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92.仕組まれた襲撃
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「此度のワイバーン襲来、おかしな点がある」
ワイバーンの襲来から数日後のこと。
なぜか僕たちはリグリット様に呼び出され、お話を聞かされている。
「ワイバーンは21頭。やってきた方角は西だ」
リグリッド様は何故僕たちを呼んだのか明かさず続きを話し始める。
「西といえば山を一つ越えれば帝国領だ。山を下ってすぐに国境線があり、その向こう側には帝国領に属する村がひとつある。しかし昨日帰ってきた調査チームの報告では、その村にワイバーンによる被害はなかったそうだ」
確かにおかしい。
帝国と王国の国境にある山には、ワイバーンが生息しているなんて聞いたことがない。
となればワイバーンは更に西の帝国領から来たことになるのに、帝国側の村は無事。
偶然ワイバーンが気まぐれでその村を襲う気にならなかったのだろうか。
「帝国領の村では、ワイバーンの目撃証言すらなかったそうだ」
見た人もいないというのは更におかしな話だ。
それではまるで、国境にある山でワイバーンが突然発生したみたいだ。
しかしワイバーンも生物である以上親もなく突然発生するようなことはありえない。
うーん、いったいどうなっているんだ。
「もう一つ、調査チームが国境の山で発見したものがあった。死体だ。それも獣に食い散らされたような無残な死体だったそうだ。それが大体大人10~20人分ほど」
ずいぶんとたくさんの人が亡くなっているな。
ワイバーンと何か関係があるのだろうか。
ワイバーンがその人たちを食い殺したとかだろうか。
「以上のことから、僕はワイバーンの襲撃は仕組まれたものだと判断した」
え、なんで。
ちょっと待ってよ。
ワイバーンの浸入経路が分からなくて国境の山で人がたくさん死んでいたからといって、なぜワイバーンの襲撃が人為的となるのか。
偉い人の頭の中はどうなっとるんや。
「クロード、何を言っているのか分からないといった顔だな」
「え、ええ。正直なところ何がなんだか……」
「ミランダは鑑定持ちでな、すまないがお前のスキルを見せてもらったぞ。とんでもないスキルレベルのことはとりあえず聞かない。だがお前も持っているだろう?どこにでも危険な魔物を呼べてしまうスキルを」
そうか、召喚スキル。
山の中で死んでいた人の数とワイバーンの数が大体一緒だ。
全員がワイバーン召喚のスキルを用意して、一斉に召喚したのか。
でも死んでしまったということはその人たちは……。
自爆テロ、そんな言葉が僕の頭の中に浮かんだ。
なんだか見ず知らずの人だけど、胃がムカムカするような気がする。
あれ、そういえば僕のスキル見られた!?
スキルレベルが高いことは聞かないでくれるようだけど、【エナジードレイン】と【召喚術(ガルーダ)】はちょっとまずいかもしれない。
「安心しろ。お前を捕らえたりはしない。というかできないだろどう考えても。【エナジードレイン】は暗殺の危険があるために、【召喚術(ガルーダ)】は単純にガルーダ御せないから販売が禁止されているのだ。お前には暗殺など必要なさそうだし、ガルーダは御せるのだろう?問題はない」
「ど、どうも……」
なんとか犯罪奴隷生活に逆戻りせずにすみそうだ。
僕は胸をなでおろし、温くなってしまったお茶を一口飲む。
貴族の邸宅で飲むお茶は高い茶葉の味がした。
僕はティーバックの紅茶のほうが好きかも。
「話がそれたがおそらく奴等はワイバーン召喚スキルを使ってワイバーンを呼び出し、この領都を襲わせたんだ。自分達の命を引き換えにな」
ワイバーンを召喚した人たちは自分達が死ぬことを知っていたのだろうか。
この世界には自分のスキルを確認する手段が鑑定しかない。
騙されてワイバーンを召喚させられたという可能性もあるのではないだろうか。
どちらにしても胸の悪くなるような話だ。
「それで、なぜその話を僕たちに?」
「お前らがこの街で一番強いからだ」
「?」
僕はミゲル君と会長、リリー姉さんのほうを見る。
確かにみんな強い。
リグリット様たちのパーティは純粋培養の強さがあるけれど、こちらは野に生えた雑草のような強さがある。
しかし強いことがなぜこの話に繋がるのか。
