スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉

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35.老夫婦の事情

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 僕の屋敷に移動して、2人に話を聞くこととなった。
 そして老夫婦の口から語られたのは予想どおりヘビーな内容だった。
 老夫婦は落ち着いた上品な身なりからもわかるように、貴族だった。
 それも侯爵家という上から数えたほうが早いくらい位の高い貴族家のご隠居夫婦だ。
 隠居した身と言ってもまだまだ家内での権力は絶大。
 旦那さんは国の要職を長年務めていたこともあり王宮への権力もバリバリだそうだ。
 そんなわけなので次の王を決めるための跡目争いなんかにも強制参加させられている。
 担ぐ神輿を決めたのは現当主であるこの夫妻の息子さんだけれど、その息子さんというのが優しい青年なのだがいかんせん人を見る目が無かった。
 あまり良くない感じの王子の派閥に属してしまったことで、侯爵家の行く末には暗雲が立ち込めることとなった。
 王子からはお金の無心や横暴な命令がたくさん来た。
 まだ10歳の孫娘を妾にしてやると言われたときにはさすがにハラワタが煮えくり返ったけれど、なんとか耐えてのらりくらりと躱してきたのだそうだ。
 しかし王子の横暴はどんどんエスカレートするばかり。
 耐えかねた現当主の息子さんは陣営を鞍替えすることに。
 しかし人を見る目が無いことに定評のある息子さんだ。
 次に付こうとしていた陣営も結構クズだった。
 それまで付いていた陣営を裏切って自分たちに付くのならば、その証として王子に毒を盛れと言われたそうだ。
 そして息子さんはそれを本当に実行した。
 王子は息子さんが毒を入れた飲み物を飲み、床に伏した。
 2週間くらいの時間をかけてじわじわと死ぬような毒だったそうだ。
 もちろん王子に毒を盛れる人物などは限られていたので息子さんも犯人ではないかと疑われた。
 しかしクズ王子には誰が毒を入れたのかなんていうことは興味がなかった。
 自分が死を回避するためにはどうすればいいのか。
 というか自分が毒を盛られた時点で全員連帯責任だと、王子はそう言ったそうだ。
 そして王子は自分の側近全員の大切な人に同じ毒を飲ませた。
 10歳になる夫妻の最愛の孫娘にもその残酷な毒が飲まされたそうだ。
 大切な人を死なせたくなければその毒を無効化することのできる解毒薬を持ってくるようにと命じたのだ。

「我々にはその薬がなんとしても必要なのです。お願いします。譲ってください」

 夫妻は僕の前に土下座して頭を下げた。
 王子クズすぎるとか、戦犯息子とか、色々言いたいことはあるけれどもね。
 エリクサーはすでにコピー済みなので別に譲ってあげても構わない。
 しかし仮にもオークションという仕組みがあるのだから、そのルールを破るということに対してなんらかの誠意は欲しいものだ。
 貴族だからとか、土下座したからとか、可哀そうだからとかそういう理由でルールを捻じ曲げていてはこの世の中は回っていかない。
 何が言いたいのかと言えば、なんかちょうだい。

「我々に出せるお金は金貨4600枚が限界ですが、金銭以外でも差し出せる物はなんでも差し出します。なにとぞお願いします!」

 差し出せる物というと具体的に何になるのかな。
 後ろ盾とか、そういうふんわりとした物はいらない。
 クズ王子に抗えない程度の権力では僕を守れるとは思えないからね。
 あとこの侯爵家は現当主である息子さんが致命的に不安材料だ。
 何か明確なアイテムが欲しいところだね。

「価値のあるアイテムはあらかた処分してしまって、もうこのようなありふれたアイテムしか我々には……」

 処分可能資産のリストを見せてもらう。
 かなり横線が引かれていて、相当なアイテムを売り払って金貨4600枚というお金を作ったことが伺える。
 とりあえず歴史的な価値くらいしか無さそうな家宝の類はいらない。
 古臭いだけの剣とか盾とかもらっても仕方がないからね。
 2つ、気になるアイテムがあった。

「この、スキル強化の神印っていうのと歩兵携行型プラズマキャノンっていうのが欲しい」

「プラズマキャノンはともかく、スキル強化の神印はそれほど珍しい物ではありませんが……」

 話を聞くと、貴族家ならば大体の家にあるようなアイテムらしい。
 王家が管理している王都近郊のダンジョンの宝箱からは残念賞のごとくそれが出るので、売ってもそんなに高くは売れない。
 強化率も1割増くらいで実感できるほどの変化はないとのこと。
 しかし1割も強化されるのであれば十分だ。
 僕のスキルが1割強化されるとすれば、現在1日10回のスキル使用回数が11回になるということだ。
 10日で10回、100日で100回、1年では365回もスキル使用回数に差が出てきてしまう。
 とても有用なアイテムだ。
 そして歩兵携行型プラズマキャノン、これはなんだ。

「歩兵携行型プラズマキャノンは我が家の切り札ですが、孫娘の命に比べれば惜しくはありません。申し訳ありませんが残弾は1発のみとなっております」

 どうやら相当威力の高い武器のようだ。
 拳銃やスナイパーライフル、鰹節やお面がダンジョンの宝箱から出てきたことから、地球にもダンジョンがあるのかもしれないと思った。
 しかしもしかしたら、ダンジョンがあるのは僕の知っている地球ではないのかもしれない。
 僕の知っている地球には歩兵携行型プラズマキャノンという武器は実在していなかったはずだ。
 そんなものがあるとすれば、それはパラレルワールドの地球や未来の地球だ。
 ダンジョンがある世界線の地球、ダンジョンがありプラズマキャノンを歩兵が携行する世界線の地球。
 鰹節は、どこの地球でもあるのかな。

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