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11.砂漠の魔物
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街の近くで狩ることのできる魔物は3種類いるそうだ。
砂と同色の皮膚で周囲の景色に同化するサンドリザードというトカゲの魔物。
巨大なハサミで何でも千切って食らうデザートクラブというカニの魔物。
砂の中に潜み、動くものになんでも食らいつくサンドワームというミミズの魔物。
この3種類だ。
中でも危険なのはデザートクラブとサンドワームで、初心者は比較的安全なサンドリザードを狙うらしい。
狙うといってもサンドリザードの縄張りにサンドワームが潜んでいないとは限らない。
サンドリザードとデザートクラブは明確に縄張りがあるが、サンドワームにはそれが無いのだ。
むしろサンドリザードやデザートクラブを捕食するために積極的にこの2種の縄張りに入っていくことだろう。
それゆえ、砂漠の中はどこにいても危険なことに変わりない。
まあ僕にはあまり関係がないことだが。
僕は襲い掛かってきたデザートクラブのハサミを空間の力でちょん切る。
わざわざカニのハサミを切るために空間に穴を開けることはない。
切りたい場所を空間的に断絶させればいいだけの話だ。
一瞬だけ断絶された空間は、またすぐに元に戻るが一緒に断絶されたカニのハサミは戻らない。
砂埃を立てて切断されたハサミが地に落ちた。
「デザートクラブの硬い甲殻がこんなにあっさり。やっぱりロキは強いね」
「デザートクラブは食えるのか?」
「食べられるよ。街の近くで狩ることのできる魔物の中では一番のご馳走なの」
そうなのか。
僕はラージスコルピオに酷く食あたりしてからというもの、少し甲殻類の肉が苦手になっている。
しかしこのカニとあのサソリは違う。
そう言い聞かせることで自分の中で折り合いをつけた。
「今日の夕食はこれを食してみるか」
「え、いいの?売るんでしょ?」
「食いたいんだろ?」
「うんっ。ありがとう、ロキ」
チュッと頬に柔らかいものが押し付けられる。
ガキみたいなキスだ。
僕は少し頬を赤く染めているアイファの顔を両手でわしっと掴んで大人のキスを教えてやる。
触れ合う唇と唇。
柔らかく、温かい感触。
「んっ、んんっ、んんーー!!」
30秒ほどでアイファの顔は茹でた甲殻類の殻のように真っ赤になった。
大人のキスはここからが凄いのだが、このままではアイファが卒倒しそうだったので唇を離してやった。
この続きは夜にでも。
「んあっ、はぁはぁ、ちょっとロキ……」
「あんなガキみたいなキスをするからだ」
「もうっ、どっちが奴隷かわからない」
もとから僕とアイファの関係は奴隷ごっこにすぎない。
どっちが奴隷役でも大して違いはないだろう。
強いて言うならば、僕は奴隷役よりもご主人様役のほうが好きな気がするがな。
「ふわぁ、すっごい。夜の砂漠ってこんなに星が綺麗なんだぁ」
「そうだな。僕も今初めて見た」
アイファはこの砂漠の国に生まれたときから住んでいながら、夜の星を見上げたことがないのだと言う。
夜の砂漠は言わずもがな危険であるし、夜はスラムだって安全ではない。
せいぜいが窓から見上げる夜空程度で、満天の星空を見上げるような機会はこれまでなかったようだ。
僕もこの国に来てから夜空を眺めるのは初めてな気がする。
空腹で砂漠を彷徨っている間は、夜になったからといって空を眺めようとも思わなかった。
ただ食べ物のことしか頭になかったのだ。
これでは今日や明日の食事のことしか考えないというスラムの連中を笑えない。
僕ももっと、色々なことに目を向けて考えていく必要があるのだろう。
「あ、そろそろ煮えてきたよ。カニ鍋」
「そうだな……」
トラウマにいつまでも引き摺られるのは僕の趣味じゃない。
そろそろ甲殻類の悪夢からは抜け出させてもらう。
アイファが器によそってくれたカニの肉と葉物野菜のスープは、とてもいい匂いがしていた。
空腹に腹が鳴る。
あの巨大な甲殻類とは思えん匂いだな。
今の今までぐつぐつと煮えたぎっていた熱々のスープを一口、口に含む。
カニや野菜から出た複雑な味が口の中いっぱいに広がる。
「なんだこれは……」
「美味しくなかった?」
「いや、今まで食べた中で間違いなく一番美味い」
「えへへ、よかった」
極上のスープだ。
スープを作るとき、アイファはあの硬くてとても食えたものではないカニの殻まで入れて煮込んでいたが、料理に多少の造詣があるアイファが無駄なことをするとは思えない。
あの殻にも意味があったということだろう。
まさか、あの殻からこの味が出ているのか?
硬い殻ほどいい味が出るということか?
