まあ普通に考えて、焼きおにぎりだけで乱世が終わるはずがない。
武田勝頼に焼きおにぎりを食べさせてみても、おそらく織田を攻めることをやめてはくれないだろう。
さっきまで焚き火に当たりながら焼きおにぎりをはふはふと頬張っていた足軽たちも、さあ武田を殺すかとばかりに行軍を再開していった。
みんなさっきの優しい気持ちを思い出して欲しい。
おにぎりを持ってこられなかった人のために自分のおにぎりを千切って分けてあげたあの気持ちがあればきっと乱世を終わらせることができると思うんだ。
「うぉぉぉっ!武田の奴らを皆殺しにして出世してやるぅ!!」
ダメみたいだ。
まあ分かっていた。
結局のところ、飯をたくさん食べるには人を殺すのが一番手っ取り早いんだ。
その事実がこの時代を乱世にしている。
それを是正しない限りは、乱世は終わらない。
俺も殿と勘九郎君のもとへ急ぐとしよう。
適当に雪をかけて火を消し、誰もいなくなった街道でリアリティクラウドの雲に乗り込んだ。
空から眺める明智城。
その姿はどこにでもある田舎の山城といった感じの風貌だ。
多くの兵に包囲されている状況から察するに、まだ落ちていないようだ。
史実だと間に合わず明智城は落ちてしまったはずだが、どうやら史実よりも武田軍の数が少ないことが影響してまだ落ちていないらしい。
松姫様のお兄さんが武田にうまく金を回してくれたらしい。
調略といえば聞こえはいいけどね。
仁科さんには積極的に寝返ってくださいとは言ってない。
だけどこういう時に兵を出し渋ってくれるだけでもかなり助かるというものだ。
武田家の中ではちょっと居心地が悪くなるかもしれないけれど、裏切り者と謗られるまでのことは無いだろう。
仁科さん自身はそれほど兵を持っていないだろうから、史実よりも8千も兵力が低いのは他の武将にもそれとなく武田と距離を取ることを仁科さんが進言してくれたからだろう。
心ばかりの金と一緒に。
みんな織田に付くのは渋ると思うけれど、兵を出さずに利益が出るのならそちらに乗りたいと思うだろう。
武田家は当主が信玄から勝頼に代わったばかりで家臣たちが不安定だ。
まだ勝頼を見定めている状態なんだ。
だからこそ、このタイミングでの揺さぶりは結構大きな成果を出してくれたのだろう。
とりあえず、まだ明智城が落ちてないことを勘九郎君に伝えることにしよう。
信長、もっと急ぐかもな。
「はぁ、もう走るのは嫌だな」
ずっと雲に乗っていたい。
「なんとか間に合ったか。鉄砲隊、隊列を組め!!」
急ぎに急いだ信長は、武田軍に落とされる前に明智城に到着することに成功。
鉄砲を持った侍を大勢引き連れて背後から急襲。
武田軍7千を撃退した。
しかし岐阜を出たときに3万いた織田軍の軍勢もまた、1万にまで減っていた。
信長が急いで走りすぎたせいだ。
疲れ果てて気絶する足軽が続出。
街道には屍のように眠る足軽が大勢転がっていた。
武田が史実通り1万5千いたら勝てなかったんじゃないだろうか。
「大殿もご無理をなさる」
「それだけ明智城を取られるのが不味いことだったんだろう」
「そうですな」
なにはともあれ、今日は城で眠ることができそうでなによりだ。
この寒さで野営は辛いからね。
武田軍を撃退した俺達は、城に通されていた。
木っ端武士や足軽は寺に泊めてもらったり野営だったりするみたいだけど、その点俺達は勘九郎君の関係者なので城の中で寝泊りすることを許された。
やっぱり持つべきものはボンボンの主君だね。
俺達は鎧を脱ぎ、棒のようになってしまった足を解す。
「はぁ、疲れたの」
「善次郎、飴玉が食べたい」
「さっき大殿が全部持っていきましたよ」
「父上……」
