例えばサバゲーガチ勢が異世界召喚に巻き込まれたとして

兎屋亀吉

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13.少年のスキル

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 あれだけ高速で上がっていた魔力値が上がらなくなり、早1ヶ月が経過した。
 その間を俺は魔法とスキルの修練に費やしていた。
 2人目を出せるようになった分身を使って格闘術、短剣術、短槍術を磨くための実戦訓練を行なったり、火魔法、水魔法、風魔法の勉強や実践練習を行なっている。
 出せる分身の数が増えたおかげで実践訓練は分身同士で行なえるようになり、本気の殺し合いを訓練で行なえるようになった。
 本体だったら死ぬような怪我をして分身が消える直前に素早く感覚の共有を切断することができるようになったおかげで、最近ではあまり本体に痛みがフィードバックされることが無い。
 安心して訓練することができている。
 本気の修羅場を毎日のように繰り広げることによって、戦闘系のスキルはかなり成長したと思う。
 魔法の修練にも、分身は非常に役立つ。
 2人の分身と本体で別々に火魔法、水魔法、風魔法を勉強することによって、3つの属性が同時に勉強することができる。
 魔法の実践練習も3つ同時だ。
 この調子で修練していけば、3つの属性魔法スキルを同時に習得できるかもしれない。
 しかしここのところボロ宿に篭ったままで狩人ギルドにウサギの1匹も納めていない。
 ボロ宿には風呂もないので自分から浮浪者のような香りがしてきているし、そろそろ引きこもりをやめるべきだろう。

「風呂屋にでも行くかな」





 魔法で簡単にお湯を沸かすことのできるこの世界では、風呂屋は土地と水さえあればできる商売だ。
 ガスも電気も使わずにお湯を沸かそうと思ったら大量の薪が必要となるあちらの世界とは違い、発展途上の文明でも安価に風呂に入ることができる。
 お湯を沸かしたり車輪を回したりといった単純なことならば簡単に魔法でできてしまうこの世界は案外過ごしやすい。
 宿屋の近くの風呂屋の暖簾を潜り、番台に鉄貨を3枚置いて浴場に向かう。
 時刻は午前10時。
 こんな時間に風呂に入りにくるのは隠居老人か高等遊民くらいのものだ。
 浴場はほとんど貸切だった。
 長い間風呂に入っていなかった俺は相当体が汚れている。
 浴槽に浸かる前に身体を洗わなくてはお湯を汚してしまうだろう。

「うわっ、全然泡立たない」

 過去の勇者がこだわったのか、この世界の石鹸はあちらの世界と遜色ないものだ。
 いい匂いがして汚れが落ちやすい。
 シャンプーやリンスなどもある。
 しかし皮脂でギトギトになった俺の髪はシャンプーをつけてシャカシャカやっても全然泡立たなかった。
 何度かお湯で流すとやっとシャンプーが泡立ち始めた。
 そろそろ俺も頭皮の健康を考えなければならない歳なのでしっかりとマッサージをするようにシャンプーをし、リンスで髪のダメージをケアした。
 ボサボサに伸びた髭を剃り、髪も少し短くする。
 ハサミが売ってなかったので自作だ。
 案外勇者が伝えてきた文化も偏っているな。
 魔王が生まれるたびにあちらの世界から呼び出されて戦わされてきたという勇者。
 勇者と魔王っていうのはいったいこの世界にとってなんなんだろうな。
 魔王っていうのはこの世界の人間では絶対に勝てないものなのだろうか。
 魔王、魔獣の王。
 その正体はゴブリンだとラズリーさんは言っていた。
 ゴブリンとは人型の魔獣の一種で、普通は単体ではそこまで強い魔獣ではないのだという。
 ゴブリンの厄介なところは、人間のように学習するところだ。
 ゴブリンのように人型の魔獣は他にもいるが、ゴブリンほど学習速度の高い魔獣はいない。
 ゴブリンは長く生きれば生きるほど多くのことを学習し、効率的に自身の魔力値を上げていく。
 繁殖速度が早く、爆発的に増える。
 長く生き、頭の良くなったゴブリンの群れの長は最終的に群れの仲間を殺して魔力値を上げる。
 仲間の命で成長する最強最悪の魔獣。
 それがゴブリンの群れの長、ゴブリンロード。
 ゴブリンロードはある程度群れが大きくならない限りは仲間を殺さない。
 だからこの世界の人たちはゴブリンロードが魔王にならないように必死でゴブリンを殺すのだ。
 だが魔王になってしまえば、この世界の人間にはどうすることもできない。
 そこで召喚されるのが異世界の勇者だ。
 あちらの世界にいるときから勇者なのか、それとも勇者として召喚されるから勇者になるのかはわからない。
 だが、勇者として異世界から召喚された異世界人とその仲間はなぜか強大な力を持ってこの世界にやって来る。
 エイジ君たちも最初から魔力値が400を超えていたそうだ。
 そして異世界人は全員が強力な固有スキルを発現する。
 魔力値が絶対なはずのこの世界で、格上狩りを容易に成すほどのバランスブレーカーなスキルをエイジ君たちは持っている。
 巻き込まれた一般人の俺の固有スキルでさえこんなに便利なのだ。
 正真正銘勇者パーティのエイジ君たちの固有スキルは想像に難くない。
 きっとすぐに魔力値を爆上げして俺なんか近づくこともできないほどに強くなってしまうのだろう。
 この世界の人間はなんとも思わないのだろうか。
 結局、この世界の人間たちは安易な力に頼りきっているのだろう。
 異世界から化け物みたいに強い人間を呼んで戦ってもらえば、自分たちは傷つかずに済む。
 この世界の人間が魔王に対抗する手段が、本当はあるのだ。
 殺せば良い。
 魔王と同じように、人間を。
 一人の人間に魔力値の高い人間を何十人も何百人も殺させれば、魔王と同じ強さを手に入れることができるだろう。
 それを実際に実行する世界もどうかと思うが、勇者に頼りきったこの世界もまた俺の目には少し歪んで見えた。
 そもそもその勇者を毎回召喚しているこの国は何者なんだ。
 疑問は尽きない。

「のぼせてきたな」

 考えてもわからないことをこれ以上ひとりで考えていてもしょうがない。
 俺は狩人ギルドにウサギを納品するために風呂屋を出て大通りに向かった。





「てめぇこの物乞いがっ!!」

「ぐっ」

 大通りに出ると、ボロボロの服を着た10歳くらいの少年がチンピラに殴られているのを目撃した。
 嫌な光景だ。
 チンピラは俺も以前にカツアゲをうけたことのある奴だった。
 俺のときと同じように、町の人間は遠巻きに見つめるだけで何もしない。
 衛兵に通報してくれるとか、そのくらいしてくれてもいいのにな。
 どこの世界でも、暴力を生業とする者とは皆関わり合いになりたくないのだ。
 少年は本当にボロボロの外套を着ていて、その下には何も着ていないようだった。
 あんな少年絶対に金なんか持っていないのに、チンピラは何が気に食わないのかその顔を何度も殴りつける。
 普通の子供だったら泣くか気絶してもおかしくないような状況だというのに、少年はじっとその暴力に耐えている。 
 心が強いとかそういった根性論ではなく、単純に身体が頑丈だと思った。
 いったいどういうことなのか不思議に思い、俺はマナー違反だがその少年を鑑定してみた。

名 前:ジルタ
性 別:男
年 齢:12歳
称 号:【先祖返り】
魔力値:28
属 性:風・光
固有スキル:【人狼化】
スキル:【格闘術】【身体強化】【索敵】

 色々驚いたが、魔力値自体は高くない。
 少年を殴りつけている男の魔力値は俺と同じ40程度。
 魔力値28の少年を本気で殴りつけているのだとしたら、もっと大怪我をしていてもおかしくはない。
 どう考えても少年はタフすぎる。
 なんとなく固有スキルの力ではない気がする。
 【人狼化】というスキルはおそらくその名のとおりのスキルだろう。
 狼男へと変身するようなスキルではないかと思う。
 それ以外で怪しいとしたら、【身体強化】というスキル。
 単純に困っている少年を助けたいという気持ちももちろんあるが、本心で言えば少年のスキルが気になる。
 俺はチンピラに声をかけた。

「そのへんにしておいたらどうだ?」

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