追放された精霊術師は砂漠の国で小娘の奴隷となる

兎屋亀吉

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1.ある国の革命

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「精霊術師ロキ・ウォーレン。今まで国のために働いてきたあなたに私は酷なことを言わなければなりません」

「知ってるよ。王が倒されたんだろう。お前たちは革命に成功したわけだ。おめでとう」

 王宮に武装した民衆が雪崩れ込んできたのは知っている。
 あれだけ大騒ぎをすれば精霊術師でなくとも気が付くだろう。
 倒された王はあまり評判が良くなかったが、僕から見たら結構頑張っていたと思う。
 それでも民衆が武装して蜂起したということは、王はやり方を間違っていたということなんだろうな。
 民衆が馬鹿だということは僕でも知っていることだ。
 王はその馬鹿さ加減を知ってコントロールしなければならない。
 王が倒されたのはそれをしくじったせいだ。
 自分が殺されたことを人のせいにできないのが王の可哀そうなところだよな。
 まあ僕は別に誰の下でもやることは変わらない。

「それで、僕はお前たちの下に付けばいいのか?敬語とか使ったことがないからできないが、やれと言われれば頑張るぞ」

「いいえ、あなたに私達の下についていただく必要はありません。あなたは危険すぎる。前王はあなたにとって親みたいなものだったのではないですか?」

「いや、そんなことは……」

「あなたが何を言おうと私達はあなたを前王の派閥の一員であると判断します」

 なんか話の流れがおかしいな。
 確かに僕を前王の派閥の一員だと判断する人はいるけれど、そうではないことは王宮で働く人の間では有名な話だ。
 前王とは絶望的に馬が合わなかった。
 前王は髪型のセンスとかどう考えても狂っていたし、好きな酒も僕が嫌いなものばかり、気取ったしゃべり方が鼻につく。
 そのくせ女の好みだけが被っているせいで僕はあいつにずいぶん煮え湯を飲まされた。
 死んだら葬儀には出てやるかとは思っていたけれど、その程度の関係でしかない。
 それなのに、連座で処刑とか冗談じゃないぞ。

「いや、僕は違うって。国王とか嫌いだったし。王宮の奴らに聞いてくれればわかるって」

「王宮の者共の言うことなど信用できません」

「どうしたら僕の命を助けてくれる?靴を舐めろとかその程度ならばやぶさかではない」

 僕はプライドを捨て、地に膝をついて懇願する。
 僕は精霊術師なのでとても強いけれど、さすがに王の持つ軍勢を破って王宮に入ってきたこいつらの全軍を蹴散らせるほどではない。
 半分くらいは殺せるだろうけれど、その頃には僕も死んでいる。
 僕はこんなところで死にたくはない。

「はぁ、見苦しい。連れて行きなさい」

「ま、待ってくれっ。やめろ、はなせっ」

 武装した男たちに両腕をがっちりと掴まれて連れていかれる。
 このままでは処刑されてしまう。
 僕は精霊術を使って男たちを吹き飛ばした。

「お、大人しくしてくださいっ」

「囲め!」

 ぐるりと囲まれてしまった。
 僕が抵抗の意を示したからか、ぞろぞろと増援が入ってくる。
 こうなればできるだけ多くを道連れに死んでやるか。

「ま、待てっ。お前たち待て!リグル殿、話が違いますぞ。ロキ様は王の派閥ではないと申したではないですか。あなたはそれならば追放に留めてくださると確かに言ったはずだ!」

 部屋に飛び込んできて男たちを止めたのはこの国の副将軍の一人だった。
 なるほど、王宮の中にも協力者がいたのか。
 僕は結局、王の派閥ではないと判明しても追放される運命だったのか。
 だがまあ、命だけは助かりそうな気がしてきた。

「ふんっ、私は処刑するとは一言も言ってない」

「私が来なければそのまま連行して処刑するつもりだったのではありませんかな」

「ちっ、さっさと連れていけ」

 リグルという男はずいぶんと裏表がありそうな奴だな。
 あんな奴が国のためを想って民衆を蜂起させたとは思えん。
 革命は成功したが、この国はもうダメかもしれん。
 僕にはもう関係ない話だがな。





「ロキ様、すみません。このようなことになってしまって」

「お前のせいではない、とでも言ってほしいのかもしれんが僕はお前のせいで追放だ。一生恨むぞ」

「わかっております。しかし、無能の王に民衆は苦しめられていたのです。これは民の声ですよ。王は民の声を聞かなさすぎた。ゆえに討たれたのですよ」

 王は無能ではなかった。
 それは確かなことだ。
 ただ民の気持ちがわからない王だったこともまた確かだ。
 王が考えていたのは10年、20年後のこの国のことだ。
 しかし民衆が見ているのは明日のことばかり。
 王が無能に見えても仕方がない。
 王はもっと国民に自分が有能な王であることをアピールしなければならなかったのだ。
 明日のことしか考えられない馬鹿な民衆の気持ちが理解できなかった王は確かに王失格だったということなのだろうな。
 僕も愚かな民衆の考えることなんて全く理解できないから王には少しだけ同情する。
 だが僕が一番同情しているのはその馬鹿な民衆にだ。
 こいつらは自分が愚かだったせいで有能な王を殺し、自分と同程度の馬鹿を新たな王として仰ぐのだ。
 まったく可哀そうな奴らだ。

「着きました。ここでお別れです。お元気で」
 
「は?」

 馬車が止まり、外を見るとそこは一面の砂漠だった。

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