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5.奴隷と武器屋

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 当然だけど、女の子の奴隷は高かった。
 それも護衛もできて夜の相手もできるような強くて美人の奴隷なんて目が飛び出るほど高い。
 元冒険者なんていう人は安いほうで、元女騎士だったりエルフだったりするともう僕の全財産では代金の1割にも満たないくらいだ。
 
「はぁ、女の子の奴隷は無理か……」

「一般ランクの性奴隷でしたらお客様のご予算でも買えると思いますが」

 奴隷商人のおじさんはそう言って女の子の奴隷を数人連れてくる。
 だけどこの子たちは全員戦う力がないんだよね。
 そうなると余計に危険が増えるだけだ。
 奴隷は財産だ。
 目立つ財産が増え、それを守る力がない僕はきっとそのうち路地裏で死体となって見つかることだろう。
 ここは日本とは違う。
 自分の財産は自分で守らなければならないのだ。
 だから戦う力のない女の子の奴隷を買うわけにはいかない。
 残念ながらね。
 物語の主人公とかだったらそもそも自分が強いから奴隷に守ってもらわなくてもいいだろうし、都合よく凄い回復魔法とかを使えて大怪我した奴隷を癒してめっちゃ感謝されたりするんだろうけどな。
 その手法はとても効率的だとは思う。
 後遺症が残るレベルの大怪我をあっという間に治してくれたらそりゃあどんな反抗的な奴隷も感謝感激でデレデレになるよ。
 崇拝するよ。
 だけど僕にはそんな都合よく奴隷を癒すような力はない。
 あるのはアイテムをコピーする力だけだ。
 今は護衛のための男奴隷だけで我慢しておこう。
 今はね。
 この借りはいつか返すぞ物語の主人公め。

「ということで男でもいいから戦える奴隷で安いのを」

「かしこまりました」

 奴隷商人が連れてきたのは体中に傷がある隻腕のいかついおじさん奴隷だった。
 え、さっきのフラグだったの?

「あんたが俺のご主人様か。よろしく頼むぜ」

「この男は元Aランク冒険者でございます。しかしダンジョンの探索中に大怪我を負い、左腕を切断。足にも後遺症の残る傷を負っております。元の実力はいずれSランクに上がると確信されるほどでしたので怪我が無ければ金貨500枚くらいは頂きたいのですが、このとおりの怪我ですから代金は金貨25枚となっております」

 お買い得、なのかな。
 片腕で足も少し引き摺っているけれど、それでも僕よりは絶対強い。
 元Aランクの冒険者ということだし、今でもそのへんのゴロツキ相手には負けないだろう。

「わかりました。買います」

「ありがとうございます」

 フラグを回収するにはこの人の怪我を治さないといけないのだろうか。






「僕を護衛するとして、何が必要?」

「そもそもなんで護衛が必要なんだ?ご主人様はよ」

「ご主人様はやめてよ。僕の名前はレンだ」
 
 この国では家名のある人っていうのは限られるみたいだし、名前だけ名乗っておけばいい。
 僕はそもそも苗字が嫌いだしね。
 父が死んでから僕の苗字は母の旧姓になった。
 きっと僕はもう母の旧姓を名乗ることはないだろう。
 もし家名を名乗るとしても父の性を名乗る。

「わかったぜ、レン坊ちゃん」

 正直坊ちゃんは微妙だけどまあこの人から見たら僕は坊ちゃんって歳かな。
 あまりあれこれ指図するのは好きじゃないし、ご主人様と呼ばれるよりはマシなので放っておこう。
 ご主人様と呼んでいいのは美少女奴隷だけだ。

「俺はザックス。聞いてるだろうが元冒険者だ。まあヘマやって奴隷落ちしたドジなおっさんだよ。今でもそんじょそこらの奴には負ける気はしねえが、状況によっちゃあ坊ちゃんを守り切るのは難しい。軽い事情だけでも聞かせちゃあくれねえか?」

