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36.エリクサーの力

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 侯爵家のご隠居夫妻にエリクサーを売った。
 エリクサーは350ミリリットルも無かったと思うけれど、あの量で毒を飲まされた人全員分が賄えるそうだ。
 すごい薬だね。
 僕も持っているから毒とか盛られても安心だ。
 ご隠居夫妻から対価としてもらったのはスキル強化の神印という魔導印のようなアイテムと、歩兵携行型プラズマキャノンという兵器だ。
 エリクサーの代金として用意していた金貨4600枚もくれると言っていたけれど、さすがに貰いすぎな気もしたので半分だけ受け取っておいた。
 歩兵携行型プラズマキャノンはオークションで買えば金貨2000枚は下らない品だと思うのでちょうどいいくらいだろう。

「さて、まずはエリクサーを量産しよう」

 僕は昨日、残りのスキル使用回数を全て使ってエリクサーを1リットルちょっとくらいまで増やしておいた。
 あとは聖水の時と同じように水瓶いっぱいになるまでコピーし続けるだけだ。
 倍々で増やし続け、7回コピーする頃には100リットルの大きな水瓶を満たすことができた。
 その後3回のコピーでエリクサーは400リットルを超えた。
 これだけあればお風呂に入浴剤として入れて毎日使うことだってできるだろう。
 色々と使いたいことはあるけれど、まずはザックスの怪我を治すことにする。
 僕は水瓶からコップにエリクサーを汲み上げ、ザックスに差し出す。

「ザックス、これを飲んで」

「坊ちゃん、すまねえな。ありがたく頂く」

 ザックスは万感の想いを噛み締めるようにしてエリクサーを飲み下した。
 熱い物でも飲んだかのように顔をしかめるザックス。
 体中の傷がぼんやりと光っている。
 二の腕から切断された腕はひと際光っており、少し眩しいくらいだ。

「お、おおお……」

 やがて光が引いていくと、そこには傷一つないザックスの姿があった。
 堅気には見えない傷だらけのおっさんだったザックスが、普通のおっさんになっていた。

「すげえ、古傷まで全部治っちまいやがった。ちっと恥ずかしいくらいだぜ」

 傷跡は男の勲章みたいなところがあるので、全て消えてツルツルのたまご肌になってしまったザックスは少し恥ずかしそうにしている。
 恥じらうおっさんは最高に気持ちが悪い。

「ちょっと短剣を振ってみてよ。今までとどのくらい違うのか見てみたい」

 僕はいつか渡そうと腰にぶら下げていた短剣を外し、ザックスに渡す。
 昨日ミスリルの短剣を買ったのであれをコピーして2本にすればこの短剣は使われなくなるだろう。
 なんだかこれを作った職人さんに悪い気がするので訓練用にでも使ってほしい。

「いいぜ」

 ザックスは得意げに頷くと、短剣を一瞬で抜き放った。
 いつの間にか両手に短剣を持った状態になっていたのだ。
 片方は順手に、片方は逆手に。
 武術初心者の僕にはどのような利点のある構えなのかはわからないけれど、なんかかっこいい構えだ。
 軽く腰を落とし、モーションを見せないようにして消えるように動くザックス。

「はっ」

 動きの起点が全く見えない。
 まさに腰の入った動きと言えるだろう。
 今までも短剣を振る斬撃の鋭さは半端ではなかったけれど、足が悪かったせいかここまで躍動的ではなかった。
 今は足腰をフルに使って野生動物のようなしなやかな動きをしている。
 短剣の順手と逆手がクルクルと入れ替わり、曲芸みたいだ。
 ザックスがわざと分かりやすくしてくれているのか、素人目にも凄い動きだということがよく分かった。
 さすがはSランク目前と言われていた元Aランク冒険者だ。
 最近ではスキルも積極的に使うようになってきているし、以前よりも強くなっているのではないだろうか。
 僕の護衛は盤石だ。





 エリクサーの使用によってザックスの身体が完全に治り、Aランク冒険者だった頃の力を取り戻した。
 それにより僕の行動範囲も広がることとなる。
 もうどこに行っても怖くない。
 僕とザックスがまず行ったのは、盗賊へのお礼参りである。
 転移の腕輪の力によって以前裸に剥かれて放り込まれたトカゲの巣に再び訪れた僕たち。
 転移の腕輪は残り転移回数を使い切り、粉々に砕け散ってしまった。
 まだまだたくさんあるからいいけどね。
 使い切りアイテムであっても僕のスキルを使えばいくらでもコピーして永続的に使うことができる。
 僕はエリクサーという超回復手段に加えて、転移の腕輪という超移動手段を手に入れたことになる。
 また少しラノベの主人公に近づいたかな。

「坊ちゃん、どうやらまだお引越しはしてねえようだぜ」

「そうみたいだね」

 僕たちを食べようとしてくれた忌々しいトカゲたちもまだ窪地の中に健在だった。
 様々なアイテムを手に入れた今、ザックスの力を借りなくてもトカゲくらいは倒せると思う。
 しかし安全策をとるなら、遠距離から確実に仕留めていきたい。

「射撃の練習といこうか」

 ここは窪地だ。
 高低差が30メートルくらいある。
 スナイパーライフルの練習をするにはちょうどいい場所だ。
 僕は招き猫の中からライフルを取り出し、構えた。
 映画の中なんかだとスナイパーは寝転がったりして構えているけれど、ここは高低差がありすぎてそんな風には構えられない。
 三脚のようなものが欲しいところだ。
 僕は二股に別れている木の枝を探す。
 物干し竿を下すやつみたいなのを地面に突き立てれば銃身を固定することができるだろう。
 太くて丈夫であるほどいい。
 しかしそんな太い生木を切断するのはノコギリでもなければ難しい。
 僕は新たにオークションで手に入れた魔導印を使ってみることにする。
 インクに竜の血が使われているらしく、通常の魔導印とは違って強力な魔法を使うことができるのだ。
 この魔導印ではライトニングエッジという光の剣を出す魔法を使うことができる。
 僕は右手首のあたりに貼り付けてある魔導印に魔力を流し、人差し指の先に光剣を顕現させる。

「おお、ビームサー〇ルみたいだ」

 指先を振ると光の剣が動いて光の軌跡を生み出す。
 綺麗な魔法だ。
 僕は光剣を生木に押し当て、切断する。
 なんの抵抗もなく生木はポトリと落ちた。
 断面は焼けこげて香ばしい匂いがしている。
 これはゆっくり切りすぎると火が出てしまうかもしれないな。
 僕は落ちた生木に2度3度と光剣を振るい、形を整えた。

「よし、三脚は完成した。トカゲを根絶やしにしてやろう」

 僕は尖らせた生木を地面に深く突き刺し、二股に別れた部分にライフルの銃身を乗せた。


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