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9.異空間収納
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空間を超える力にはまだまだ応用の余地がある。
そう思ったのは、出口のない空間に手を突っ込んだ時だ。
このどこにも通じていない空間に、物を置き去りにしたらどうなるのか。
僕はアイファの部屋にあった化粧品の一つを無造作に突っ込み、空間の穴を閉じる。
そしてもう一度空間の穴を開き、中にあるはずの化粧品を探した。
「ないな……」
どうやら化粧品は次元の狭間で行方不明になってしまったようだ。
こことは違う別の空間というものは無限に広がっており、場所という概念があやふやだ。
僕たちが生きているこの空間であれば、位置を正確に把握していればその空間に何度でも空間の穴を繋ぐことが可能である。
しかし向こう側の空間はそうではないらしい。
位置情報を意味する座標のようなものが存在していないように思える。
何もない砂漠でさえ太陽や星を見れば方角や距離から特定の場所を探すことは不可能なことではないが、向こう側の空間には本当に何もない。
まるで世界のすべてが真っ白な砂で満たされているような空間だ。
距離も方角も分からない。
これでは先ほど繋いだ空間と同じ場所に、また空間を繋ぐことは難しい。
「何か廃棄したいものを放り込むにはいいが、物を保管して取り出そうと思ったらこれでは無理だな」
転移アイテムと同じくらいレアなアイテムに、異空間に物を仕舞っておける収納アイテムというものがある。
空間を司る精霊の力を使えば、同じことができるかと思ったがこのままでは難しいらしい。
こういうときにどうすればいいのか、僕は知っている。
誰かに習えばいいのだ。
誰かといっても僕には今も昔も、教えを乞う人なんていない。
いつだって僕の先生は精霊たちだ。
精霊は気まぐれで、砂漠で街の場所をなかなか教えてくれなかったようにたまにいたずらをすることもあるけれど、いつだって僕に色々なことを教えてくれる。
「あちらの空間に物を仕舞っておくにはどうしたらいい?」
僕の周りの空間に、ひとりでに穴があく。
あちらの空間に存在している空間を司る精霊が僕に何かを伝えようとしているらしい。
僕はその穴に手を突っ込んだ。
「壁がある。無限の空間に壁?」
無限に広がっているはずの空間に、仕切りのようなものがあった。
6つの面を持つ6面体のような形に無限の空間を切り取ってるのだ。
まるで砂漠の中に収納箱を置いたような不思議な感触だ。
しかし、ただの箱ではアイファの化粧品と同じように無限の空間の中で行方不明になってしまうだろう。
この箱には側面に僕の名前が書いてあった。
もちろん人間の使うような言語ではないが、なぜかそれは僕の名前であると認識できる。
なるほど、こうして自分のものだということが分かるような標を刻むことでその空間を自分の物とすることができるのか。
これならば砂漠の中でこの箱を探す必要はなく、この箱の中に直接空間を繋げることができる。
収納アイテムもこのような仕組みになっているのかもしれない。
「まだ何かあるのか?」
空間を司る精霊から、まだ何か伝えたいことがあるという意思が伝わってくる。
しかし具体的なことはよくわからない。
空間を司る精霊は人に思念を伝えるのが苦手らしい。
すかさず水を司る精霊がフォローする。
空気中の水が集まり、人の腕のような形になると空間を司る精霊の開けた穴に入っていく。
そして途中で止まり、今度は凍り付き始めた。
芯まで凍り、氷像の腕のようにカチカチになる。
空間を司る精霊はそのカチカチの人の腕を、空間の穴を閉じることで切断した。
氷の腕の断面はまるで鋭い刃物で切り裂いたかのように滑らかだった。
「空間の穴に物を突っ込んでいる途中で穴を閉じると切断されるのか」
僕の手が危ないよと伝えたかったのか、こういう攻撃方法もあると伝えたかったのかはわからないが、これはとても使える情報であると思う。
空間を閉じて切り裂くということは、空間に干渉することのできる物質以外は全て切り裂かれてしまうということだ。
そんな物質はそうそうあるものではない。
実質、この世のほとんどの物質はこの攻撃手段に耐えられずスパッと切り裂かれるだろう。
なんでも切り裂くことのできる最高の剣を手に入れたのと同義だ。
「これはいい。メタルスライムやダイヤモンドドラゴンでさえ今の僕には敵じゃないな」
両方とも硬いことで有名な魔物だ。
倒したと言う話はここ数百年出ていない。
人間が立ち向かうことが難しい類の魔物は他にも多い。
昔はそんな魔物が国に攻めてきたら戦うのは僕なんだから勘弁してくれと思っていたけれど、今なら恐れることなく堂々と立ち向かうことができそうだ。
僕は空間を司る精霊と、伝えるのを手伝ってくれた水を司る精霊にお礼を言う。
精霊たちの話を素直に受け取り、教えを請うたらお礼を言う。
僕はこれが精霊術の極意だと思っている。
精霊は素直な人間が好きなのだ。
「帰ったわよ。て、あれ?ここに私の化粧品なかった?あれ結構高かったんだけどな……」
