追放された精霊術師は砂漠の国で小娘の奴隷となる

兎屋亀吉

文字の大きさ
2 / 14

2.見渡す限りの砂の大地

しおりを挟む
 背中を蹴られ、地面に転がり落ちる。
 僕はこの扱いに抗議しようと後ろを振り返って呆然とする。
 そこには何もなかったからだ。
 乗ってきた馬車も、それを操る人も、副将軍も。

「転移石か。そこまでするのか……」

 僕はずっと馬車で国境まで移動していると思っていたのだが、どうやら途中で僕を乗せた馬車はアイテムの力で転移していたようだ。
 そして僕を下してそのまま転移で逃げたのか。
 こんな広い砂漠なんて国内にあるという話を聞いたことはない。
 確か3つほど隣の国は砂漠のオアシスにできた国だと聞いた。
 転移石は事前に地点登録が必要なはずだから、距離的に考えてもおそらくここはその3つ隣の国の砂漠地帯なのだろう。
 まあ精霊術師を国外追放にしようと思ったらこのくらいしないと意味がないとは思う。
 しかしこれは、言葉だけの国外追放だな。
 実質は処刑に近い。
 僕は3つのときに天然の精霊術師であることがわかり親元から引き離され、それからずっと侍女に囲まれた王宮暮らしだ。
 精霊の力を借りて超常の力を振るう精霊術師というのは国にとって時に王よりも重要な役割だ。
 それゆえに僕は下手したら王族や王本人よりもちやほやされて育ってきたのだ。
 つまり何が言いたいかといえば、僕は自分一人では暮らしてはいけないほどにお坊ちゃん育ちなのだ。
 こんな砂漠に一人置いていかれて生きていけるはずがない。





 お腹が空いて死にそうだ。
 砂漠に置いていかれて今日で3日になる。
 精霊術師を処刑したとなれば外聞が悪すぎるので国外追放ということにしてこんな場所に置いていったのだろうがあの副将軍め、名前は覚えてないけど絶対許さん。
 砂を食ってでも生き伸びて生まれてきたことを後悔させてやる。
 未だ生きる意思に溢れた僕であるが、意思だけで砂漠を抜けられれば苦労はない。
 このクソみたいに広い砂漠は歩いても歩いても、人の住む場所には一向にたどり着かない。
 精霊に頼んで空中を飛行して移動してみたりもしたが、どちらにどれだけ飛ぼうと何も見えてこなかった。
 いったいどれだけ広い砂漠なんだ。
 僕じゃなかったらもうとっくの昔に死んでいることだろう。
 僕は天然の精霊術師なので照り付ける日差しもそれほど暑いとは感じない。
 精霊術師と呼ばれる存在には二種類ある。
 生まれたときから精霊と共にある天然の精霊術師と、後天的に精霊を従わせる術を学んだ人工の精霊術師だ。
 僕は前者だ。
 どちらのほうが強いとかは一概に言えるものではないけれど、どちらかといえば天然のほうが強い力を持っている可能性が高い。
 なにせ生まれたときから精霊が従っているのだ。
 僕にとっては、精霊に意思を伝えて何かをしてもらうのは息をするようなものだ。
 普通は日差しが強かったら暑いと思ってからなんとかしようと思うのだろうけど、僕にとって日差しというのは精霊たちが弱めてくれるものなので最初から暑くないものという認識なのだ。
 暑いとか、寒いとかの環境の問題は大体精霊がなんとかしてくれる。
 水も精霊がどこかからかき集めてきてくれるので飲みたいときに飲める。
 キンキンに冷えたやつをゴクゴクとだ。
 歩き疲れた足も精霊がいつの間にか癒してくれるので問題はない。
 辛いのは空腹だ。
 精霊たちに食べ物を持ってきてくれと頼んだところで何を持ってきていいのかわからないらしい。
 たまに変な生き物の死骸などを持ってくることもあるけれど、僕は料理なんてしたことがないのでどうやって食べていいのかわからない。
 そのままかじってみたりもしたけれど固くて噛み切れなかった。
 このままでは飢え死にしてしまうだろう。
 人間というのは何日くらい食べなかったら死ぬのだろうか。
 僕の空腹の辛さ加減から考えて、4日くらいだろうか。
 あと丸1日くらい何も食べられなかったらこのまま死んでしまってもおかしくはない。
 そのくらい辛いのだ。
 食べられないということがこんなに辛いとは思わなかった。
 ただ座って待っていたら食事が運ばれてくる王宮がどれだけ恵まれていたのかを今更になって思い知る。

「ダメだ、腹が減ってふらついてきた」

 急に意識が遠くなり、倒れそうになる僕の身体を精霊が優しく受け止める。
 火傷しそうなほどに熱い砂が僕が倒れた場所だけ冷やされて心地よい温度となった。
 もはや歩くこともダルくなってしばし寝転んで空を見上げる。
 雲一つない晴天だ。
 顔を横に向けて砂漠を遠くまで見渡す。
 いったいこの砂漠はどこまで続いているんだろう。

「ん?何か見えたような……」

 ゆらゆらと揺れる陽炎の中に、一瞬だけ何かが見えたような気がした。
 僕は精霊に頼んであちらに何があるのかを見せてもらう。
 空中に水鏡が浮かび、遥か彼方の物が映し出される。

「これは、街だ!」

 僕は飛び起き、宙に浮かぶ。
 ちんたら歩いてなんていられない。
 街がある方に向かって全力で飛んだ。
 1、2秒でたどり着く。
 降り立ってすぐに僕の心は再び絶望に落とされた。
 人影が全く存在しなかったのだ。
 建物は風化し、半分砂に埋もれている。
 僕が街だと思ったそこは、ただの廃墟だった。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!

ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。 転生チートを武器に、88kgの減量を導く! 婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、 クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、 薔薇のように美しく咲き変わる。 舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、 父との涙の再会、 そして最後の別れ―― 「僕を食べてくれて、ありがとう」 捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命! ※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中 ※表紙イラストはAIに作成していただきました。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

処理中です...