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43.自己紹介って難しい

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「そういえば自己紹介もまだだったわね。ドワーフのリリテット、19歳よ。あたしは1年しかここにいないけど、仲良くしましょ。リリーって呼んでもいいわ」

 急に始まる自己紹介。
 僕は自己紹介とか一番苦手だ。
 名前と種族と年齢だけでいいのか?
 ロリ姉さん改めリリー姉さんのように何か一言添えたほうがいいのだろうか。

「俺はローレン・ファルマ、16歳。見ての通りの人間だよ。ファルマ商会っていう小さな商会の三男坊だ。爺さんが貧乏貴族の末席だったんで家名があるけど平民だ。よろしく頼むよ」

 会長は会長でいいかな。
 次は僕の番か。
 憂鬱だ。

「僕の名前はクロード。歳は16歳。種族は人間。生まれはハウリア村っていう寒村で、犯罪奴隷になる前は冒険者をしていた。ランクはDだった。よろしく」

 前世で中学校の英語の教科書の最初のページに書いてあった文をアレンジして自己紹介をしてみた。
 たしかマイクはこんな感じで挨拶していたはずだ。
 アイアムジュニアハイスクールスチューデントみたいなとこをアレンジしたけど、なかなかうまくいった気がする。
 何事も模倣から始まるって誰かが言っていたのを思い出した。
 コミュニケーションの基礎はマイクから学ぶとしよう。

「「16歳!?」」

 2人の反応は不思議なことに同じだった。
 僕の歳に驚いているようだ。
 そんな老け顔の自覚は無いので逆だろうか。
 確かに身長は小さいほうだけど。

「まさか同い年だったとはな。2つは下だろうと思ったぞ」

 会長は僕よりも頭一つくらい背が大きい。
 髪は金髪で青い瞳のイケメン。
 確かに会長と並べられると僕は年下に見えてしまうかもしれない。
 やっぱり成長期を毎日黒パンと塩スープで過ごしたせいだろうか。
 小金を持ってからは結構いいものを食べていたはずなのだけれど、僕の成長は遅れてやってくるということもなく僕の身長は160センチに届くか届かないかというところで止まったままだ。

「あんたちゃんとご飯は食べられてたの?成長期にたくさん食べないと大きくなれないわよ?」

 リリテット姉さんはやっぱり姉さんなだけあって母子家庭の長女っぽい雰囲気を醸し出す。
 そういう母性的なところを見せられると童貞はすぐに好きになるからね。
 計算でやっているのなら恐ろしい。

「まあいいわ。クロード、ご飯は残さずいっぱい食べなさい。それで、2人は犯罪奴隷から解放されたいの?もしあたしが死なずにここから出られたら協力するけど……」

 出たいかといわれればまあ出たいけど。
 出るだけなら多分難しくないんだよな。
 僕の反転魔法はスキルレベル6や7のスキルでは破れない。
 【身体強化lv8】の力で切りかかられても攻撃が僕まで届くことはなかった。
 つまり僕を押さえ込むにはスキルレベル9以上の保有者が必要になってくる。
 管理官が作業着着て仕事しているこの鉱山にそんな人材が常駐しているとは考えづらい。
 つまり、力で押し通れば出るだけなら可能なのだ。
 しかしたとえ出られたとしても、大手を振って外を出歩けないような生活ならお断りだ。
 僕は正攻法でここから出る方法を考えなくてはいけない。
 うーん、考えるのは苦手なんだよな。
 頼みの綱はスキル屋店主の知り合いだという執政官か。
 あの謎の多い貴族と盗賊のことを伝えるついでに、スタークと僕のこともそれとなく伝えてくれると店主は言っていた。
 今僕にできることもリリテット姉さんにしてほしいことも特にないな。

「俺が犯罪奴隷になったことには多分親父もすぐに気付くと思うんだ。だから俺は特にないかな。親父がうまくやってくれることを祈るだけだ」

 会長も僕と同じような状態なようだ。
 スタークが僕や会長以外にも不当に犯罪奴隷に落としているとしたら、本当に被害者の会みたいな組織が出来上がってスタークに対抗できるかもしれない。
 会長のお父さんに僕も期待しよう。

「そう。クロード、あんたは?」

 僕は店主の知り合いの執政官の話して会長にも希望があるかもしれないことを教えてあげる。
 
「なるほど、俺の親父のほかにもスタークのことで動いている人がいると思うと少し気が楽になったよ。ありがとな」

 ありがとな、だと……。
 そんなセリフが自然と言える男になりたい。
 
「ふーん、じゃあ2人とも出られる可能性はあるのね。まあ最悪出られなくても2人ともあたしが買い取ってあげるわ」

 男らしい。
 僕は男としてなぜか恥ずかしくなってくる。
 会長も少し赤面しているような気がする。
 
「そ、そのときは頼む……」
 
 ちょっと声が小さいけれどちゃんとそういうこと言えるところが会長のいいところだぞ。
 僕は赤面したまま何も言えないからね。

「それで、考えなきゃいけないのはこれからのことね。ここでの生活のこと」

 姉さんはそう言うと回りを見回す。
 皆遠巻きにこちらをちらちらと見ている。
 僕たちと他の犯罪奴隷とを隔てるように牢名主がその巨体を横たえて白目を剥いている。
 誰か目をそっと閉じてくれる人はいなかったのか。
 目を覚ましたら目カサカサだぞ。
 そんな牢名主に姉さんはズカズカと近づいていき、その頭をぺしぺしと叩く。
 鬼か。

「起きなさいよあんた!」

「う、俺様は……なにを……。ヒェッ、化け物!!殴らないで殴らないで殴らないで殴らないでこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい……」

 牢名主は頭を抱えて蹲り、生まれたての子犬のように震えている。
 どうやら得体の知れないエロい幼女に殴り負かされるという経験が、完全に心を圧し折ってしまったようだ。
 たぶんあの巨体だからあまり力で負けた経験が無いんだろう。
 僕と同じでメンタルが弱いタイプのようだ。
 少し仲良くなれそう。

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