スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉

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39.成金Sランカー

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 前回アリシアたちが囚われていた座敷牢のような牢屋には、やたら煌びやかなおっさんが囚われていた。
 僕たちは男だとわかった途端に身ぐるみ剥がれてトカゲの餌にされたというのに、この男はなぜ殺されずに囚われているのだろうか。
 服も着たままだし、この扱いの差には断固抗議したい。

「どうするよ坊ちゃん」

「いや、どうするって言われても助けるしかないんじゃないの?」

「だが、連れていくのは邪魔だぜ?」

 確かに邪魔だ。
 僕たちはこれから盗賊団のアジトをどんどん進んでいって壊滅させるつもりなのだ。
 戦えないおっさんを連れていくと守らなければいけなくなる。
 僕は人を守ることなんてできるわけがないので必然的におっさんを守るのはザックスだ。
 いかにAランク冒険者でも、大物盗賊団を相手に足手まとい2人を抱えて戦うのは無謀だ。

「お前たち、私を見捨てるつもりじゃないだろうな?私だぞ?」

「いや、私だぞ?って言われても。知らないおじさんだし」

「だな。有名人なんか?」

 大道芸人か何かだろうか。
 どの道でも成功した人というのはお金を持って煌びやかな服を着るようになる。
 このおじさんもなんらかの道で成功した有名人なのかもしれない。

「私を知らんとはどこの田舎者だ。迷宮都市ゲーテルにも4人しかいないSランク冒険者の一人、このナリキン様を知らんとはな」

「Sランク冒険者?あんたがか?」

 僕とザックスは顔を見合わせ、おじさんを観察する。
 どこからどう見てもただのおじさんだ。
 ザックスもただのおっさんに見えるけれど、その実は鍛えられた鋼のような肉体をしている。
 しかしこのおじさんの肉体はろくに鍛えられておらず、だるんだるんだ。
 どうにも強そうに見えない。
 Sランクということは単純に考えればザックスよりも強いということなる。
 だけれど、100回やっても100回ザックスが勝ちそうな気しかしない。
 そもそもそんなに強いならこんな盗賊団のアジトの木製の牢屋になんか囚われたりしないだろう。

「ああ、思い出したぜ。金持ちナリキンか。あんた迷宮都市では有名人だもんな。金でSランクの座を買ったってな」

「ば、馬鹿なことを言うな!金だって私の力に違いない!」

「そんなことはどうでもいいけどよ、あんたいつも連れてる護衛はどうしたんだよ」

「うるさい!あっち行け!」

 ナリキン氏はどうやら機嫌を損ねてしまったようで壁の方を向いて体育座りしてしまった。
 いったい何があったというのか。
 冒険者ギルドが彼をSランクの冒険者だと認めたということは曲りなりにもそれだけの力があったということではないのだろうか。
 ザックスが口にした断片的な情報から推察するに、カネモチ氏は僕と同じようなタイプに思える。
 アイテムや仲間の力を使って成り上がってきた冒険者なのだろう。
 正当な対価を支払って力を借りている護衛であったり、自分で買ったアイテムならばそれを使って成り上がったところでなんの問題もないと思う。
 ナリキン氏がSランクの地位を金で買ったとか噂されているのは、どれだけ頑張っても全くランクの上がらない有象無象の冒険者たちの嫉妬に過ぎないだろう。
 同じ嫉妬を受ける身としては、なんとなく無視することのできない人だな。

「ナリキンさん、よかったら詳しい話を聞かせてくれませんか?」

「別に詳しい話も何もない。ただ、依頼に失敗しただけだ」

「Sランクが失敗とは穏やかな話じゃねえな」

「普通の盗賊退治の依頼だと思っていた。だが、このアジトに乗り込む直前になって同行していた騎士団の半分が裏切った」

 それはまた、悲惨な状況だ。
 盗賊を退治にきた騎士団が半分盗賊側の味方だったわけだ。
 いきなり味方だと思っていた人に攻撃されたらどんなに強い人でも対処が一歩遅れてしまうかもしれない。

「必死に戦ったが、初撃で私の護衛たちは深いダメージを負ってしまっていた。ジリ貧になってこのざまだ。くそっ」

「護衛の人たちはどうなったんですか?」

「わからん。頭を下げたらなんとか怪我の治療だけはさせてくれたが、どこかに連れていかれてしまった。私の護衛は皆美しい女だ。想像はつくだろう」

 盗賊に捕まった女の人がどうなるのかは嫌というほどに知っている。
 というか護衛って全員女の人だったんだ。
 それも美人な。
 そりゃあ嫉妬も買うだろう。

「じゃあ早く助けに行かないとまずいですね。ナリキンさんは戦えますか?」

「銃があれば戦える」

 銃使いか。
 この世界ではとんでもなくブルジョアな戦い方なのではないだろうか。
 僕は銃や弾をコピーすることができるけれど彼はそうではない。
 毎回高い金を払って銃と弾を買っているのだとしたらものすごいお金持ちだ。
 無一文から始めていたとしたら松下幸之助ばりに凄い人なのではないだろうか。
 僕は招き猫の中から拳銃を1丁取り出してナリキン氏に渡す。
 予備の弾倉もだ。

「いいのか?」

「貸すだけですよ。僕たちはこれから盗賊団を殲滅します。この盗賊団には借りがあるので」

「あんたは付いてくるだけでいいぜ」

「ふ、ふんっ、私にとってもこれは借りだ。今度100倍にして返してやる」

 なんだこの人、ツンデレかよ。
 僕はおっさんのツンデレに吐き気を催した。


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