「ぼ、僕は知らない」
「きっとまたリーシアね。あの子ホント手癖が悪いんだから」
精霊は素直な人間が好きなのだ。
そう思ったのは、出口のない空間に手を突っ込んだ時だ。
このどこにも通じていない空間に、物を置き去りにしたらどうなるのか。
僕はアイファの部屋にあった化粧品の一つを無造作に突っ込み、空間の穴を閉じる。
そしてもう一度空間の穴を開き、中にあるはずの化粧品を探した。
「ないな……」
どうやら化粧品は次元の狭間で行方不明になってしまったようだ。
こことは違う別の空間というものは無限に広がっており、場所という概念があやふやだ。
僕たちが生きているこの空間であれば、位置を正確に把握していればその空間に何度でも空間の穴を繋ぐことが可能である。
しかし向こう側の空間はそうではないらしい。
位置情報を意味する座標のようなものが存在していないように思える。
何もない砂漠でさえ太陽や星を見れば方角や距離から特定の場所を探すことは不可能なことではないが、向こう側の空間には本当に何もない。
まるで世界のすべてが真っ白な砂で満たされているような空間だ。
距離も方角も分からない。
これでは先ほど繋いだ空間と同じ場所に、また空間を繋ぐことは難しい。
「何か廃棄したいものを放り込むにはいいが、物を保管して取り出そうと思ったらこれでは無理だな」
転移アイテムと同じくらいレアなアイテムに、異空間に物を仕舞っておける収納アイテムというものがある。
空間を司る精霊の力を使えば、同じことができるかと思ったがこのままでは難しいらしい。
こういうときにどうすればいいのか、僕は知っている。
誰かに習えばいいのだ。
誰かといっても僕には今も昔も、教えを乞う人なんていない。
いつだって僕の先生は精霊たちだ。
精霊は気まぐれで、砂漠で街の場所をなかなか教えてくれなかったようにたまにいたずらをすることもあるけれど、いつだって僕に色々なことを教えてくれる。
「あちらの空間に物を仕舞っておくにはどうしたらいい?」
僕の周りの空間に、ひとりでに穴があく。
あちらの空間に存在している空間を司る精霊が僕に何かを伝えようとしているらしい。
僕はその穴に手を突っ込んだ。
「壁がある。無限の空間に壁?」
無限に広がっているはずの空間に、仕切りのようなものがあった。
6つの面を持つ6面体のような形に無限の空間を切り取ってるのだ。
まるで砂漠の中に収納箱を置いたような不思議な感触だ。
しかし、ただの箱ではアイファの化粧品と同じように無限の空間の中で行方不明になってしまうだろう。
この箱には側面に僕の名前が書いてあった。
もちろん人間の使うような言語ではないが、なぜかそれは僕の名前であると認識できる。
なるほど、こうして自分のものだということが分かるような標を刻むことでその空間を自分の物とすることができるのか。
これならば砂漠の中でこの箱を探す必要はなく、この箱の中に直接空間を繋げることができる。
収納アイテムもこのような仕組みになっているのかもしれない。
「まだ何かあるのか?」
空間を司る精霊から、まだ何か伝えたいことがあるという意思が伝わってくる。
しかし具体的なことはよくわからない。
空間を司る精霊は人に思念を伝えるのが苦手らしい。
すかさず水を司る精霊がフォローする。
空気中の水が集まり、人の腕のような形になると空間を司る精霊の開けた穴に入っていく。
そして途中で止まり、今度は凍り付き始めた。
芯まで凍り、氷像の腕のようにカチカチになる。
空間を司る精霊はそのカチカチの人の腕を、空間の穴を閉じることで切断した。
氷の腕の断面はまるで鋭い刃物で切り裂いたかのように滑らかだった。
「空間の穴に物を突っ込んでいる途中で穴を閉じると切断されるのか」
僕の手が危ないよと伝えたかったのか、こういう攻撃方法もあると伝えたかったのかはわからないが、これはとても使える情報であると思う。
空間を閉じて切り裂くということは、空間に干渉することのできる物質以外は全て切り裂かれてしまうということだ。
そんな物質はそうそうあるものではない。
実質、この世のほとんどの物質はこの攻撃手段に耐えられずスパッと切り裂かれるだろう。
なんでも切り裂くことのできる最高の剣を手に入れたのと同義だ。
「これはいい。メタルスライムやダイヤモンドドラゴンでさえ今の僕には敵じゃないな」
両方とも硬いことで有名な魔物だ。
倒したと言う話はここ数百年出ていない。
人間が立ち向かうことが難しい類の魔物は他にも多い。
昔はそんな魔物が国に攻めてきたら戦うのは僕なんだから勘弁してくれと思っていたけれど、今なら恐れることなく堂々と立ち向かうことができそうだ。
僕は空間を司る精霊と、伝えるのを手伝ってくれた水を司る精霊にお礼を言う。
精霊たちの話を素直に受け取り、教えを請うたらお礼を言う。
僕はこれが精霊術の極意だと思っている。
精霊は素直な人間が好きなのだ。
「帰ったわよ。て、あれ?ここに私の化粧品なかった?あれ結構高かったんだけどな……」
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