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10.蜃気楼のような2人の関係
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酷い匂いのするスラムをアイファと2人連れ立って歩く。
今日は砂漠に出るために2人とも分厚い外套を着込んできている。
僕は別に日差しに焼かれたりしないのだが、薄着で砂漠を歩くのは不自然だろうからな。
それに裸みたいな服よりも外套を着込んでいたほうが落ち着く。
「ねえ、本当に街から出るの?砂漠はとても危ないんだよ?」
「そう思うなら街で待っていればいいだろ」
「だめだよ。ロキは目を放したらすぐにどこかにいなくなっちゃうかもしれないから」
そんなに心配しなくても、何も言わずにどこかに去ったりはしないつもりなんだけどな。
だが、アイファの気持ちもわからんでもない。
僕とアイファは所詮一晩寝ただけの男と女だ。
2人の間には信頼関係というものがない。
僕は契約は破るつもりはないが、アイファは僕のことをよく知らない。
僕もまた、アイファのことをよく知らない。
これから少しずつ、お互いのことを知っていきながら信頼関係というものを築いていくしかないか。
「付いてくるのはいいが、僕から離れるなよ」
「わかった」
僕たちは揃って街を出る。
アイファは僕から離れないようにか、僕の外套の裾を軽く掴んでいる。
歩きにくいが、勝手にうろつかれるよりはマシか。
「ねえ、ロキ。なんでそんなに急いで狩人になろうと思ったの?ロキの服を売ったお金は私達が5年以上食べていける額だったんだよ?」
「一生食べていけるような額ではなかったんだろ?だったら怠ける理由にはならない」
「でも、ちょっとくらい休んでも……」
「悪いが、僕は一生お前と一緒にいるかどうかわからない。アイファが一生生きていけるだけの金銭は、急いで稼がないといけない」
人は生きているだけで金がかかる生き物だ。
辺境で自給自足でもしながら生きない限りは、その事実は変わらない。
人の一生には、いったいどのくらいのお金が必要になるのだろうか。
僕にはわからない。
普通は、一生分のお金は一生をかけてゆっくりと稼いでいくものだろう。
来月必要なお金は今月稼ぎ、いざという時のために貯蓄をする。
そうしていつか働けなくなったときには、その貯蓄を使って暮らすのだ。
それでも暮らせなくなれば人は死んでいく。
そういうものだと僕は聞いている。
だけど、僕は一生ここでアイファと暮らすという未来が想像できない。
小娘の処女に人一人の一生分の価値があるとは思えないが、僕はアイファには死んでほしくない。
だから一生分の金を稼ぎ、いつか僕がいなくなったときに備えてほしいのだ。
「ロキ、ごめんね」
「何がだ」
「ロキは、本当は私なんかに構ってくれるような人間じゃないんだよね」
そういう意味で言ったわけではなかったんだけどな。
人と話すというのは難しい。
こんなに人の気持ちを慮ったのは生まれて初めてかもしれない。
僕はなんと言っていいのかわからず、無言になってしまう。
精霊は人との話し方なんか教えてくれないだろう。
僕はいつの間にか、自分の生まれを口にしていた。
「僕は、貧しい農村の生まれだと聞いている」
「聞いているって、自分の生まれでしょ?」
「故郷の記憶がほとんどないんだ。3つになったばかりの頃に故郷から引き離されてしまったから」
「そうなんだ……」
記憶にある一番古い記憶は、畑の近くで昼寝をしている記憶。
両親は必死に畑を耕していた。
僕が起きるとすぐに駆けつけてきて、笑いかけてくれた。
その両親の顔は、もやがかかったように思い出すことができない。
両親は、幸せだったのだろうか。
僕がいなくなって、寂しいと思ったのだろうか。
「わからないんだ。僕には普通の人の人生というものが。みんなどうやって生きて、どうやって死んでいくのか」
「私にもわからないよ。ううん、たぶんスラムに生きている人はみんな想像もしていない。せいぜい今日はご飯が食べられるのか、明日がどんな一日になるのかっていうことしか考えてないんだ」
「そうなのか」
「ロキはさ、やりたいことってないの?スラムの長老から聞いたんだけどね、弱肉強食って言って力がある人は何をやってもいいんだって。ロキはきっと、私が見た誰よりも力を持っていると思うの。だからロキは何をやってもいいの。ロキはどんな生き方をしても許される。でも、心の片隅にちょっとだけ私のことを置いてもらえないかな。私はそれだけでいいから」
力ある者は何をやっても許される、か。
スラムの長老らしい教えだ。
僕のやりたいこと、そんなことは考えたこともなかった。
ずっと、王の言うままに精霊術師として王宮で仕事をしてきた。
それがある日突然今まで命令を出していた王が倒されたのだ。
僕はこれから何をして生きればいい。
僕を普通の人生から引き離しておいて、突然死ぬなどとふざけた王だと怒りも湧いた。
だけど、本来僕の人生は僕だけのもののはずだ。
何をして、どのように生きるのかは僕自身が決めなければいけないことなのだ。
10年後、僕は何をして生きているんだろうな。
そんなことはまだわからないが、わかることが一つだけある。
たぶん10年くらいは、この小娘と一緒にいるだろうということだ。
10年経てば25、6か。
ちょうど僕の好みの年代だ。
そうか、10年経っても20半ばなのか。
これもまた、若い女の魅力の一つなのかもしれない。
「ロキ、なんかエッチな顔してる。私は真面目に話してるんだよ?」
