21 / 159
21.しばしの休業
しおりを挟む
宿の硬いベッドで目が覚める。
左肩の傷跡がまだ少し突っ張るような感じがしている。
僕はぐっと体を伸ばし、固まった関節をバキバキと言わせる。
「いたた……」
あの後色々なことがあった。
まず最初に、どこからともなく伯爵家の執事を名乗る人が現れた。
黒服の集団を伴って。
彼らはお貴族様冒険者たちのお目付け役で、この前のゴブリンのときも今回もひっそりと見守っていたそうだ。
そして危なくなればその都度助けるつもりだったそうだ。
かといって、いらんことをしやがってとも思われていないようでまあまあ感謝された。
黒服の集団は周囲を警戒しながら僕と前衛の少年と斥候の少年を回復魔法で治療すると、いつの間にかいなくなっていた。
執事を名乗る人物は、僕にお礼とお詫びだと言って金貨の入った袋を渡すと去っていった。
なかなか謎の人物だ。
次にお貴族様冒険者たちと自己紹介をした。
前衛の少年はリグリット。
斥候の少年はロクサス。
ヒーラーの少女はクリスティーナ。
魔法職の少女はミランダ。
全員貴族なのでファミリーネームがあるらしいけれど、平民の僕にはあまり関係のないことなので聞かなかった。
彼らは冒険者で、僕も冒険者。
だから名前だけの自己紹介でいいんだ。
リグリットは僕の住んでいる街に城を構える伯爵家の三男だという。
彼ら彼女らは伯爵様の命令で冒険者として活動しているらしい。
理由は社会勉強と武者修行のため。
リグリットには2人の兄がいるが、その2人も成人のおりには同年代の貴族の子息子女とパーティを組んで冒険者として数か月から数年間活動していたというからそれが伯爵家の教育方針なのだろう。
もちろん自分たちの子息子女にもしものことがあってはいけない。
手練れの護衛に常に見守らせた上でだ。
そんなわけで今回のことは完全に僕のおせっかいであったというわけだけれど、僕にも収穫がなかったわけではないので良しとしよう。
僕は枕元の瓶に詰められたオークの睾丸を手に取る。
あの後お貴族様冒険者たちは僕に2匹のオークの素材を譲ると言ってきたのだ。
僕は大剣はいらなかったし、肉もそんなに持てなかったので睾丸だけもらった。
大剣は魔剣で、かなりいいものだったみたいなので僕にもらってほしいと言われたけれど、僕はその大剣を見るとトラウマが蘇りそうだったので買い取ってもらった。
そして僕の手元には伯爵家の執事さんからもらった金貨20枚と魔剣を売って手に入れた金貨30枚、そしてオークの睾丸が3匹分。
オークの睾丸は金貨3枚くらいにはなるだろう。
合わせて金貨53枚だ。
うはぁ、僕金持ちじゃん。
僕はうきうきとした気持ちを抑えきれず、軽くニヤつきながら朝食に向かった。
宿の娘さんにまた気持ち悪い顔をしていると言われた。
今日は寝て過ごそうかな。
次の日僕はスキル屋に向かった。
すべてのスキルがレベル5になるまではスキルオーブを買うつもりはないのだけれど、どんなスキルがあってどのくらいの値段なのかぐらいは見ておこうかと思ったのだ。
先日の戦いでスキルレベルは軒並み上がった。
戦いの緊張感か、はたまた経験値の差というやつなのか、どんな理由かはわからないけれど戦闘中というのはスキルレベルが上がりやすいらしい。
回転、生活魔法、毛魔法の3つがレベル4に、凝縮、反転魔法がレベル3になった。
振動は使ってないので変わっていない。
触腕でナイフを使ったとき振動スキルでナイフを振動させておけばよかったな。
まだまだスキルレベルは全体的に低いけれど、あと1か月くらいスキルのレベル上げに集中すればどうにかできるだろう。
そしたら金貨スキルだ。
楽しみだな。
僕はいつの間にか着いていたスキル屋の扉をくぐった。
「こんにちは」
「らっしゃい。オーク狩りはどうだった」
「まずまずだね。近いうちに金貨スキルを買うよ。今日はその下見」
「まあ好きなだけ見ていってくれ」
僕は銀貨10枚ブースのスキルから見ていく。
といってもまだ前回この店を訪れてから半月くらいしか経っていない。
それほど品ぞろえは変わっていなかった。
しかし【味覚操作lv1】は売れてしまっていた。
残念だ。
あれがあったら塩スープがコンソメスープになったのに。
新しく3つのスキルが追加されている。
スキル名:【着鉄lv1】
詳細:金属同士をくっつけることができる。
スキル名:【爪硬化lv1】
詳細:爪が硬くなる。
スキル名:【発芽lv1】
詳細:植物の発芽を早める。
まあまあ使えそうなスキルだ。
以前見た曲鉄とこの着鉄があれば簡単な金属加工ができるんじゃないか?
