25 / 50
25.聖水まみれ
しおりを挟む
朝になり、僕たちがやってきたのは教会だ。
アストラル系のモンスターの浄化技術を牛耳り、がめつくお金を稼いでいるという噂の教会。
孤児院などの慈善事業にもお金を使うことで少しは世間の声も落ち着いているようだが、やはりどこかお金の匂いのする団体だ。
迷宮都市の中心地、ダンジョンからもほど近い場所に建つ荘厳な建物。
金や銀などの目に痛い装飾は外装には見当たらないものの、大きなステンドグラスや高級感漂う建具などから相当な金がかかっていることが伺える。
僕の中で教会は完全にベンツに乗ったお坊さんのイメージとなった。
飴色に磨かれたマホガニーのような材質の扉にできるだけ手の脂をこびりつけるように触れ、押し開ける。
中にはすでに祈りを捧げる信者の人が何人かいた。
朝も早いというのに熱心な信者だ。
奥で教会の掃除をしていた修道服の女の人に話しかける。
シスターだろうか。
「すみません、聖水が欲しいのですが」
「はい、聖水ですね。グレードはどうなさいますか?」
どうやら聖水と言っても効力によってグレードがあるようだ。
みんながみんな高い聖水を買えるとは限らない。
自分の懐具合によって買う聖水のグレードを選べるようになっているのか。
商売上手だな。
「一番効力の高いものをください」
「ではS1ランクの聖水ですね。この小瓶1本で金貨5枚になります」
シスターが神像の下の収納スペースから取り出してきた聖水は、栄養ドリンクくらいの大きさの小瓶だった。
大体100ミリリットルくらいだろうか。
こんな量で金貨が5枚も必要になるなんて。
日本円にして700万円以上だ。
アイドルの飲みかけのドリンクでもそんなにしないだろう。
なんてぼったくり価格だ。
だけどこれが無いと僕は毎日金縛りと片頭痛に苦しめられることになる。
まだ霊障は僕だけのようだけれど、これからは2階や3階で生活する奴隷たちにも被害が及ぶ可能性がある。
早めになんとかしておかなくては。
「わかりました。1本ください」
「ありがとうございます。あなたにはきっと神のご加護があるでしょう」
「はぁ……」
すでにこの世界の言葉がわかる時点で神様のご加護を授かっていると思うのだけれどね。
僕はニコニコ顔のシスターに金貨5枚を渡して家に帰った。
まず、液体を入れるための容器を10個用意します。
10個とも入る量が違います。
1個目は200ミリリットルの液体が入るくらいの容量の容器。
2個目は400ミリリットルの液体が入るくらいの容器、というような感じに倍々で入る容量を増やす。
あとはコピーした聖水をどんどん大きな容器に移していくだけ。
あっという間に1日のスキル使用回数を使い切り、100リットル近い聖水ができた。
できた聖水をもう一度小瓶に移し、奴隷全員に配った。
まだ聖水の量が足りないので今日は応急処置のようなものだ。
レイスが出たら聖水を迷わず使うように言い含め、床に就く。
そして昨日と同じように頭痛。
今日もまた、レイスは僕のところに出たのだった。
しかし今日の僕は昨日の僕とは違う。
手に握り込んでいたのはつまみを捻ると強い光が出るという魔道具屋で買った有象無象の魔道具のうちの一つだ。
レイスは光に弱い。
昼に出てこないのはそのためだ。
浄化することはできないまでも、怯ませることはできた。
レイスが離れたために僕は金縛りから解放される。
サイドテーブルの上に置いてあった聖水の小瓶の栓を抜き、レイスに向かって振りかけた。
『!”#$%&』
「ぐっ」
黒板を爪でひっかいたような音が頭の中に直接響き、意識が持って行かれそうになった。
レイスは消えたようだけど、また明日になれば僕を金縛りにすることだろう。
なんていう迷惑なモンスターなんだ。