「僕だって真面目に話している」
「さっきは真面目だったけど、なんか急にエッチになった」
鋭い小娘だ。
だが、こういうやりとりも悪くないな。
今日は砂漠に出るために2人とも分厚い外套を着込んできている。
僕は別に日差しに焼かれたりしないのだが、薄着で砂漠を歩くのは不自然だろうからな。
それに裸みたいな服よりも外套を着込んでいたほうが落ち着く。
「ねえ、本当に街から出るの?砂漠はとても危ないんだよ?」
「そう思うなら街で待っていればいいだろ」
「だめだよ。ロキは目を放したらすぐにどこかにいなくなっちゃうかもしれないから」
そんなに心配しなくても、何も言わずにどこかに去ったりはしないつもりなんだけどな。
だが、アイファの気持ちもわからんでもない。
僕とアイファは所詮一晩寝ただけの男と女だ。
2人の間には信頼関係というものがない。
僕は契約は破るつもりはないが、アイファは僕のことをよく知らない。
僕もまた、アイファのことをよく知らない。
これから少しずつ、お互いのことを知っていきながら信頼関係というものを築いていくしかないか。
「付いてくるのはいいが、僕から離れるなよ」
「わかった」
僕たちは揃って街を出る。
アイファは僕から離れないようにか、僕の外套の裾を軽く掴んでいる。
歩きにくいが、勝手にうろつかれるよりはマシか。
「ねえ、ロキ。なんでそんなに急いで狩人になろうと思ったの?ロキの服を売ったお金は私達が5年以上食べていける額だったんだよ?」
「一生食べていけるような額ではなかったんだろ?だったら怠ける理由にはならない」
「でも、ちょっとくらい休んでも……」
「悪いが、僕は一生お前と一緒にいるかどうかわからない。アイファが一生生きていけるだけの金銭は、急いで稼がないといけない」
人は生きているだけで金がかかる生き物だ。
辺境で自給自足でもしながら生きない限りは、その事実は変わらない。
人の一生には、いったいどのくらいのお金が必要になるのだろうか。
僕にはわからない。
普通は、一生分のお金は一生をかけてゆっくりと稼いでいくものだろう。
来月必要なお金は今月稼ぎ、いざという時のために貯蓄をする。
そうしていつか働けなくなったときには、その貯蓄を使って暮らすのだ。
それでも暮らせなくなれば人は死んでいく。
そういうものだと僕は聞いている。
だけど、僕は一生ここでアイファと暮らすという未来が想像できない。
小娘の処女に人一人の一生分の価値があるとは思えないが、僕はアイファには死んでほしくない。
だから一生分の金を稼ぎ、いつか僕がいなくなったときに備えてほしいのだ。
「ロキ、ごめんね」
「何がだ」
「ロキは、本当は私なんかに構ってくれるような人間じゃないんだよね」
そういう意味で言ったわけではなかったんだけどな。
人と話すというのは難しい。
こんなに人の気持ちを慮ったのは生まれて初めてかもしれない。
僕はなんと言っていいのかわからず、無言になってしまう。
精霊は人との話し方なんか教えてくれないだろう。
僕はいつの間にか、自分の生まれを口にしていた。
「僕は、貧しい農村の生まれだと聞いている」
「聞いているって、自分の生まれでしょ?」
「故郷の記憶がほとんどないんだ。3つになったばかりの頃に故郷から引き離されてしまったから」
「そうなんだ……」
記憶にある一番古い記憶は、畑の近くで昼寝をしている記憶。
両親は必死に畑を耕していた。
僕が起きるとすぐに駆けつけてきて、笑いかけてくれた。
その両親の顔は、もやがかかったように思い出すことができない。
両親は、幸せだったのだろうか。
僕がいなくなって、寂しいと思ったのだろうか。
「わからないんだ。僕には普通の人の人生というものが。みんなどうやって生きて、どうやって死んでいくのか」
「私にもわからないよ。ううん、たぶんスラムに生きている人はみんな想像もしていない。せいぜい今日はご飯が食べられるのか、明日がどんな一日になるのかっていうことしか考えてないんだ」
「そうなのか」
「ロキはさ、やりたいことってないの?スラムの長老から聞いたんだけどね、弱肉強食って言って力がある人は何をやってもいいんだって。ロキはきっと、私が見た誰よりも力を持っていると思うの。だからロキは何をやってもいいの。ロキはどんな生き方をしても許される。でも、心の片隅にちょっとだけ私のことを置いてもらえないかな。私はそれだけでいいから」
力ある者は何をやっても許される、か。
スラムの長老らしい教えだ。
僕のやりたいこと、そんなことは考えたこともなかった。
ずっと、王の言うままに精霊術師として王宮で仕事をしてきた。
それがある日突然今まで命令を出していた王が倒されたのだ。
僕はこれから何をして生きればいい。
僕を普通の人生から引き離しておいて、突然死ぬなどとふざけた王だと怒りも湧いた。
だけど、本来僕の人生は僕だけのもののはずだ。
何をして、どのように生きるのかは僕自身が決めなければいけないことなのだ。
10年後、僕は何をして生きているんだろうな。
そんなことはまだわからないが、わかることが一つだけある。
たぶん10年くらいは、この小娘と一緒にいるだろうということだ。
10年経てば25、6か。
ちょうど僕の好みの年代だ。
そうか、10年経っても20半ばなのか。
これもまた、若い女の魅力の一つなのかもしれない。
「ロキ、なんかエッチな顔してる。私は真面目に話してるんだよ?」
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