1 / 7
1.婚約破棄
しおりを挟む
「おじい様、ごめんなさい。せっかく買っていただいたドレスを汚してしまいました」
そう言って孫娘のエリカが泣きながら帰ってきたのは夕食を済ませたすぐのことだった。
エリカは今日王家が主催のパーティに出かけて行ったはずだったが、帰って来るのが早すぎる。
それにこのドレスの汚れ、まるでワインを頭からかけられたような汚れじゃ。
そして最後に腫れ上がった左頬、これは明らかに暴力を振るわれた痕跡。
ワシは怒りで目の前が真っ赤に燃えたような錯覚を覚えた。
昔から沸点が低いのがワシの悪い癖じゃ。
ワシは拳を血が出るほどに握りしめて一時の冷静さを得ると、エリカに何があったのかを尋ねる。
「ぐすんっ、王子に、アドルフ王子に婚約を破棄されてしまいましたわ……」
「ど、どういうことじゃ?あの婚約は王家の側が言い出したこと。それを……」
「お嬢様は何も悪くないのは私共が見ておりました。殿下の行いは度が過ぎております」
エリカは泣いてしまって話せる状況ではないので、ついて行った従者から詳しい話を聞く。
なんとも度し難い話じゃ。
エリカは王子に婚約を破棄されたばかりではなく、その取り巻きたちによって暴力を振るわれておった。
宰相の息子にはワインを頭からかけられ、騎士団長の息子には頬をビンタされたらしい。
先ほど収めたはずの怒りが込み上がってくるのを感じる。
もはやこれは家同士だけの話だけでは済まん。
いや、済まさせん。
ワシの中には50年以上前の記憶が掘り起こされる。
乱世の最中、先王と共に戦場を駆け抜けたのが懐かしいな。
その息子である王に矛を向けるのは不義理かもしれん。
だが先に不義理をしたのはそちらだ。
家同士の縁談は家と家との誼を結ぶためのもの。
それを破棄して孫娘に暴力を振るったのはお前と今後一切仲良くするつもりはないという宣言にほかならぬ。
もはや宣戦布告と同義じゃ。
ワシは決意を固めた。
家宰を呼び、指示を出す。
「辺境伯家の縁者全員を王都から退避させよ。戦じゃ」
「はっ、かしこまりました」
「ワシは領地に戻って兵を集結させる。王都からの退避の指揮はお前に任せる」
「はっ、お気をつけて」
ああ、お前もな。
そう言って孫娘のエリカが泣きながら帰ってきたのは夕食を済ませたすぐのことだった。
エリカは今日王家が主催のパーティに出かけて行ったはずだったが、帰って来るのが早すぎる。
それにこのドレスの汚れ、まるでワインを頭からかけられたような汚れじゃ。
そして最後に腫れ上がった左頬、これは明らかに暴力を振るわれた痕跡。
ワシは怒りで目の前が真っ赤に燃えたような錯覚を覚えた。
昔から沸点が低いのがワシの悪い癖じゃ。
ワシは拳を血が出るほどに握りしめて一時の冷静さを得ると、エリカに何があったのかを尋ねる。
「ぐすんっ、王子に、アドルフ王子に婚約を破棄されてしまいましたわ……」
「ど、どういうことじゃ?あの婚約は王家の側が言い出したこと。それを……」
「お嬢様は何も悪くないのは私共が見ておりました。殿下の行いは度が過ぎております」
エリカは泣いてしまって話せる状況ではないので、ついて行った従者から詳しい話を聞く。
なんとも度し難い話じゃ。
エリカは王子に婚約を破棄されたばかりではなく、その取り巻きたちによって暴力を振るわれておった。
宰相の息子にはワインを頭からかけられ、騎士団長の息子には頬をビンタされたらしい。
先ほど収めたはずの怒りが込み上がってくるのを感じる。
もはやこれは家同士だけの話だけでは済まん。
いや、済まさせん。
ワシの中には50年以上前の記憶が掘り起こされる。
乱世の最中、先王と共に戦場を駆け抜けたのが懐かしいな。
その息子である王に矛を向けるのは不義理かもしれん。
だが先に不義理をしたのはそちらだ。
家同士の縁談は家と家との誼を結ぶためのもの。
それを破棄して孫娘に暴力を振るったのはお前と今後一切仲良くするつもりはないという宣言にほかならぬ。
もはや宣戦布告と同義じゃ。
ワシは決意を固めた。
家宰を呼び、指示を出す。
「辺境伯家の縁者全員を王都から退避させよ。戦じゃ」
「はっ、かしこまりました」
「ワシは領地に戻って兵を集結させる。王都からの退避の指揮はお前に任せる」
「はっ、お気をつけて」
ああ、お前もな。
3,256
あなたにおすすめの小説
私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪
百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。
でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。
誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。
両親はひたすらに妹をスルー。
「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」
「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」
無理よ。
だって私、大公様の妻になるんだもの。
大忙しよ。
お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?
サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。
「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」
リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。
実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。
佐藤 美奈
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。
そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。
しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。
不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。
「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」
リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。
幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。
平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。
「華がない」と婚約破棄された私が、王家主催の舞踏会で人気です。
百谷シカ
恋愛
「君には『華』というものがない。そんな妻は必要ない」
いるんだかいないんだかわからない、存在感のない私。
ニネヴィー伯爵令嬢ローズマリー・ボイスは婚約を破棄された。
「無難な妻を選んだつもりが、こうも無能な娘を生むとは」
父も私を見放し、母は意気消沈。
唯一の望みは、年末に控えた王家主催の舞踏会。
第1王子フランシス殿下と第2王子ピーター殿下の花嫁選びが行われる。
高望みはしない。
でも多くの貴族が集う舞踏会にはチャンスがある……はず。
「これで結果を出せなければお前を修道院に入れて離婚する」
父は無慈悲で母は絶望。
そんな私の推薦人となったのは、ゼント伯爵ジョシュア・ロス卿だった。
「ローズマリー、君は可愛い。君は君であれば完璧なんだ」
メルー侯爵令息でもありピーター殿下の親友でもあるゼント伯爵。
彼は私に勇気をくれた。希望をくれた。
初めて私自身を見て、褒めてくれる人だった。
3ヶ月の準備期間を経て迎える王家主催の舞踏会。
華がないという理由で婚約破棄された私は、私のままだった。
でも最有力候補と噂されたレーテルカルノ伯爵令嬢と共に注目の的。
そして親友が推薦した花嫁候補にピーター殿下はとても好意的だった。
でも、私の心は……
===================
(他「エブリスタ」様に投稿)
【短編】夫の国王は隣国に愛人を作って帰ってきません。散々遊んだあと、夫が城に帰ってきましたが・・・城門が開くとお思いですか、国王様?
五月ふう
恋愛
「愛人に会いに隣国に行かれるのですか?リリック様。」
朝方、こっそりと城を出ていこうとする国王リリックに王妃フィリナは声をかけた。
「違う。この国の為に新しい取引相手を探しに行くのさ。」
国王リリックの言葉が嘘だと、フィリナにははっきりと分かっていた。
ここ数年、リリックは国王としての仕事を放棄し、女遊びにばかり。彼が放り出した仕事をこなすのは、全て王妃フィリナだった。
「待ってください!!」
王妃の制止を聞くことなく、リリックは城を出ていく。
そして、3ヶ月間国王リリックは愛人の元から帰ってこなかった。
「国王様が、愛人と遊び歩いているのは本当ですか?!王妃様!」
「国王様は国の財源で女遊びをしているのですか?!王妃様!」
国民の不満を、王妃フィリナは一人で受け止めるしか無かったーー。
「どうしたらいいのーー?」
心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました
er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?
夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!
佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。
「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」
冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。
さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。
優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。
妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?
百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」
あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。
で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。
そんな話ある?
「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」
たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。
あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね?
でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する?
「君の妹と、君の婚約者がね」
「そう。薄情でしょう?」
「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」
「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」
イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。
あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。
====================
(他「エブリスタ」様に投稿)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる