追放された精霊術師は砂漠の国で小娘の奴隷となる

兎屋亀吉

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閑話2

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 ドミトリー王国の新たな王宮お抱え精霊術師ウィリアムは困惑していた。
 なにせいきなりの王宮お抱えのお達しがあったと思えば、出仕初日から王宮の空堀を埋めるだけの水を出せという命令を受けたからだ。
 1000年の歴史を持つドミトリー王国の王宮の堀はその歴史の分だけ深く幅も広かった。
 まるで水の無くなった大河のような大きさの堀を、自分一人の力だけで水で満たせと言われてもできるはずがない。
 半年かかっても無理だと言わざるを得なかった。
 自分と同じ力量の精霊術師や魔導士が100人ほど集まれば半年くらいで可能だろうか。

「なぜだ。ロキ・ウォーレンは一人で軽々とやっていただろうが」

 新たに将軍となったケニウスがウィリアムに問いかける。
 しかしその問いかけは将軍が全くロキという精霊術師を理解していない証拠であった。
 あのお方は別格。
 まさしく人外の力を秘めた本物の化け物であった。
 将軍もその戦闘力を恐れてはいたが、彼にしてみれば他の精霊術師も十分に化け物だ。
 そのため将軍はロキとその他の精霊術師の間にある力量差がそれほどまでに大きなものであるとは理解できていなかった。
 ウィリアムは珍しく多少声を荒らげ、反論する。

「ロキ様はこの国一番の精霊術師でいらっしゃいました。比べられても困ります」

「貴様はこの国でロキ・ウォーレンの次に優れた精霊術師だと聞いたぞ。奴亡き今、貴様こそがこの国一番の精霊術の使い手ではないのか」

「たしかにそうですね。しかし私以降は力量に大差はありません。ロキ様と我々の力量の絶望的な差に比べればですがね」

 ロキにとって城の周囲をぐるりと囲む空堀を透き通った水で満たす程度のことは朝飯前のことであっただろう。
 しかし、ウィリアムにとっては逆立ちしてもできないことだった。
 ウィリアムがもしいなくなったとしても、後任の精霊術師は頑張れば自分と同じことができるだろう。
 お抱えの精霊術師を増員し、2人にすればきっとウィリアムを超えた活躍をしてくれることだってできる。
 だが、ロキの代わりをこなすことはこの国の精霊術師全員を集めたとてできるとは断言できなかった。
 
「馬鹿な。同じ精霊術師ではないか」

「同じではありませんよ。あのお方だけは、同じ精霊術師とは我々でさえ思えないのです。それゆえに陛下、いえ、前王はおそらくまだ物心も付いてないような幼き頃にあのお方を王宮に招き入れたのでしょう」

「うーむ、しかしどうしたものか。水が用意できんとなると、水門が開けん」

 王宮の空堀は外敵から城を守るという役割の他に、水源の役割もあった。
 かつてこの王宮には無限の水を生み出すというアーティファクトが存在し、その水を王宮から各所に流すための水路が王国中に張り巡らされていた。
 アーティファクトが力を失ってすでに50年以上の時が経っているが、ここ15年ほどは再び王宮から王国中に水が供給されていたのだ。
 それは言わずもがな、ロキの力によるものだった。
 ロキ以前には王宮お抱えの精霊術師という役職はなかったために、将軍は水の配給のために前王が精霊術師をお抱えにしたと思っていた。
 しかし全ての精霊術師に同じことができるわけではないとわかると、その考えは逆であったということに気が付く。
 ロキがいたから王宮お抱えの精霊術師などという役職ができたのだと。
 その役職はロキのために前王が用意したものであったのだ。
 そして絶望する。
 ロキという水源を失った水門は、二度と開かれることはない。
 追放したのは自分だ、と。



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