ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉

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21.しばしの休業

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 宿の硬いベッドで目が覚める。
 左肩の傷跡がまだ少し突っ張るような感じがしている。
 僕はぐっと体を伸ばし、固まった関節をバキバキと言わせる。

「いたた……」

 あの後色々なことがあった。
 まず最初に、どこからともなく伯爵家の執事を名乗る人が現れた。
 黒服の集団を伴って。
 彼らはお貴族様冒険者たちのお目付け役で、この前のゴブリンのときも今回もひっそりと見守っていたそうだ。
 そして危なくなればその都度助けるつもりだったそうだ。
 かといって、いらんことをしやがってとも思われていないようでまあまあ感謝された。
 黒服の集団は周囲を警戒しながら僕と前衛の少年と斥候の少年を回復魔法で治療すると、いつの間にかいなくなっていた。
 執事を名乗る人物は、僕にお礼とお詫びだと言って金貨の入った袋を渡すと去っていった。
 なかなか謎の人物だ。
 次にお貴族様冒険者たちと自己紹介をした。
 前衛の少年はリグリット。
 斥候の少年はロクサス。
 ヒーラーの少女はクリスティーナ。
 魔法職の少女はミランダ。
 全員貴族なのでファミリーネームがあるらしいけれど、平民の僕にはあまり関係のないことなので聞かなかった。
 彼らは冒険者で、僕も冒険者。
 だから名前だけの自己紹介でいいんだ。
 リグリットは僕の住んでいる街に城を構える伯爵家の三男だという。
 彼ら彼女らは伯爵様の命令で冒険者として活動しているらしい。
 理由は社会勉強と武者修行のため。
 リグリットには2人の兄がいるが、その2人も成人のおりには同年代の貴族の子息子女とパーティを組んで冒険者として数か月から数年間活動していたというからそれが伯爵家の教育方針なのだろう。
 もちろん自分たちの子息子女にもしものことがあってはいけない。
 手練れの護衛に常に見守らせた上でだ。
 そんなわけで今回のことは完全に僕のおせっかいであったというわけだけれど、僕にも収穫がなかったわけではないので良しとしよう。
 僕は枕元の瓶に詰められたオークの睾丸を手に取る。
 あの後お貴族様冒険者たちは僕に2匹のオークの素材を譲ると言ってきたのだ。
 僕は大剣はいらなかったし、肉もそんなに持てなかったので睾丸だけもらった。
 大剣は魔剣で、かなりいいものだったみたいなので僕にもらってほしいと言われたけれど、僕はその大剣を見るとトラウマが蘇りそうだったので買い取ってもらった。
 そして僕の手元には伯爵家の執事さんからもらった金貨20枚と魔剣を売って手に入れた金貨30枚、そしてオークの睾丸が3匹分。
 オークの睾丸は金貨3枚くらいにはなるだろう。
 合わせて金貨53枚だ。
 うはぁ、僕金持ちじゃん。
 僕はうきうきとした気持ちを抑えきれず、軽くニヤつきながら朝食に向かった。
 宿の娘さんにまた気持ち悪い顔をしていると言われた。
 今日は寝て過ごそうかな。




 次の日僕はスキル屋に向かった。
 すべてのスキルがレベル5になるまではスキルオーブを買うつもりはないのだけれど、どんなスキルがあってどのくらいの値段なのかぐらいは見ておこうかと思ったのだ。
 先日の戦いでスキルレベルは軒並み上がった。
 戦いの緊張感か、はたまた経験値の差というやつなのか、どんな理由かはわからないけれど戦闘中というのはスキルレベルが上がりやすいらしい。
 回転、生活魔法、毛魔法の3つがレベル4に、凝縮、反転魔法がレベル3になった。
 振動は使ってないので変わっていない。
 触腕でナイフを使ったとき振動スキルでナイフを振動させておけばよかったな。
 まだまだスキルレベルは全体的に低いけれど、あと1か月くらいスキルのレベル上げに集中すればどうにかできるだろう。
 そしたら金貨スキルだ。
 楽しみだな。
 僕はいつの間にか着いていたスキル屋の扉をくぐった。
 
「こんにちは」

「らっしゃい。オーク狩りはどうだった」

「まずまずだね。近いうちに金貨スキルを買うよ。今日はその下見」

「まあ好きなだけ見ていってくれ」

 僕は銀貨10枚ブースのスキルから見ていく。
 といってもまだ前回この店を訪れてから半月くらいしか経っていない。
 それほど品ぞろえは変わっていなかった。
 しかし【味覚操作lv1】は売れてしまっていた。
 残念だ。
 あれがあったら塩スープがコンソメスープになったのに。
 新しく3つのスキルが追加されている。

スキル名:【着鉄lv1】
  詳細:金属同士をくっつけることができる。

スキル名:【爪硬化lv1】
  詳細:爪が硬くなる。

スキル名:【発芽lv1】
  詳細:植物の発芽を早める。

 まあまあ使えそうなスキルだ。
 以前見た曲鉄とこの着鉄があれば簡単な金属加工ができるんじゃないか?
 僕は現代知識を用いて生産チートできる可能性を考えるけれどすぐに却下した。
 金属を曲げられるスキルとくっつけるスキルだけではそこまで多くのものは作れなかった。
 そもそも僕の現代知識が乏しい。
 それが一番の問題だ。
 でもやっぱり着鉄はなかなか使えそうなスキルなので前から欲しかったスキルと一緒に取り置きしてもらおう。
 他の2つのスキルは、僕には必要ないかな。
 【爪硬化lv1】は獣人の人とかが使ったら強そうなスキルだ。
 【発芽lv1】は農業に役に立つんじゃないかな、よくわからないけど。

「おじさん、【骨太lv1】と【曲鉄lv1】それから【着鉄lv1】の3つを取り置きしてもらいたいんだけど」

「あいよ。金貨スキルも見ていくんだろ?こっちは取り置きできないけどな」

「うん、わかった」

 僕は銀貨10枚ブースから移動し、高級なスキルが置かれているエリアを見て回る。
 スキルオーブはすべてガラスケースに入っており、銀貨10枚スキルと違って野放図に置かれていることはない。
 鑑定証の詳細欄の文字数も心なしか多いような気がする。
 中央にきらりと光るのは白金貨2枚の【回復魔法lv3】のスキルオーブ。
 先日僕もお世話になってその力の一端を垣間見たからこそ、この値段にも納得だ。
 さて、そのほかにどんなスキルがあるのかな。



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