スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉

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46.レアボス

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 朝、シャッとカーテンを開ける音で目を覚ます。
 暖かな日差しが降り注ぐ爽やかな目覚めだ。
 今朝僕の部屋のカーテンを開けて起こしに来てくれたのはエマだ。
 元大き目の農家の嫁なので家事から畑仕事までなんでも小器用にこなすことができる。
 きっとできなければならない環境だったのだろう。
 お姑さんとの関係とかも大変そうだよね。
 お金に困ったわけでもないのに奥さんを奴隷商に売るような家は正直あまりいい環境であるとは思えない。
 きっとすごく苦労してきたのだろう。
 そのへんも踏まえて、僕はエマにいつも優しく話しかけている。
 きっとエマは男の優しさに弱いはずだ。

「エマ、おはよう。いつもありがとう」

「おはようございます、レン様。メイドですから、ご主人様を起こしにくるのは当然のことです」

 にっこりと微笑むエマ。
 女性は笑顔で武装するという。
 脈あり男に見せる笑顔と、脈なし男に見せる笑顔は全くの別物。
 こういう時ハーレムアドバイザーがいたら聞くことができるのだけれど、僕は先日とある事情からアドバイザーを解任したのだった。
 これがどちらの笑顔なのか僕には全く見当がつかない。
 しかし言葉だけをとるのであれば、仕事でやっているだけなので別に感謝をする必要はないという拒絶を表わしているような気もする。
 エマはそんなに人を傷つけるようなことを言う子ではないので、言葉の綾だと思いたい。
 僕は嫌われていないよね。
 朝から僕の悩みは増えるばかりだ。



 服を着替え、食堂に行くとナリキン氏がテーブルで朝食をとっていた。
 あれからこの人はなぜか僕の屋敷に度々来るようになった。
 友達が少なそうだから同じ金の力を振るう僕のことを同類だと思って親しみを持っているのかもしれない。
 僕もこの世界では友達が少ないのでナリキン氏と友達になってあげてもいいかもしれない。

「やっと起きてきたか。邪魔しているぞ」

「いらっしゃい。今日の朝食はなにかな」

「ああ、目玉焼きとトーストと……ってそんな場合ではないのだ!食事が済んだら私と冒険者ギルドに来い。少し手伝ってほしいことがある」

 面倒ごとの匂いがする。
 それはできれば朝食を食べた後に聞きたかったな。
 食事の味を損ねるような内容でなければいいのだけれど。





 冒険者ギルドに付くと、大会議室に案内される。
 いや、案内されているのは僕ではなくナリキン氏だけれど。
 僕たちはナリキン氏に言われるままに付いてきただけだ。
 この先の大会議室には、高ランクの冒険者たちが集まって話し合っているらしい。
 議題はゲーテル大迷宮77階層に現れたドラゴンのことだ。
 ダンジョンには階層ごとにボスがいる。
 それを倒さなければ次の階層へと進むことができないようになっている。
 ボスは倒すたびにリポップするので毎回同じモンスターだ。
 しかしごく稀に、別のモンスターがリポップすることがある。
 レアボスというやつだ。
 それが77階層に現れたドラゴンなのだ。
 ドラゴンは77階層の通常ボスとは比べ物にならないほどに強く、誰も77階層より先に進むことができなくなってしまったらしい。
 そのため高ランク冒険者が徒党を組んでみんなで倒そうという話し合いをしているのだ。
 なんかレイドボス戦みたいで楽しそうだ。
 Sランク冒険者であり、Sランククランを率いるクランリーダーであるナリキン氏も当然その話し合いに呼ばれている。
 この街にはSランク冒険者が4人おり、Sランク冒険者が率いるクランが4つある。
 そんな彼らが協力して事に当たることはほとんどないが、今回は特例だ。
 Sランクのクランが4つ集まれば大抵のことはなんとかなる。
 ドラゴンにも勝つことが可能だとみんな考えている。
 それゆえに、今回のこのレイドに参加する人たちは戦いに参加するだけでドラゴンの経験値が均等割りされる幸運な人たちなのだ。
 その旨味たっぷりレイドにナリキン氏は僕たちを推薦してくれるらしい。
 形式的に僕がクランリーダーを務める僕たちのクランは、ザックスやドミニクたちのおかげで新進気鋭だと判断されてはいるけれどまだまだ駆け出しだ。
 走り出したばかりもいいところ。
 クランのランクというのは所属している冒険者のランクや人数、実績などを考慮して決められる。
 いわばクランの総合力なわけだ。
 僕たちのクランは一番冒険者ランクの高いザックスでさえまだCランク。
 クランリーダーの僕に至っては登録したときのままのFランクだ。
 戦闘職の奴隷たちは全員僕のクランの一員ということになっているので人数だけは多い。
 総合ランクはDランクに上がったばかりだ。
 本来ならばとてもこのような場に呼んでもらえる立場ではないのだ。
 ナリキン氏には感謝しなくてはな。
 いつでもうちに来て食事ができる権利をあげよう。

「それにしても、ドラゴンってどのくらい強いんだろうね」

「坊ちゃんが見たことあるモンスターだと、66階層のドレイクが一番ランクが高いのか。あいつがAランクだからな」

 僕のパワーレベリングもずいぶんと進み、最近ではダンジョン中層をうろつくことができるようになった。
 そこで見たのがドレイクというAランクのモンスターだ。
 まるでトリケラトプスのような4足歩行の恐竜のようなモンスターだったと記憶している。
 あのギザギザの鋭い牙と生臭い息は今でも鮮明に思い出すことができる。
 あれは恐怖体験だった。

「ドラゴンは色々な種類がいるが、最低でもあの倍くらいは強いと考えていいだろうな」

「あれの倍かぁ。僕は家で待機してようかな」

「それでもいいが、俺はこんなチャンスはねえと思うがな。Sランククランが4組で協力して倒すんだぞ。ほぼ勝利が確定したようなもんだ。ドラゴンとの戦闘に加われば精霊力がぐんと一気に上がると思うんだがな」

 なんだかその楽勝な雰囲気が不安なんだよね。
 人はそれをフラグと言う。



 
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