次の日、スキル使用回数が回復したのでまた聖水をコピーする。
昨日の最後に聖水を注いだ100リットルくらい入る大きな水瓶が街で調達できる一番大きな容器だったので今日はそれを何度かコピーするだけだ。
5回コピーしたあたりでやめておく。
100リットルはまたレイスが出たときのためにとっておくとして、約500リットルの聖水を確保することができた。
教会の販売価格に換算すると約金貨25000枚分、日本円にして300億は軽く超えている。
教会はこれを売って莫大な金を稼いでいるというのだからぼろい商売だ。
効力がしょぼかったら教会にクレームを言いにいってやる。
さて、屋敷の大掃除といこうか。
僕は奴隷たちに屋敷の掃除に聖水を使うように指示を出す。
庭の掃除にも聖水。
観葉植物への水やりも聖水。
飲んでも問題ないそうなので飲み水も聖水。
顔を洗う水も聖水。
トイレを流す水も聖水。
さすがにお風呂の水には足らないので聖水を薄めたもの。
僕は屋敷中を聖水だらけにしていった。
あちこちで女性の悲鳴のような声が聞こえてくる。
どうやらS1ランクの聖水は高いだけあってちゃんと効いているようだ。
屋敷の中がなんとなく清々しい空気に変わっていくのがわかる。
渦巻く成金氏の怨念が晴れてレイスたちが浄化されているのだろう。
僕はうろ覚えの念仏を唱えて成仏を祈る。
こういうのは気持ちが大事なんだよ。
ぶつぶつと一人で読経する僕の前に、昨日一昨日と現れた7歳くらいの女の子が現れる。
身体が透けていて表情は見えないけれど、僕には泣いているように見えた。
ずっと、苦しみ続けてきたんだね。
もう眠ってくれ。
僕は女の子の霊に大量の聖水を浴びせた。
『がっ、あっ、あり、ありがとう……』
「どういたしまして」
安らかに、南無妙法蓮華経。
ちなみに僕は学会員ではない。
日蓮宗だ。
アストラル系のモンスターの浄化技術を牛耳り、がめつくお金を稼いでいるという噂の教会。
孤児院などの慈善事業にもお金を使うことで少しは世間の声も落ち着いているようだが、やはりどこかお金の匂いのする団体だ。
迷宮都市の中心地、ダンジョンからもほど近い場所に建つ荘厳な建物。
金や銀などの目に痛い装飾は外装には見当たらないものの、大きなステンドグラスや高級感漂う建具などから相当な金がかかっていることが伺える。
僕の中で教会は完全にベンツに乗ったお坊さんのイメージとなった。
飴色に磨かれたマホガニーのような材質の扉にできるだけ手の脂をこびりつけるように触れ、押し開ける。
中にはすでに祈りを捧げる信者の人が何人かいた。
朝も早いというのに熱心な信者だ。
奥で教会の掃除をしていた修道服の女の人に話しかける。
シスターだろうか。
「すみません、聖水が欲しいのですが」
「はい、聖水ですね。グレードはどうなさいますか?」
どうやら聖水と言っても効力によってグレードがあるようだ。
みんながみんな高い聖水を買えるとは限らない。
自分の懐具合によって買う聖水のグレードを選べるようになっているのか。
商売上手だな。
「一番効力の高いものをください」
「ではS1ランクの聖水ですね。この小瓶1本で金貨5枚になります」
シスターが神像の下の収納スペースから取り出してきた聖水は、栄養ドリンクくらいの大きさの小瓶だった。
大体100ミリリットルくらいだろうか。
こんな量で金貨が5枚も必要になるなんて。
日本円にして700万円以上だ。
アイドルの飲みかけのドリンクでもそんなにしないだろう。
なんてぼったくり価格だ。
だけどこれが無いと僕は毎日金縛りと片頭痛に苦しめられることになる。
まだ霊障は僕だけのようだけれど、これからは2階や3階で生活する奴隷たちにも被害が及ぶ可能性がある。
早めになんとかしておかなくては。
「わかりました。1本ください」
「ありがとうございます。あなたにはきっと神のご加護があるでしょう」
「はぁ……」
すでにこの世界の言葉がわかる時点で神様のご加護を授かっていると思うのだけれどね。
僕はニコニコ顔のシスターに金貨5枚を渡して家に帰った。
まず、液体を入れるための容器を10個用意します。
10個とも入る量が違います。
1個目は200ミリリットルの液体が入るくらいの容量の容器。
2個目は400ミリリットルの液体が入るくらいの容器、というような感じに倍々で入る容量を増やす。
あとはコピーした聖水をどんどん大きな容器に移していくだけ。
あっという間に1日のスキル使用回数を使い切り、100リットル近い聖水ができた。
できた聖水をもう一度小瓶に移し、奴隷全員に配った。
まだ聖水の量が足りないので今日は応急処置のようなものだ。
レイスが出たら聖水を迷わず使うように言い含め、床に就く。
そして昨日と同じように頭痛。
今日もまた、レイスは僕のところに出たのだった。
しかし今日の僕は昨日の僕とは違う。
手に握り込んでいたのはつまみを捻ると強い光が出るという魔道具屋で買った有象無象の魔道具のうちの一つだ。
レイスは光に弱い。
昼に出てこないのはそのためだ。
浄化することはできないまでも、怯ませることはできた。
レイスが離れたために僕は金縛りから解放される。
サイドテーブルの上に置いてあった聖水の小瓶の栓を抜き、レイスに向かって振りかけた。
『!”#$%&』
「ぐっ」
黒板を爪でひっかいたような音が頭の中に直接響き、意識が持って行かれそうになった。
レイスは消えたようだけど、また明日になれば僕を金縛りにすることだろう。
なんていう迷惑なモンスターなんだ。
次の日、スキル使用回数が回復したのでまた聖水をコピーする。
昨日の最後に聖水を注いだ100リットルくらい入る大きな水瓶が街で調達できる一番大きな容器だったので今日はそれを何度かコピーするだけだ。
5回コピーしたあたりでやめておく。
100リットルはまたレイスが出たときのためにとっておくとして、約500リットルの聖水を確保することができた。
教会の販売価格に換算すると約金貨25000枚分、日本円にして300億は軽く超えている。
教会はこれを売って莫大な金を稼いでいるというのだからぼろい商売だ。
効力がしょぼかったら教会にクレームを言いにいってやる。
さて、屋敷の大掃除といこうか。
僕は奴隷たちに屋敷の掃除に聖水を使うように指示を出す。
庭の掃除にも聖水。
観葉植物への水やりも聖水。
飲んでも問題ないそうなので飲み水も聖水。
顔を洗う水も聖水。
トイレを流す水も聖水。
さすがにお風呂の水には足らないので聖水を薄めたもの。
僕は屋敷中を聖水だらけにしていった。
あちこちで女性の悲鳴のような声が聞こえてくる。
どうやらS1ランクの聖水は高いだけあってちゃんと効いているようだ。
屋敷の中がなんとなく清々しい空気に変わっていくのがわかる。
渦巻く成金氏の怨念が晴れてレイスたちが浄化されているのだろう。
僕はうろ覚えの念仏を唱えて成仏を祈る。
こういうのは気持ちが大事なんだよ。
ぶつぶつと一人で読経する僕の前に、昨日一昨日と現れた7歳くらいの女の子が現れる。
身体が透けていて表情は見えないけれど、僕には泣いているように見えた。
ずっと、苦しみ続けてきたんだね。
もう眠ってくれ。
僕は女の子の霊に大量の聖水を浴びせた。
『がっ、あっ、あり、ありがとう……』
「どういたしまして」
安らかに、南無妙法蓮華経。
ちなみに僕は学会員ではない。
日蓮宗だ。
23
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる