例えばサバゲーガチ勢が異世界召喚に巻き込まれたとして

兎屋亀吉

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18.冒険者ギルド

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 二本の剣がクロスしたエンブレムが掲げられたこの町で一二を争う大きさの建物、冒険者ギルド。
 俺とジルタは今日、冒険者ギルドに登録するためにここに来た。
 これから本格的に魔獣を狩るようになれば、その素材を冒険者ギルドに納品することになる。
 登録だけなら子供でもできるので魔獣を狩る前に登録しておくのがいいだろう。
 俺が今日までここに来なかったのは、まあ気が重いからだ。
 冒険者などという荒くれ者が、いい歳こいて登録しに来た俺と獣人のジルタに絡まないわけがない。
 絶対に異世界テンプレ的なトラブルが起きるだろう。
 だからここには来たくなかったのだが、魔獣の素材を売るためにはいつか登録しなければならない。
 冒険者の平均的な魔力値は80くらいだから少しばかり上がった俺の魔力値でも全く敵わない。
 いざというときには銃を使って護身する覚悟で今日はここに来たのだ。

「行くか」

「はい」

 ジルタも緊張しているのか言葉数が少ない。
 この国は獣人に対する差別が結構顕著だからな。
 アメリカでの黒人差別問題みたいなものだ。
 奴隷制度自体は大分前に無くなったものの、未だ黒人を差別する人は存在していた。
 この国ではまだまだ奴隷制度が撤廃されてから年月が浅い。
 獣人を不当に扱うことは法律で禁じられたが、この国の国民たちはまだ獣人たちを受け入れられないのだ。
 
「何も恥じることはないんだ。耳をピンと張っていけ」

「はいっ」

 今日はジルタは外套のフードをかぶっていない。
 栗色の髪の上からピコピコと長い狼の耳が強烈に自己主張している。
 ジルタが獣人であることはいつかはばれる。
 ならば最初から明かしていたほうが心構えができると思ったのだ。
 ずっと自分を偽って耳を隠して過ごすのは大変なストレスだ。
 獣人であることに恥ずかしいことなんて無いのだから、胸を張っていればいい。
 自分が自分であることを否定されるのであれば、それは社会のほうが悪いに決まっているのだ。
 王様の御名御璽の入った身分証を見せて黄門様をやるのも辞さない覚悟だ。
 俺達は冒険者ギルドの観音開きのドアを開け、中に入った。

「ここが、冒険者ギルド……」

「なんか思ってたのと違うな」

「そうですか?僕は想像どおりでした。イズミさんはどんなのだと思ってたんですか?」

「酒場みたいな感じで、ゴロツキが昼間から酒を飲んでいるような」

「それは傭兵ギルドですよ。冒険者は真面目な人が多いんですよ」

 俺の想像していた異世界の冒険者ギルドとは違い、この冒険者ギルドには酒場なんて無かった。
 中は落ち着いた雰囲気で、真面目そうな顔をしたギルド職員と精悍な顔つきの冒険者たちがカウンターで向かい同士に座ってなにやら話し合っていた。
 綺麗な格好をした素材を求める業者のような人の出入りもあるようだ。
 まるで映画で見た19世紀の銀行のようだ。
 ジルタの話では冒険者というのは命を奪う職業の中でもかなり魔力値が高い人が多いために、普段の行いには厳しい規約があるのだという。
 確かに魔力値100越えがざらにいる冒険者が粗暴だったら世の中大変なことになっている気がする。
 気張っていただけにちょっと拍子抜けしたが、異世界テンプレが起きなさそうで少し安心した。
 だがジルタが言っていたことが確かならば、身元の確かでないものは登録すらできない可能性もあるということになる。
 見るからに問題を起こしそうな奴をわざわざ試しに登録させてみることもないだろうからな。
 俺は髭をちゃんと剃ってきたか確認した。
 よし、肌が弱いために3日に1回くらいしか髭を剃らない俺だが今日は偶然にも剃った日だ。
 なんとか無精ひげで面接に臨むような事態は避けることができたな。
 髪は面倒なので普段から短く刈っている。
 今の俺はそこそこ清潔感のある顔をしているはずだ。
 服はどうだ。
 召喚されたときに着ていた服はすでにボロボロになったので捨て、今着ているのは古着屋で売っていたチノパンっぽいボトムズとオーダーメイドの靴とリネンシャツ。
 あちらの世界で見たファッション雑誌で男が金をかけるべきなのは靴だと書いてあったからな。
 シャツは安い生地でもいいので身体にぴったり合ったサイズのものを身に付けたほうがいいとも。
 それを信じた俺はそれ以来靴とシャツにはそこそこ金をかけているのだ。
 面接に臨むには適していない格好かもしれないが、ここは会社ではなく冒険者ギルドだ。
 冒険者登録しにくる人の中では綺麗目な格好だと自負している。
 大丈夫、いける。
 ジルタは出会ったとき外套以外の服を持っておらず全身俺が買ってやった古着だが、そこは子供だからと許してほしい。
 今日着ているやつはまだ綺麗なほうなんだ。
 まだジルタは魔獣を狩れないだろうから、最悪狩人ギルドに登録してもいい。
 あっちはガバガバだからな。
 よほど登録者がいないのか、誰でも歓迎される。
 ウサギばかり狩っていると馬鹿にされるけどな。
 冒険者と違って狩人は不真面目な奴が多いから。

「さて、どこに行けば登録の審査を受けられるんだろうな」

「たぶんあのカウンターのどこかでしょうが、何も書いてませんね」

「ちょっと不親切だな」

 冒険者らしきガタイのいい精悍な男女がギルド職員と話しているカウンターには、何も書かれていない。
 カウンターに空きはあるし暇そうにしているギルド職員もいるのだが、どこが新規登録者の受付カウンターなのかは分からない。
 役所だったら〇〇の人は何番みたいに書いてあるんだけどな。

「こんにちは、冒険者ギルドにようこそ。今日はどういった御用件でギルドにいらしたのでしょうか」

「あ、どうもこんにちは」

 俺達が入り口付近で立ち尽くしていたからなのか、案内係っぽい女性が近づいてきて話しかけてきた。
 そうか、この女性に話しかければ案内してもらえたのか。
 なにか都会のシステムに慣れていないド田舎者みたいで恥ずかしいな。
 なんだ田舎の芋野郎かとマイナス査定されなければいいが。
 
「すみません。今日は登録に来たのですが、どこに行けば登録できるんでしょうか」

「はい、冒険者登録はあちらのカウンターで受け付けております」

「ありがとうございます」

「ます」

 こら、お礼をはしょるんじゃない。
 こういうところも見られているかもしれないんだぞ。


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