では、もっと硬い石や鉄を煮込めば……。
いやそんなはずはないか。
石や鉄を煮込んでスープを作ったという話を聞いたことがない。
だが、ラージスコルピオの殻あたりはいい味が出るのではないだろうか。
馬鹿なことを考えた。
あんなものを再び食えるわけがない。
あれは僕にはまだ早い。
一つ一つ乗り越えていけばいいのだ。
まずはこのカニを美味しくいただくことを考えよう。
僕は弾力のあるカニの肉を口に頬張った。
美味いな。
少しだけ、トラウマを超越できた気がした。
砂と同色の皮膚で周囲の景色に同化するサンドリザードというトカゲの魔物。
巨大なハサミで何でも千切って食らうデザートクラブというカニの魔物。
砂の中に潜み、動くものになんでも食らいつくサンドワームというミミズの魔物。
この3種類だ。
中でも危険なのはデザートクラブとサンドワームで、初心者は比較的安全なサンドリザードを狙うらしい。
狙うといってもサンドリザードの縄張りにサンドワームが潜んでいないとは限らない。
サンドリザードとデザートクラブは明確に縄張りがあるが、サンドワームにはそれが無いのだ。
むしろサンドリザードやデザートクラブを捕食するために積極的にこの2種の縄張りに入っていくことだろう。
それゆえ、砂漠の中はどこにいても危険なことに変わりない。
まあ僕にはあまり関係がないことだが。
僕は襲い掛かってきたデザートクラブのハサミを空間の力でちょん切る。
わざわざカニのハサミを切るために空間に穴を開けることはない。
切りたい場所を空間的に断絶させればいいだけの話だ。
一瞬だけ断絶された空間は、またすぐに元に戻るが一緒に断絶されたカニのハサミは戻らない。
砂埃を立てて切断されたハサミが地に落ちた。
「デザートクラブの硬い甲殻がこんなにあっさり。やっぱりロキは強いね」
「デザートクラブは食えるのか?」
「食べられるよ。街の近くで狩ることのできる魔物の中では一番のご馳走なの」
そうなのか。
僕はラージスコルピオに酷く食あたりしてからというもの、少し甲殻類の肉が苦手になっている。
しかしこのカニとあのサソリは違う。
そう言い聞かせることで自分の中で折り合いをつけた。
「今日の夕食はこれを食してみるか」
「え、いいの?売るんでしょ?」
「食いたいんだろ?」
「うんっ。ありがとう、ロキ」
チュッと頬に柔らかいものが押し付けられる。
ガキみたいなキスだ。
僕は少し頬を赤く染めているアイファの顔を両手でわしっと掴んで大人のキスを教えてやる。
触れ合う唇と唇。
柔らかく、温かい感触。
「んっ、んんっ、んんーー!!」
30秒ほどでアイファの顔は茹でた甲殻類の殻のように真っ赤になった。
大人のキスはここからが凄いのだが、このままではアイファが卒倒しそうだったので唇を離してやった。
この続きは夜にでも。
「んあっ、はぁはぁ、ちょっとロキ……」
「あんなガキみたいなキスをするからだ」
「もうっ、どっちが奴隷かわからない」
もとから僕とアイファの関係は奴隷ごっこにすぎない。
どっちが奴隷役でも大して違いはないだろう。
強いて言うならば、僕は奴隷役よりもご主人様役のほうが好きな気がするがな。
「ふわぁ、すっごい。夜の砂漠ってこんなに星が綺麗なんだぁ」
「そうだな。僕も今初めて見た」
アイファはこの砂漠の国に生まれたときから住んでいながら、夜の星を見上げたことがないのだと言う。
夜の砂漠は言わずもがな危険であるし、夜はスラムだって安全ではない。
せいぜいが窓から見上げる夜空程度で、満天の星空を見上げるような機会はこれまでなかったようだ。
僕もこの国に来てから夜空を眺めるのは初めてな気がする。
空腹で砂漠を彷徨っている間は、夜になったからといって空を眺めようとも思わなかった。
ただ食べ物のことしか頭になかったのだ。
これでは今日や明日の食事のことしか考えないというスラムの連中を笑えない。
僕ももっと、色々なことに目を向けて考えていく必要があるのだろう。
「あ、そろそろ煮えてきたよ。カニ鍋」
「そうだな……」
トラウマにいつまでも引き摺られるのは僕の趣味じゃない。
そろそろ甲殻類の悪夢からは抜け出させてもらう。
アイファが器によそってくれたカニの肉と葉物野菜のスープは、とてもいい匂いがしていた。
空腹に腹が鳴る。
あの巨大な甲殻類とは思えん匂いだな。
今の今までぐつぐつと煮えたぎっていた熱々のスープを一口、口に含む。
カニや野菜から出た複雑な味が口の中いっぱいに広がる。
「なんだこれは……」
「美味しくなかった?」
「いや、今まで食べた中で間違いなく一番美味い」
「えへへ、よかった」
極上のスープだ。
スープを作るとき、アイファはあの硬くてとても食えたものではないカニの殻まで入れて煮込んでいたが、料理に多少の造詣があるアイファが無駄なことをするとは思えない。
あの殻にも意味があったということだろう。
まさか、あの殻からこの味が出ているのか?
硬い殻ほどいい味が出るということか?
では、もっと硬い石や鉄を煮込めば……。
いやそんなはずはないか。
石や鉄を煮込んでスープを作ったという話を聞いたことがない。
だが、ラージスコルピオの殻あたりはいい味が出るのではないだろうか。
馬鹿なことを考えた。
あんなものを再び食えるわけがない。
あれは僕にはまだ早い。
一つ一つ乗り越えていけばいいのだ。
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美味いな。
少しだけ、トラウマを超越できた気がした。
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