僕は現代知識を用いて生産チートできる可能性を考えるけれどすぐに却下した。
金属を曲げられるスキルとくっつけるスキルだけではそこまで多くのものは作れなかった。
そもそも僕の現代知識が乏しい。
それが一番の問題だ。
でもやっぱり着鉄はなかなか使えそうなスキルなので前から欲しかったスキルと一緒に取り置きしてもらおう。
他の2つのスキルは、僕には必要ないかな。
【爪硬化lv1】は獣人の人とかが使ったら強そうなスキルだ。
【発芽lv1】は農業に役に立つんじゃないかな、よくわからないけど。
「おじさん、【骨太lv1】と【曲鉄lv1】それから【着鉄lv1】の3つを取り置きしてもらいたいんだけど」
「あいよ。金貨スキルも見ていくんだろ?こっちは取り置きできないけどな」
「うん、わかった」
僕は銀貨10枚ブースから移動し、高級なスキルが置かれているエリアを見て回る。
スキルオーブはすべてガラスケースに入っており、銀貨10枚スキルと違って野放図に置かれていることはない。
鑑定証の詳細欄の文字数も心なしか多いような気がする。
中央にきらりと光るのは白金貨2枚の【回復魔法lv3】のスキルオーブ。
先日僕もお世話になってその力の一端を垣間見たからこそ、この値段にも納得だ。
さて、そのほかにどんなスキルがあるのかな。
左肩の傷跡がまだ少し突っ張るような感じがしている。
僕はぐっと体を伸ばし、固まった関節をバキバキと言わせる。
「いたた……」
あの後色々なことがあった。
まず最初に、どこからともなく伯爵家の執事を名乗る人が現れた。
黒服の集団を伴って。
彼らはお貴族様冒険者たちのお目付け役で、この前のゴブリンのときも今回もひっそりと見守っていたそうだ。
そして危なくなればその都度助けるつもりだったそうだ。
かといって、いらんことをしやがってとも思われていないようでまあまあ感謝された。
黒服の集団は周囲を警戒しながら僕と前衛の少年と斥候の少年を回復魔法で治療すると、いつの間にかいなくなっていた。
執事を名乗る人物は、僕にお礼とお詫びだと言って金貨の入った袋を渡すと去っていった。
なかなか謎の人物だ。
次にお貴族様冒険者たちと自己紹介をした。
前衛の少年はリグリット。
斥候の少年はロクサス。
ヒーラーの少女はクリスティーナ。
魔法職の少女はミランダ。
全員貴族なのでファミリーネームがあるらしいけれど、平民の僕にはあまり関係のないことなので聞かなかった。
彼らは冒険者で、僕も冒険者。
だから名前だけの自己紹介でいいんだ。
リグリットは僕の住んでいる街に城を構える伯爵家の三男だという。
彼ら彼女らは伯爵様の命令で冒険者として活動しているらしい。
理由は社会勉強と武者修行のため。
リグリットには2人の兄がいるが、その2人も成人のおりには同年代の貴族の子息子女とパーティを組んで冒険者として数か月から数年間活動していたというからそれが伯爵家の教育方針なのだろう。
もちろん自分たちの子息子女にもしものことがあってはいけない。
手練れの護衛に常に見守らせた上でだ。
そんなわけで今回のことは完全に僕のおせっかいであったというわけだけれど、僕にも収穫がなかったわけではないので良しとしよう。
僕は枕元の瓶に詰められたオークの睾丸を手に取る。
あの後お貴族様冒険者たちは僕に2匹のオークの素材を譲ると言ってきたのだ。
僕は大剣はいらなかったし、肉もそんなに持てなかったので睾丸だけもらった。
大剣は魔剣で、かなりいいものだったみたいなので僕にもらってほしいと言われたけれど、僕はその大剣を見るとトラウマが蘇りそうだったので買い取ってもらった。
そして僕の手元には伯爵家の執事さんからもらった金貨20枚と魔剣を売って手に入れた金貨30枚、そしてオークの睾丸が3匹分。
オークの睾丸は金貨3枚くらいにはなるだろう。
合わせて金貨53枚だ。
うはぁ、僕金持ちじゃん。
僕はうきうきとした気持ちを抑えきれず、軽くニヤつきながら朝食に向かった。
宿の娘さんにまた気持ち悪い顔をしていると言われた。
今日は寝て過ごそうかな。
次の日僕はスキル屋に向かった。
すべてのスキルがレベル5になるまではスキルオーブを買うつもりはないのだけれど、どんなスキルがあってどのくらいの値段なのかぐらいは見ておこうかと思ったのだ。
先日の戦いでスキルレベルは軒並み上がった。
戦いの緊張感か、はたまた経験値の差というやつなのか、どんな理由かはわからないけれど戦闘中というのはスキルレベルが上がりやすいらしい。
回転、生活魔法、毛魔法の3つがレベル4に、凝縮、反転魔法がレベル3になった。
振動は使ってないので変わっていない。
触腕でナイフを使ったとき振動スキルでナイフを振動させておけばよかったな。
まだまだスキルレベルは全体的に低いけれど、あと1か月くらいスキルのレベル上げに集中すればどうにかできるだろう。
そしたら金貨スキルだ。
楽しみだな。
僕はいつの間にか着いていたスキル屋の扉をくぐった。
「こんにちは」
「らっしゃい。オーク狩りはどうだった」
「まずまずだね。近いうちに金貨スキルを買うよ。今日はその下見」
「まあ好きなだけ見ていってくれ」
僕は銀貨10枚ブースのスキルから見ていく。
といってもまだ前回この店を訪れてから半月くらいしか経っていない。
それほど品ぞろえは変わっていなかった。
しかし【味覚操作lv1】は売れてしまっていた。
残念だ。
あれがあったら塩スープがコンソメスープになったのに。
新しく3つのスキルが追加されている。
スキル名:【着鉄lv1】
詳細:金属同士をくっつけることができる。
スキル名:【爪硬化lv1】
詳細:爪が硬くなる。
スキル名:【発芽lv1】
詳細:植物の発芽を早める。
まあまあ使えそうなスキルだ。
以前見た曲鉄とこの着鉄があれば簡単な金属加工ができるんじゃないか?
僕は現代知識を用いて生産チートできる可能性を考えるけれどすぐに却下した。
金属を曲げられるスキルとくっつけるスキルだけではそこまで多くのものは作れなかった。
そもそも僕の現代知識が乏しい。
それが一番の問題だ。
でもやっぱり着鉄はなかなか使えそうなスキルなので前から欲しかったスキルと一緒に取り置きしてもらおう。
他の2つのスキルは、僕には必要ないかな。
【爪硬化lv1】は獣人の人とかが使ったら強そうなスキルだ。
【発芽lv1】は農業に役に立つんじゃないかな、よくわからないけど。
「おじさん、【骨太lv1】と【曲鉄lv1】それから【着鉄lv1】の3つを取り置きしてもらいたいんだけど」
「あいよ。金貨スキルも見ていくんだろ?こっちは取り置きできないけどな」
「うん、わかった」
僕は銀貨10枚ブースから移動し、高級なスキルが置かれているエリアを見て回る。
スキルオーブはすべてガラスケースに入っており、銀貨10枚スキルと違って野放図に置かれていることはない。
鑑定証の詳細欄の文字数も心なしか多いような気がする。
中央にきらりと光るのは白金貨2枚の【回復魔法lv3】のスキルオーブ。
先日僕もお世話になってその力の一端を垣間見たからこそ、この値段にも納得だ。
さて、そのほかにどんなスキルがあるのかな。
24
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる