例えばサバゲーガチ勢が異世界召喚に巻き込まれたとして

兎屋亀吉

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3.魔力値

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名 前:カズトヨ・イズミ
性 別:男
年 齢:35歳
称 号:【異世界人】【巻き込まれた一般人】
魔力値:12
属 性:全
固有スキル:【お前の代わりはいくらでもいるインスタントアバター
スキル:【言語理解】【アイテムボックス】【鑑定】【格闘術】【短剣術】【短槍術】【精密射撃】【速射】【隠密】【索敵】

「イズミ様はあちらの世界では狩人か何かをされていたのでしょうか」

「え?」

「すみません、他人のステータスを見るのはマナー違反なのですが気になってしまって」

「ああ、別に構いませんよ。ちょっと恥ずかしいですけど」

 主に固有スキルが。
 格闘術や射撃関係、隠密なんかのスキルはおそらく俺がサバゲーのために行なっていた軍人風のトレーニングの影響だろう。
 動画サイトなんかを見て、プロの軍人が普段行なっている訓練を俺は真似ていた。
 荒っぽい訓練なんかは素人が生兵法で行なうと危険なので避けていたが、動画を見てこれは理にかなっているなと思った訓練は積極的に取り入れていた。
 普段は身体を作るためのトレーニングを行い、休日になると郊外まで出向き森の中での行動やエアガン片手に立ち回りの訓練なんかを行う。
 自分で言うのもなんだが、筋金入りのサバゲーマニアだった。
 ミリタリーマニアでもある。
 サバゲーには絶対に使わないであろう銃剣格闘術やナイフ戦闘術の訓練も行なっていたのだ。
 格闘術や短剣術、短槍術のスキルはそのおかげだろう。
 銃を持った男が森の中でうろついていると通報された回数も片手では数え切れない。
 だがそんな訓練がこうしてスキルとして現れているのだとすれば、少しだけ誇らしい気分だ。
 もっとも、固有スキルのほうに別のものも現れてしまっているが。
 
「固有スキルまで持っていらっしゃる。素晴らしいですね。さすがは異世界人の方です」

「固有スキルはみんな持っているものというわけでもないのですか?」

「ええ、持って生まれてくる人は大体1000人に1人くらいではないでしょうかね。何かきっかけがあってある日突然発現する方も稀にいらっしゃいますが基本的には生まれたときに授かっていなければ生涯発現することのないものです。稀有な才能ですよ」

「そうなんですね」

 そう言われるとこの俺の人生を体言したかのようなネーミングのスキルも何か俺の生きてきた証のような気がしてくる。
 少し愛着が湧いてきたかもしれない。

「固有スキルの能力の確認はどうしたら?」

「異世界人の方は鑑定がお使いになられるはずです。称号【異世界人】は言語理解とアイテムボックス、鑑定という3つのスキルを手に入れることのできる称号ですから」

「ああ、この3つのスキルは称号のおかげなのですか」

「はい、異世界人のようにスキルの手に入る称号は他にもいくつか確認されています」

 なるほどな。
 称号によって手に入るスキルというものもあるのか。
 なかなかに興味深い世界だ。
 巻き込まれた一般人はなんのスキルも手に入らないただの称号のようだ。
 少し不名誉な称号だ。

「異世界人の方ですから魔法属性も全属性なのは当然ですが、魔力値が低いですね……」

「魔力値、これですね。12ですか」

 魔力値12。
 これが15段階評価でもない限りは、12という数字にそれほど高いイメージは無い。
 そしてラズリーさんははっきりと低いと口にした。
 低いんだろうな。

「平均どのくらいのものなんですか?そもそも魔力値が低いと悪いことがあるのですか?」

「それは……」

「おっほんっ。ラズリー殿、そろそろ……」

「ああ、すみません。長居しすぎましたね。そろそろ失礼します。イズミ様、続きは王城に戻ってお茶でも飲みながらお話いたしましょう」

「あ、すみませんなんか長々と話し込んじゃったみたいで。大切な神器を貸していただきありがとうございました」

「いえ、あなたに神の祝福があらんことを」

 そう口にしたのはにこやかな笑みを湛えた好々爺然とした神官だったが、なぜだか俺はその人を怖いと思った。





「では改めて」

「はい、よろしくお願いします」

 王城の一室に戻り、綺麗なメイドさんが淹れてくれたいい匂いのするお茶を飲みながら勉強する。
 実に優雅な身分じゃないか。
 実際には昨日まで食費を稼ぐために引越しバイトをしていた男なのだが、なんだか自分が高尚な人種になったような気分になる。
 まあ気のせいだが。

「先ほど、神官様を見てどう思われましたか?」

「え?」

 正直怖いと思ったけれど、あんな好々爺そうな人にそんなことを思うのは失礼なのではないだろうか。

「正直に言ってくださって大丈夫です」

「少し怖いと思いました」

「その恐怖は、魔力値の差による根源的な恐怖です」

 魔力値に差があると怖いんだろうか。
 根源的な恐怖というのは大自然の猛威などの自分の力が全く及ばないような力を前にしたときに感じる恐怖と同じ種類の恐怖ということだろうか。
 あの好々爺そうなおじいさんが俺にとってそんなに強大な存在であるというイメージが持てないな。

「イズミ様たちの世界と違い、この世界の生き物はすべて魔力を内包しております。そしてその内包する魔力の量が魔力値です」

「俺は12でしたね。神官さんはどんなものなんでしょうか」

「おそらく100から200の間くらいではないでしょうか。神官という職業は魔力が高くなければ務まりませんから」

「十倍以上ですか。でも、それくらいで根源的な恐怖を感じるものなのですか?魔力って、魔法を使うための力なのですよね」

 確かに魔法を使われれば怖いが、それは剣を持っている人に感じる恐怖と同じような種類のものであるように思える。
 もしくは銃を隠し持っている人か。
 それを隠していると分からなければ逆に恐怖は無いような気がする。
 とても本能のレベルで恐怖を覚えるようなことではないと思う。

「すみません、説明が足りませんでした。魔力というのは魔法を使うためだけのものではないのです。この世界の人はまさに魔力で身体を動かしているのです」

「魔力で身体を動かしている?」

「はい。身体は数億数兆の細胞によって構成されているということは近年この世界でも解明されてきたことですが、実は細胞ひとつひとつの中に魔力が内包されているのです。そしてそれによって、人間は、生き物は身体を動かしている」

「じゃあ魔力値の低い人というのは……」

「ええ、身体能力も低いのです。イズミ様は異世界人ですので一概には言えませんが、神官様に恐怖心を抱かれたということはおそらく魔力値の影響を受けていると考えられます」

 なんてこった。
 魔力値が身体能力に直結するものだったとは。
 ゲームなどでは、攻撃力防御力すばやさなどのパラメータがステータス画面に表示されている。
 だがこの世界のステータスにはそれがない。
 だがそれで十分だったのだ。
 ステータスの値は魔力値一つで十分。
 それが魔法攻撃力にも攻撃力にも防御力にも素早さにも繋がる唯一の数値だった。
 そして俺はその数値が12。
 なるほどそれは巻き込まれた一般人だ。
 優しそうな好々爺にも恐怖を感じるさ。
 しゃべる熊を目の前にしたようなものなのだから。
 たとえ熊がどれだけ礼儀正しかろうが優しい心を持っていようが鋭い爪や牙を見えないように隠していようが、目の前にいたら怖い。
 熊の太い腕を見て力が強そうで怖いなと感じるのと似た感覚によって、俺は神官さんに恐怖心を抱いた。
 おそらくそれは老人の細胞いっぱいに詰まった魔力を感じとり、自分の細胞が伝えてきた恐怖だったのだろう。
 物語の中でも老人は大体強キャラだって決まっている。
 一般人がビビるのも納得だ。

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