ワイバーンは誰かに仕組まれたことが判明したけれど、それについて僕たちにできることは無いような気がする。
「お前達には僕たちの護衛を頼みたい」
護衛、ということはリグリット様たちが狙われているのかな。
まあ僕は護衛は得意だよ。
なにせ僕にはゴブ次郎という優秀な忍がいる。
「実は去年、エルフの行商人が販売禁止指定の危険なスキルオーブをこの街に持ち込んだ事件があってな」
そんなエルフどこにでもいるし、どのエルフのことなのかさっぱりだよ。
いやぁ、意外とエルフっていっぱいいるんだね。
まるで僕の知り合いのエルフみたいだ。
「残念ながらそのエルフは逃がしてしまったのだが、そのエルフにスキルオーブを売った商人を突き止めることに成功した」
おお、エルフは捕まらないのにそっちは捕まるんだ。
すごいなエルフ。
「その商人が今回のワイバーン襲来事件に関わっているのではないかと僕は思っているのだ。それでそこに乗り込んで締め上げようと思っているのだが、爺が危険だとうるさくてな」
リグリット様の後ろに控える厳しい顔の老執事が無言で咳払いをする。
隣にはいつぞやのオーク戦の後に僕に金貨の入った袋を渡してきた執事が立っている。
そっちの執事さんはニコリと笑って僕に一礼する。
こちらも会釈で返した。
貴族の執事というのも謎な職業だ。
「坊ちゃまはまだ14歳でいらっしゃいます。そのような荒事はまだ早うございます」
「来月には15になる」
「それでもダメなものはダメです」
「まあ、こんな調子でな」
なるほど。
それで僕たちに護衛依頼をするということなのか。
「この街最強の冒険者を護衛につければ爺も文句は言えまい。どうだ、受けてくれるか?」
僕はパーティーメンバーのみんなに確認する。
みんな首を縦に振って頷いている。
問題ないみたいだ。
「わかりました。その依頼をお受けします」
ワイバーンの襲来から数日後のこと。
なぜか僕たちはリグリット様に呼び出され、お話を聞かされている。
「ワイバーンは21頭。やってきた方角は西だ」
リグリッド様は何故僕たちを呼んだのか明かさず続きを話し始める。
「西といえば山を一つ越えれば帝国領だ。山を下ってすぐに国境線があり、その向こう側には帝国領に属する村がひとつある。しかし昨日帰ってきた調査チームの報告では、その村にワイバーンによる被害はなかったそうだ」
確かにおかしい。
帝国と王国の国境にある山には、ワイバーンが生息しているなんて聞いたことがない。
となればワイバーンは更に西の帝国領から来たことになるのに、帝国側の村は無事。
偶然ワイバーンが気まぐれでその村を襲う気にならなかったのだろうか。
「帝国領の村では、ワイバーンの目撃証言すらなかったそうだ」
見た人もいないというのは更におかしな話だ。
それではまるで、国境にある山でワイバーンが突然発生したみたいだ。
しかしワイバーンも生物である以上親もなく突然発生するようなことはありえない。
うーん、いったいどうなっているんだ。
「もう一つ、調査チームが国境の山で発見したものがあった。死体だ。それも獣に食い散らされたような無残な死体だったそうだ。それが大体大人10~20人分ほど」
ずいぶんとたくさんの人が亡くなっているな。
ワイバーンと何か関係があるのだろうか。
ワイバーンがその人たちを食い殺したとかだろうか。
「以上のことから、僕はワイバーンの襲撃は仕組まれたものだと判断した」
え、なんで。
ちょっと待ってよ。
ワイバーンの浸入経路が分からなくて国境の山で人がたくさん死んでいたからといって、なぜワイバーンの襲撃が人為的となるのか。
偉い人の頭の中はどうなっとるんや。
「クロード、何を言っているのか分からないといった顔だな」
「え、ええ。正直なところ何がなんだか……」
「ミランダは鑑定持ちでな、すまないがお前のスキルを見せてもらったぞ。とんでもないスキルレベルのことはとりあえず聞かない。だがお前も持っているだろう?どこにでも危険な魔物を呼べてしまうスキルを」
そうか、召喚スキル。
山の中で死んでいた人の数とワイバーンの数が大体一緒だ。
全員がワイバーン召喚のスキルを用意して、一斉に召喚したのか。
でも死んでしまったということはその人たちは……。
自爆テロ、そんな言葉が僕の頭の中に浮かんだ。
なんだか見ず知らずの人だけど、胃がムカムカするような気がする。
あれ、そういえば僕のスキル見られた!?
スキルレベルが高いことは聞かないでくれるようだけど、【エナジードレイン】と【召喚術(ガルーダ)】はちょっとまずいかもしれない。
「安心しろ。お前を捕らえたりはしない。というかできないだろどう考えても。【エナジードレイン】は暗殺の危険があるために、【召喚術(ガルーダ)】は単純にガルーダ御せないから販売が禁止されているのだ。お前には暗殺など必要なさそうだし、ガルーダは御せるのだろう?問題はない」
「ど、どうも……」
なんとか犯罪奴隷生活に逆戻りせずにすみそうだ。
僕は胸をなでおろし、温くなってしまったお茶を一口飲む。
貴族の邸宅で飲むお茶は高い茶葉の味がした。
僕はティーバックの紅茶のほうが好きかも。
「話がそれたがおそらく奴等はワイバーン召喚スキルを使ってワイバーンを呼び出し、この領都を襲わせたんだ。自分達の命を引き換えにな」
ワイバーンを召喚した人たちは自分達が死ぬことを知っていたのだろうか。
この世界には自分のスキルを確認する手段が鑑定しかない。
騙されてワイバーンを召喚させられたという可能性もあるのではないだろうか。
どちらにしても胸の悪くなるような話だ。
「それで、なぜその話を僕たちに?」
「お前らがこの街で一番強いからだ」
「?」
僕はミゲル君と会長、リリー姉さんのほうを見る。
確かにみんな強い。
リグリット様たちのパーティは純粋培養の強さがあるけれど、こちらは野に生えた雑草のような強さがある。
しかし強いことがなぜこの話に繋がるのか。
ワイバーンは誰かに仕組まれたことが判明したけれど、それについて僕たちにできることは無いような気がする。
「お前達には僕たちの護衛を頼みたい」
護衛、ということはリグリット様たちが狙われているのかな。
まあ僕は護衛は得意だよ。
なにせ僕にはゴブ次郎という優秀な忍がいる。
「実は去年、エルフの行商人が販売禁止指定の危険なスキルオーブをこの街に持ち込んだ事件があってな」
そんなエルフどこにでもいるし、どのエルフのことなのかさっぱりだよ。
いやぁ、意外とエルフっていっぱいいるんだね。
まるで僕の知り合いのエルフみたいだ。
「残念ながらそのエルフは逃がしてしまったのだが、そのエルフにスキルオーブを売った商人を突き止めることに成功した」
おお、エルフは捕まらないのにそっちは捕まるんだ。
すごいなエルフ。
「その商人が今回のワイバーン襲来事件に関わっているのではないかと僕は思っているのだ。それでそこに乗り込んで締め上げようと思っているのだが、爺が危険だとうるさくてな」
リグリット様の後ろに控える厳しい顔の老執事が無言で咳払いをする。
隣にはいつぞやのオーク戦の後に僕に金貨の入った袋を渡してきた執事が立っている。
そっちの執事さんはニコリと笑って僕に一礼する。
こちらも会釈で返した。
貴族の執事というのも謎な職業だ。
「坊ちゃまはまだ14歳でいらっしゃいます。そのような荒事はまだ早うございます」
「来月には15になる」
「それでもダメなものはダメです」
「まあ、こんな調子でな」
なるほど。
それで僕たちに護衛依頼をするということなのか。
「この街最強の冒険者を護衛につければ爺も文句は言えまい。どうだ、受けてくれるか?」
僕はパーティーメンバーのみんなに確認する。
みんな首を縦に振って頷いている。
問題ないみたいだ。
「わかりました。その依頼をお受けします」
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