「状況は単純だよ。僕はとある事情から小金を手に入れたんだ。奴隷をポンと買っても余るくらいの額だよ。用心のために奴隷を買ったんだ」

 本当は童貞を卒業することのできる美人な女奴隷がよかったんだけどね。
 だって物語の中では主人公がいとも簡単に女奴隷を買っている。
 僕だって簡単に買えると思ったんだ。
 でも現実は残酷だ。
 ザックスは悪い人ではないけれど、いかついおっさんであるという事実は変えることができない。

「なるほど。特定の人物や組織に目を付けられているわけじゃねえんだよな」

「街を入るときにお金を手に入れたところを怪しい男に見られた。でも街に入って宿に10日くらい籠って今日宿から出ても特になにも起こらなかった」

「状況はわかったぜ。街に入るときに見られたのはおそらく裏町の奴だな。あいつら門でカモになりそうな奴をよく探してやがるからな。まあ10日も宿に籠ったならもう諦めてるだろ。だが、まあ用心するに越したことはねえな。まずは服から変えたほうがいいと思うぜ。坊ちゃんの着てる服は目立ちすぎる。見るからに上質な布でできてやがるし、どこ行ってもカモにされるぜ」

 なるほど、服か。
 そういえばミーシャちゃんにも珍しい服だと言われた気がする。
 制服は余所行きにして、普段着を買うとしよう。

「それから俺の武器が欲しいな。隻腕になっちまったが、丸腰よりかは役に立てると思うぜ」

 護衛もいることだし、異世界で初めての買い物といこうか。







「ザックスは武器は何を使うの?」

「短剣を使う。あとは投げナイフとかだな」

 本来手の内というのは人には話さないものだ。
 しかし今のザックスは僕の奴隷。
 契約魔法で縛られているために僕はザックスを生かすも殺すも自由だ。
 そんな対等とは言い難い関係で僕のことを警戒するのは無意味だと思ったのか、ザックスはペラペラと戦闘スタイルを教えてくれた。
 以前のザックスは両手に短剣を持って戦う小太刀二刀流みたいなスタイルだったようだ。
 投げナイフなどの投擲武器も得意だという。
 いかつい見た目なので剣と呼ぶにはあまりに大きすぎたとかナレーションが入るような大剣でも使うのかと思っていたけれど、意外なことにザックスはゲームのジョブで言うところのシーフやレンジャーのようなタイプだった。
 ザックスはソロの冒険者で、一人でダンジョンに潜るにはそのスタイルが一番効率がよかったようだ。
 効率厨か、僕はネトゲではネタキャラエンジョイ勢だからちょっと気が合いそうにないな。
 ぼっちなところは共通しているけれど。
 
「短剣はまあまあの業物でも長剣より安いからそこもメリットだな」

「なるほど。確かに安いかも」

 ザックスの馴染みだという武器屋に到着した僕たちは、さっそく武器を選ぶ。
 この店の目玉商品は長剣だ。
 おそらくどこの武器屋でもそうなのだろう。
 短剣は使う鋼材も長剣より少ないし、サブ武器扱いだから少しだけ値段が安い。
 僕はこの店で一番高い鋼鉄製の短剣を2本と、投擲武器をあるだけ買った。

「坊ちゃん、すまねえが俺は腕がこれだからよ。短剣は1本でいいぜ?」

「いや、1本は僕が使おうと思ってね。少しは戦えたほうがいいでしょ」

 もちろん嘘だ。
 僕は自分で戦うつもりはこれっぽっちもない。
 付け焼刃の武術ほど怖いものはない。
 そんなことをするならば銃みたいに引き金を引くだけの武器とかを探したほうがまだいい。
 この短剣はザックスの腕が治ったとき用だ。
 僕はフラグは放っておかないタイプなんだ。

「なるほどな。そういうことなら今度戦い方を教えてやるよ」

 やめろ。
 僕は部活の朝練がこの世で一番嫌いなタイプなんだ。



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