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41.罠
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僕は気絶しそうになるほどの痛みを我慢してポーカーフェイスを維持する。
冷静になって考えてみれば長年パワーレベリングを続けてきたナリキン氏と、昨日今日レベリングを始めたような僕。
どちらの身体がより頑強なのかは明白だった。
少しでも転生者は成長補正が働いている可能性とか、先ほどトカゲを大量に倒したから急激にレベルアップしているかも、とか考えた僕が馬鹿だった。
レベルは裏切らない。
いかに転生者だろうが精霊力の上昇幅が大きい天才だろうが、長年のレベリングを短期間で覆すことはできないのだ。
「坊ちゃん、やりたいことはわかるけどよ。エリクサー飲んどけ。後は俺が引き継ぐ」
「ごめん。頼んだ」
僕は少し恥ずかしくなって部屋の隅に避け、エリクサーで手首を癒した。
少しはラノベの主人公に近づけたと思っていたのだけれど、どうやら僕の気のせいだったようだ。
大人しくザックスに任せておこう。
ザックスはナリキン氏の胸倉をぐっと掴むと、顔面を思い切りパンチした。
ザックスの精霊力は長年パワーレベリングをしてきたナリキン氏を大きく上回っている。
ずっと護衛に守られて経験値均等割りで精霊力を上げてきたナリキン氏と、経験値が均等割りになることを嫌ってソロでレベリングを続けてきたザックスの差だ。
ナリキン氏は鼻血を噴き出しながらぶっ飛んだ。
「ぶべっ、だ、だにぼずる!(な、なにをする!)」
「あんたなあ、こんな状態の女にかける言葉ってもんが他にあるだろうがよ」
「ぶ、ぶるざい!(う、うるさい!」
「何が汚された、だよ。汚れたなら洗ってやればいいだろう。あんたはいつも女に身体を洗ってもらってばかりいるんだろうがな、洗ってやると案外喜ぶもんだぜ」
へぇ、そうなのか。
どんな状況になれば使う知識なのかはわからないけれど覚えておこう。
さすがはハーレムアドバイザーだ。
「大体盗賊の討伐依頼を受けてきたのはあんただろう。それに、女たちを守ってやれなかったのもあんただ。すべてあんた自身の責任じゃねえか。責める相手が違うぜ」
「うぅ、ううぅ、ぐすんっ、ぐずっ、ぐずっ、ずびっ」
殴られた顔面の痛みのせいか、ザックスの説教が効いたのか、ナリキン氏は年甲斐もなく顔を歪めて泣き出してしまった。
あまり見られないおっさんのマジ泣きだ。
それは先ほどの僕の醜態などは忘れ去られてしまうほどに情けないものだった。
「うぅ、うぅ、ごめん、ごめんなさい。シンディ、みんな、ごめん、ごめん……」
「ナリキン様、いいんです。全員まだ生きていますから。汚されてしまった私達を受け入れてくださいますか?」
「あたりまえだ。こんな情けない私でよければ、戻ってきてくれるか?」
「はい」
ひしっと抱き合うシンディさんとナリキン氏。
こうなることを目的として顔面パンチ説教をしようとしたのだけれど、正直なんだこれって気分だ。
まあ、よかったじゃん?
「さて、話がまとまったところでいい加減に……」
「おいおい、なんだお前ら」
大団円を迎えたナリキン氏のハーレム。
そろそろ盗賊の殲滅作業に戻ろうとした僕たちの前に、巨大なトカゲに跨った男が姿を現す。
この部屋は30メートル四方ほどの大きな部屋だ。
部屋には僕たちが入ってきた通路以外の道が繋がっておらず、完全な行き止まりだと思っていた。
しかしそうではなかったのだ。
トカゲに乗った男、トカゲ使いのグリムは完全に壁になっていた場所からぬるりと現れた。
この部屋の壁は隠し通路になっていたのだ。
四方の壁からぬるりとトカゲと盗賊たちが続々入ってくる。
「これは、罠か」
「そうだ。だがお前たちをハメる罠じゃねえよ。やけに早えと思やあ、別のやつだったか」
誰を罠に嵌めるつもりだったのだろうか。
ナリキン氏が無傷で捕らえられていたことなどから考えるに、ナリキン氏を助けに来ることが想定される人物かもしれないな。
ナリキン氏の生まれは相当裕福なはずだから、きっと助けに来るのもそれなりの人物の可能性が高い。
もしかしたら家族の誰かが陣頭指揮をとる可能性もある。
その誰かを捕まえるか殺害するかがこいつらの目的だろう。
盗賊たちの中には裏切った騎士であろう人達が混ざっている。
お揃いの金属鎧を着ているので一目瞭然だ。
騎士が絡んでいるということは、貴族同士の争いかもしれない。
しかし僕たちにはそんなことは関係ない。
「あん?お前らなんか見覚えのある顔だな」
「僕たちを忘れたとは言わせない。借りを返しにきた」
「ああ、そういえばトカゲに食わせた奴らの中にお前らみたいなのがいたっけな。なんで生きてるんだ?ああ、そういうことか。この間の女たちを逃がしやがったのはお前らか」
僕たちがやったということにも気が付いていなかったのか。
あまり細かいことには頓着しないタイプなのだろうか。
僕の苦手なタイプだ。
僕はカレーの水の分量を守らないタイプの人間が苦手なのだ。
箱に書かれている通りに作れ。
「馬鹿な奴らだ。そのまま逃げてりゃあ死なずに済んだのによ。おい、やれ」
「「「へい」」」
「馬鹿はお前らだ。あのときのようにはいかねえぜ」
ザックスは右手に持った拳銃を左手に持ち替え、右手でミスリルの短剣を抜いて走りだした。
なんだそのかっこいい動きは。
僕も今度真似してみよう。
ザックスの動きは早すぎるので、僕は連携することができない。
下手な鉄砲で援護すれば邪魔することになってしまうだろう。
とりあえず僕は、涙でぐちゃぐちゃになった顔を呆けさせているナリキン氏とそのハーレムを守ることに徹するとしよう。
冷静になって考えてみれば長年パワーレベリングを続けてきたナリキン氏と、昨日今日レベリングを始めたような僕。
どちらの身体がより頑強なのかは明白だった。
少しでも転生者は成長補正が働いている可能性とか、先ほどトカゲを大量に倒したから急激にレベルアップしているかも、とか考えた僕が馬鹿だった。
レベルは裏切らない。
いかに転生者だろうが精霊力の上昇幅が大きい天才だろうが、長年のレベリングを短期間で覆すことはできないのだ。
「坊ちゃん、やりたいことはわかるけどよ。エリクサー飲んどけ。後は俺が引き継ぐ」
「ごめん。頼んだ」
僕は少し恥ずかしくなって部屋の隅に避け、エリクサーで手首を癒した。
少しはラノベの主人公に近づけたと思っていたのだけれど、どうやら僕の気のせいだったようだ。
大人しくザックスに任せておこう。
ザックスはナリキン氏の胸倉をぐっと掴むと、顔面を思い切りパンチした。
ザックスの精霊力は長年パワーレベリングをしてきたナリキン氏を大きく上回っている。
ずっと護衛に守られて経験値均等割りで精霊力を上げてきたナリキン氏と、経験値が均等割りになることを嫌ってソロでレベリングを続けてきたザックスの差だ。
ナリキン氏は鼻血を噴き出しながらぶっ飛んだ。
「ぶべっ、だ、だにぼずる!(な、なにをする!)」
「あんたなあ、こんな状態の女にかける言葉ってもんが他にあるだろうがよ」
「ぶ、ぶるざい!(う、うるさい!」
「何が汚された、だよ。汚れたなら洗ってやればいいだろう。あんたはいつも女に身体を洗ってもらってばかりいるんだろうがな、洗ってやると案外喜ぶもんだぜ」
へぇ、そうなのか。
どんな状況になれば使う知識なのかはわからないけれど覚えておこう。
さすがはハーレムアドバイザーだ。
「大体盗賊の討伐依頼を受けてきたのはあんただろう。それに、女たちを守ってやれなかったのもあんただ。すべてあんた自身の責任じゃねえか。責める相手が違うぜ」
「うぅ、ううぅ、ぐすんっ、ぐずっ、ぐずっ、ずびっ」
殴られた顔面の痛みのせいか、ザックスの説教が効いたのか、ナリキン氏は年甲斐もなく顔を歪めて泣き出してしまった。
あまり見られないおっさんのマジ泣きだ。
それは先ほどの僕の醜態などは忘れ去られてしまうほどに情けないものだった。
「うぅ、うぅ、ごめん、ごめんなさい。シンディ、みんな、ごめん、ごめん……」
「ナリキン様、いいんです。全員まだ生きていますから。汚されてしまった私達を受け入れてくださいますか?」
「あたりまえだ。こんな情けない私でよければ、戻ってきてくれるか?」
「はい」
ひしっと抱き合うシンディさんとナリキン氏。
こうなることを目的として顔面パンチ説教をしようとしたのだけれど、正直なんだこれって気分だ。
まあ、よかったじゃん?
「さて、話がまとまったところでいい加減に……」
「おいおい、なんだお前ら」
大団円を迎えたナリキン氏のハーレム。
そろそろ盗賊の殲滅作業に戻ろうとした僕たちの前に、巨大なトカゲに跨った男が姿を現す。
この部屋は30メートル四方ほどの大きな部屋だ。
部屋には僕たちが入ってきた通路以外の道が繋がっておらず、完全な行き止まりだと思っていた。
しかしそうではなかったのだ。
トカゲに乗った男、トカゲ使いのグリムは完全に壁になっていた場所からぬるりと現れた。
この部屋の壁は隠し通路になっていたのだ。
四方の壁からぬるりとトカゲと盗賊たちが続々入ってくる。
「これは、罠か」
「そうだ。だがお前たちをハメる罠じゃねえよ。やけに早えと思やあ、別のやつだったか」
誰を罠に嵌めるつもりだったのだろうか。
ナリキン氏が無傷で捕らえられていたことなどから考えるに、ナリキン氏を助けに来ることが想定される人物かもしれないな。
ナリキン氏の生まれは相当裕福なはずだから、きっと助けに来るのもそれなりの人物の可能性が高い。
もしかしたら家族の誰かが陣頭指揮をとる可能性もある。
その誰かを捕まえるか殺害するかがこいつらの目的だろう。
盗賊たちの中には裏切った騎士であろう人達が混ざっている。
お揃いの金属鎧を着ているので一目瞭然だ。
騎士が絡んでいるということは、貴族同士の争いかもしれない。
しかし僕たちにはそんなことは関係ない。
「あん?お前らなんか見覚えのある顔だな」
「僕たちを忘れたとは言わせない。借りを返しにきた」
「ああ、そういえばトカゲに食わせた奴らの中にお前らみたいなのがいたっけな。なんで生きてるんだ?ああ、そういうことか。この間の女たちを逃がしやがったのはお前らか」
僕たちがやったということにも気が付いていなかったのか。
あまり細かいことには頓着しないタイプなのだろうか。
僕の苦手なタイプだ。
僕はカレーの水の分量を守らないタイプの人間が苦手なのだ。
箱に書かれている通りに作れ。
「馬鹿な奴らだ。そのまま逃げてりゃあ死なずに済んだのによ。おい、やれ」
「「「へい」」」
「馬鹿はお前らだ。あのときのようにはいかねえぜ」
ザックスは右手に持った拳銃を左手に持ち替え、右手でミスリルの短剣を抜いて走りだした。
なんだそのかっこいい動きは。
僕も今度真似してみよう。
ザックスの動きは早すぎるので、僕は連携することができない。
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