信長の血糖値が少し心配になってくる今日この頃。
ただでさえ血圧高そうなのに、血糖値も高いとなると結構生活習慣病が怖い。
本能寺の変で死ななくてもその後生活習慣病でぽっくり逝ったらどうしようかな。
それはそれで天命なのかもしれないけど。
「しかしなんじゃの。贅沢を言うつもりはないのだが、飯が不味いな」
勘九郎君の言うとおり、この城の食事はあまり美味しくなかった。
信長の子息である勘九郎君に出す食事なのだから、おそらくこの城で出せる一番上等な食事なのだろう。
しかしここは美濃と信濃の境。
海からかなり離れた土地だ。
まず塩が何より高いのだろう。
塩味が薄く、苦味の強い根菜類の煮物が絶妙に食欲をそそらない。
「伊右衛門、なんとかならんか?」
「善次郎、なんとかならんか?わらび餅だってあんなに美味くなっただろう?そうだ、砂糖でもぶち込んだら……」
「それはやめてください」
危険すぎる。
殿には砂糖を持たせられないな。
世の中にはご飯に砂糖をかけて食べる猛者もいるようだけど、あれは特殊な味覚を持っていなければ見えない世界だ。
俺達はまだ修行が足りてないから無理なんだ。
おはぎは美味しいと思うけど、だからといってあんこをご飯に乗せたらおはぎになるわけではないだろう。
それをおはぎと同じだと言い張れる人というのは、足りない分を想像の力で補うことに長けた人なのだ。
「しょうがないですね。これはまだ量が少ないからあまり教えたくなかったのですが」
俺は荷物の中から小さな壺を取り出す。
「なんだそれは」
「また黒い液体ではないか。お主は黒いものが好きなのか?」
「これは同じような見た目でも、黒蜜とは正反対の味ですよ」
塩と豆、微生物が起こした奇跡。
これぞ刀に代わる未来の日本人の魂。
俺が取り出したのは、しょうゆだ。
武田勝頼に焼きおにぎりを食べさせてみても、おそらく織田を攻めることをやめてはくれないだろう。
さっきまで焚き火に当たりながら焼きおにぎりをはふはふと頬張っていた足軽たちも、さあ武田を殺すかとばかりに行軍を再開していった。
みんなさっきの優しい気持ちを思い出して欲しい。
おにぎりを持ってこられなかった人のために自分のおにぎりを千切って分けてあげたあの気持ちがあればきっと乱世を終わらせることができると思うんだ。
「うぉぉぉっ!武田の奴らを皆殺しにして出世してやるぅ!!」
ダメみたいだ。
まあ分かっていた。
結局のところ、飯をたくさん食べるには人を殺すのが一番手っ取り早いんだ。
その事実がこの時代を乱世にしている。
それを是正しない限りは、乱世は終わらない。
俺も殿と勘九郎君のもとへ急ぐとしよう。
適当に雪をかけて火を消し、誰もいなくなった街道でリアリティクラウドの雲に乗り込んだ。
空から眺める明智城。
その姿はどこにでもある田舎の山城といった感じの風貌だ。
多くの兵に包囲されている状況から察するに、まだ落ちていないようだ。
史実だと間に合わず明智城は落ちてしまったはずだが、どうやら史実よりも武田軍の数が少ないことが影響してまだ落ちていないらしい。
松姫様のお兄さんが武田にうまく金を回してくれたらしい。
調略といえば聞こえはいいけどね。
仁科さんには積極的に寝返ってくださいとは言ってない。
だけどこういう時に兵を出し渋ってくれるだけでもかなり助かるというものだ。
武田家の中ではちょっと居心地が悪くなるかもしれないけれど、裏切り者と謗られるまでのことは無いだろう。
仁科さん自身はそれほど兵を持っていないだろうから、史実よりも8千も兵力が低いのは他の武将にもそれとなく武田と距離を取ることを仁科さんが進言してくれたからだろう。
心ばかりの金と一緒に。
みんな織田に付くのは渋ると思うけれど、兵を出さずに利益が出るのならそちらに乗りたいと思うだろう。
武田家は当主が信玄から勝頼に代わったばかりで家臣たちが不安定だ。
まだ勝頼を見定めている状態なんだ。
だからこそ、このタイミングでの揺さぶりは結構大きな成果を出してくれたのだろう。
とりあえず、まだ明智城が落ちてないことを勘九郎君に伝えることにしよう。
信長、もっと急ぐかもな。
「はぁ、もう走るのは嫌だな」
ずっと雲に乗っていたい。
「なんとか間に合ったか。鉄砲隊、隊列を組め!!」
急ぎに急いだ信長は、武田軍に落とされる前に明智城に到着することに成功。
鉄砲を持った侍を大勢引き連れて背後から急襲。
武田軍7千を撃退した。
しかし岐阜を出たときに3万いた織田軍の軍勢もまた、1万にまで減っていた。
信長が急いで走りすぎたせいだ。
疲れ果てて気絶する足軽が続出。
街道には屍のように眠る足軽が大勢転がっていた。
武田が史実通り1万5千いたら勝てなかったんじゃないだろうか。
「大殿もご無理をなさる」
「それだけ明智城を取られるのが不味いことだったんだろう」
「そうですな」
なにはともあれ、今日は城で眠ることができそうでなによりだ。
この寒さで野営は辛いからね。
武田軍を撃退した俺達は、城に通されていた。
木っ端武士や足軽は寺に泊めてもらったり野営だったりするみたいだけど、その点俺達は勘九郎君の関係者なので城の中で寝泊りすることを許された。
やっぱり持つべきものはボンボンの主君だね。
俺達は鎧を脱ぎ、棒のようになってしまった足を解す。
「はぁ、疲れたの」
「善次郎、飴玉が食べたい」
「さっき大殿が全部持っていきましたよ」
「父上……」
信長の血糖値が少し心配になってくる今日この頃。
ただでさえ血圧高そうなのに、血糖値も高いとなると結構生活習慣病が怖い。
本能寺の変で死ななくてもその後生活習慣病でぽっくり逝ったらどうしようかな。
それはそれで天命なのかもしれないけど。
「しかしなんじゃの。贅沢を言うつもりはないのだが、飯が不味いな」
勘九郎君の言うとおり、この城の食事はあまり美味しくなかった。
信長の子息である勘九郎君に出す食事なのだから、おそらくこの城で出せる一番上等な食事なのだろう。
しかしここは美濃と信濃の境。
海からかなり離れた土地だ。
まず塩が何より高いのだろう。
塩味が薄く、苦味の強い根菜類の煮物が絶妙に食欲をそそらない。
「伊右衛門、なんとかならんか?」
「善次郎、なんとかならんか?わらび餅だってあんなに美味くなっただろう?そうだ、砂糖でもぶち込んだら……」
「それはやめてください」
危険すぎる。
殿には砂糖を持たせられないな。
世の中にはご飯に砂糖をかけて食べる猛者もいるようだけど、あれは特殊な味覚を持っていなければ見えない世界だ。
俺達はまだ修行が足りてないから無理なんだ。
おはぎは美味しいと思うけど、だからといってあんこをご飯に乗せたらおはぎになるわけではないだろう。
それをおはぎと同じだと言い張れる人というのは、足りない分を想像の力で補うことに長けた人なのだ。
「しょうがないですね。これはまだ量が少ないからあまり教えたくなかったのですが」
俺は荷物の中から小さな壺を取り出す。
「なんだそれは」
「また黒い液体ではないか。お主は黒いものが好きなのか?」
「これは同じような見た目でも、黒蜜とは正反対の味ですよ」
塩と豆、微生物が起こした奇跡。
これぞ刀に代わる未来の日本人の魂。
俺が取り出したのは、しょうゆだ。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる