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6.チートの匂いのするスキル

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「これ、換金お願いします」

「あら、クロードくんじゃない」

「どうも」

 僕の前でゴブリンの右耳を数えているギルド職員のお姉さんはミラさんという人だ。
 綺麗なプラチナブロンドを後ろで一つにまとめ、透き通るような青い瞳をふちなしのメガネの奥で光らせている美女だ。
 いかにも仕事ができそうな女性だよ。
 アメリカのウォールストリートとかで働いてそう。
 僕がこのギルドで冒険者登録したときの担当だった関係で、ちょくちょく話しかけてくれる。
 まあ僕って傍からみたら真っ先に死にそうなタイプだからちょっと心配なのかな。
 
「いっちょまえにギルドで喧嘩なんて、少しは冒険者らしくなったじゃない」

「勘弁してくださいよ。誰も助けてくれないんだもんな」

「助けて欲しかったらパーティを組みなさい。冒険者なら、いざという時助けてくれるのは仲間だけよ」

「うーん」

 正直言って僕はコミュ障である。
 今でこそミラさんとは普通に話せる関係だけれど、最初のころは酷かった。
 生まれてこのかたこんなに綺麗な女の人と話したことなんてない。
 もちろん前世でも。
 だからもう緊張して緊張して。
 そもそもおばちゃんや母以外の女の人と話すのは初めてだと気付いてからはもっと酷かったと思う。
 生まれた村が田舎すぎて同年代どころか若い女のひとっていうのがあまりいなかったんだよ。
 20代くらいの女の人はみんな旦那さんがいて、若い男からガードしていたから話したことなんてなかったし。
 そんな状況でこんな絶世の美女との邂逅だよ。
 そりゃあ話なんてできるはずもない。
 はいといいえしか答えられなかった。
 そんなんでパーティなんて組めるか?
 パーティメンバー全員男にする?
 自慢じゃないけど僕は男とも何を話していいのか分からない。
 それにミラさんは助けてくれるのは仲間しかいないと言っているけれど、冒険者が仲間に背中から刺されたという話もよく聞く話だ。
 理由はいろいろ。
 痴情のもつれ、喧嘩、追い剥ぎ、新人潰し。
 自慢じゃないけれど僕に人を見る目はない。
 さっきから自慢にならないことばかりだ。
 そもそもあまり自慢できることがなかった。
 あはは……。
 
「はい、銀貨1枚と銅貨50枚よ」

「どうも」

「パーティの件、真剣に考えてみてね」

「はあ……」

 気が進まないな。
 まあ確かに突発的な事故なんかに遭ったときに、ひとりだと危険だということは分かるんだけどね。
 とりあえず今は必要ないと思うからそのうち考えてみようかな。
 僕はギルドを出て、スキル屋に向かった。



「こんにちは」

「らっしゃい。この前のスキルか?」

「はい。お願いします」

 今日は【凝縮lv1】を買いに来たんだよ。
 いまや僕の一日の稼ぎは銀貨1枚を超える。
 今までどおり黒パンと塩スープで我慢しておけば10日ほどで銀貨10枚なんて貯まっちゃう。

「はっ」

 僕は気づいてしまった。
 【味覚操作lv1】というスキルの有用性に。
 これは次に買うのはこれで決定だな。
 節約には超使えるスキルだ。
 まあそれは置いておいて、今日は【凝縮lv1】だ。
 店の奥に引っ込んだ店主が【凝縮lv1】のスキルオーブを持って出てくる。
 店に出しといてもどうせ売れないだろうに、律儀にも奥に入れておいてくれたらしい。
 
「ほらよ、これでいいんだろ?」

「はい。これ代金」

 よし、これでまた色んなことができる。
 ふふふ、楽しみだ。
 とりあえずこれは仕舞って、また銀貨10枚ブースに新しいスキルオーブが追加されてないかを確認だけして帰るとしよう。
 僕は無造作に置かれたスキルオーブを一つずつ確認していく。
 え?
 なんで……。
 【鼻くそ硬化lv1】が売れている……。
 どういうことだ?
 あんなスキル何に使うんだ?
 罰ゲームだろうか。

「おじさん、あの、【鼻くそ硬化】スキルって……」

「ああ、あれな。俺も売れるわけねーと思ってたんだが、なんか1週間くらい前に学者みてえな奴が買っていったぞ」

「あ、ああ学術研究に使うのか。そうだよね。あれが売れるなんて」

 ちょっとショッキングなことがあったけれど、スキルのチェックを続けよう。
 【鼻くそ硬化lv1】以外には売れたスキルはないみたいだ。
 だけど知らないスキルがまた2つ追加されていた。

スキル名:【魔眼(減量)】
  詳細:エクストラスキル。この魔眼で見られた生物は100グラム体重が減る。
 
スキル名:【??魔法lv1】
  詳細:物を軽くする魔法?

 うん、ひとつは完全なゴミスキルだね。
 現代日本に持って帰れたらダイエットビジネスで大儲けできるかもしれないけど。
 さて、もうひとつのほう。
 この【??魔法lv1】っていうのはなんなんだろうか。
 スキル名がわからないのかな。

「おじさん、このスキルってさ……」

「ああ、それか。スキル名ってのは【鑑定】っていうスキルで判別するんだけどな。その鑑定で分かる情報っていうのが全部古代文字で浮かび上がるらしいんだ」

「つまりどういうこと?」

「そのスキルに使われている単語が、未だに判明してないってことだ。で、どんなスキルなのかも想像がつかねえ。以前に持っていたやつの記録では、なんか荷物なんかが軽くなる魔法だって話だぜ」

「ふーん……」

 なるほど。
 荷物が軽くなるだけの魔法だから、この銀貨10枚ブースに置かれているわけか。
 このスキル、僕の予想が正しいのであればとんでもないチートスキルかもしれない。
 よし、【味覚操作lv1】よりも先にこの【??魔法lv1】を先に手に入れよう。

「おじさん、このスキル取り置きお願いできますか?」

「ああ、いいぞ?銀貨10枚のスキルならどれでも取り置きしてやる。確実に買ってくれるのならな」

「絶対買う。それじゃ、お願いします」

 僕はスキル屋を出た。
 できるだけ早く、あのスキルを手に入れなくては。

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