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25.傭兵
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「ふぅ、生き返る」
ジルタと風呂屋に来ればほぼ貸切風呂となる。
この国の獣人差別は根深い。
冒険者がいたりすると普通に入ってきたりするけどな。
冒険者という職業は不思議な人が多い。
冒険者ギルドの規約により、素行に問題のある人物はすぐに除名されて冒険者ギルドには魔獣の素材を買い取ってもらえなくなる。
だが、冒険者が真面目で勤勉な奴ばかりかというとそうでもない。
彼ら彼女らは、命を賭けて魔獣を狩って生活することを選んだ人たちだ。
素行に気をつけながらも少し刹那的なところがある。
人々を魔獣の被害から守るという義務感で戦うというよりも、その生き方以外は選べないから冒険者になったような人が多い。
命を賭けていなければ生きている気がしない、生涯をかけて魔力値を上げることを目標としている、魔獣が憎い。
冒険者になった理由は人それぞれだが、皆一様に普通とは違う価値観で生きているような人ばかりだ。
そうでなければすぐに除名されるか自分で辞めていく。
そんな冒険者の価値観から見れば、獣人というのはそれほど差別するに値しないのかもしれない。
獣人は強い。
獣人の多くが、身体強化スキルなどの強力なスキルを生まれながらに有している。
ジルタを見ていても思ったが、身体が非常に頑丈だ。
最初にジルタと出会ったとき、ジルタは魔力値が倍近いチンピラに何度も殴られていた。
あのとき俺は異常にタフなことを不審に思って鑑定を使った。
そして身体強化スキルというスキルをジルタが持っていたために、おそらくそれを使ってチンピラの攻撃を耐えているのだろうと思っていた。
だがあのときジルタはなんのスキルも発動していなかったらしい。
格上からあれだけ殴られたにもかかわらずほとんど怪我も負うことが無かったタフさこそが獣人の最大の武器なのだ。
冒険者から見たら羨ましい才能だろう。
そして仲間になってくれれば心強い。
だから冒険者は獣人に差別的感情を抱く人が少ない。
将来仲間になってくれる可能性を自分で潰すことになってしまうから。
そんな冒険者以外にも、実はこの国で獣人を差別しない職業がある。
それは傭兵。
魔獣を狩る冒険者と違い、人を相手に戦うフリーランスの戦争屋集団だ。
しかしその多くは素行が悪く盗賊と何が違うのか分からない。
実際戦争が無いときは盗賊をしている傭兵団もあるくらいだ。
傭兵ギルドというものもあるが、これは冒険者ギルドや狩人ギルドなどとは全く趣が異なる。
公式な組織というよりも、ヤクザのフロント企業みたいなものだ。
後ろ盾には大陸中の裏社会を支配するマフィアがいるらしい。
その力は下手したら大国の上位貴族を上回るくらいのようだから、国は傭兵ギルドがならず者の集まりだと分かっていても手を出せない。
そんな後ろ盾を背景に好き勝手している傭兵には、人間も獣人もない。
彼らも生きるか死ぬかの世界で飯を食う者。
人間であろうと獣人であろうと弱みを見せたら貪り食らう。
そういう価値観だ。
たとえ差別は無かろうが近づくべきではないな。
「おいおい、なんだこりゃあ。軽く脅して貸切にしてやろうと思や、最初から貸切じゃねえかよ」
「ホントだぜ。あん?2人ほどいやがるじゃねえか。おい、お前ら出て行け。俺たちゃ天下のスカーレットランスだぜ」
「死にたくなけりゃあさっさと股間洗って出ていきな」
「ぎゃはははっ。股間洗わせてやるとか、お前やさしすぎ……」
近づきたくは無かったのだがね。
浴場に入ってきた十数人の男たちは俺達に風呂から出て行くように要求する。
鍛え上げられた身体にたくさんの刀傷。
意地悪く歪められた性格の悪そうな顔。
何をするのか分からない雰囲気。
こいつらどう見ても傭兵だ。
スカーレットランスと言っていたな。
それが傭兵団の名前なのかもしれない。
傭兵団の名前なんて詳しくないから分からない。
知らないって言ったら鬼のように怒るのだろうな。
ざっと鑑定してみたところ、魔力値は平均60くらいか。
今の俺の魔力値は76、ジルタは43だ。
相手はなんら珍しいスキルも持っていないようだし、たぶん2人がかりならこの人数相手でも勝てないことはない。
だが、この傭兵団の人員がこれだけではない可能性もある。
スカーレットランスが何人規模の傭兵団なのかだ。
あと1000人仲間がいますとか言われたら絶望だな。
まあ無難に下手に出ておくか。
「すぐに出て行きます」
「おう、そうしろ。股間はしっかり洗っていけよ」
「ぎゃはははっ、まだ言ってやがる」
中学生みたいな下ネタが大好きな奴らだってことはわかったよ。
俺はジルタを連れて足早に風呂から上がった。
風呂屋で傭兵に会ってからというもの、ジルタの様子がどこかおかしい。
何か思いつめたような顔をして訓練にも身が入っていない。
「ジルタ、あの傭兵たちに何かされたのか?」
「された、といいますか……」
「まさか、あいつらが復讐の相手なのか?」
「いえ、直接は……」
何か煮え切らないが、復讐に関係することであることは間違いないようだ。
これ以上深入りして聞くのも俺の望む関係ではないので俺はこのあたりで話を切り上げようとするが、その前にジルタが口を開く。
「僕の復讐対象はこの国の貴族、スレイン男爵なんです。あいつらはその貴族に雇われている傭兵です」
「相手は貴族だったのか、そりゃあ難しそうだ」
「スレイン男爵は裏であいつらに獣人狩りをさせているんです。それを秘密裏に奴隷として売って莫大な利益を得ている。でも特別容姿に優れた獣人が手に入ると奴は自分の手元に置いて楽しみます。そして飽きたら……」
ジルタの言葉はそれ以上続かなかった。
飽きたらきっとろくでもないことになるのだろう。
奴隷として売られるよりも辛いことに。
「僕の母もそうなった。だから僕はあいつを殺すんです」
「なるほどな。ジルタはどうして自由の身になることができたんだ。その話だと女以外の獣人は奴隷として売られていてもおかしくないが」
「僕は売られた先で、固有スキルを使ったんです。それで、気がついたらこの町の下水道に倒れていました」
「そうか」
おそらく人狼化の2段階目を使ったのだろう。
人狼となったジルタは力の限り暴れ、逃げた。
それからこの町で泥水をすすって生きてきたというわけか。
素直に同情するよ。
「あの傭兵団がいるということは、この町にスレイン男爵が来ている可能性があるんです。僕は少し出かけてきてもいいですか?」
「わかった。だが、スレイン男爵を見つけても無計画に突っ込むことだけはしないでくれないか?」
「自信はありませんが、なんとか我慢してみます」
ジルタがことを起こす日は近い気がする。
俺はどうするべきなのだろうか。
ジルタと風呂屋に来ればほぼ貸切風呂となる。
この国の獣人差別は根深い。
冒険者がいたりすると普通に入ってきたりするけどな。
冒険者という職業は不思議な人が多い。
冒険者ギルドの規約により、素行に問題のある人物はすぐに除名されて冒険者ギルドには魔獣の素材を買い取ってもらえなくなる。
だが、冒険者が真面目で勤勉な奴ばかりかというとそうでもない。
彼ら彼女らは、命を賭けて魔獣を狩って生活することを選んだ人たちだ。
素行に気をつけながらも少し刹那的なところがある。
人々を魔獣の被害から守るという義務感で戦うというよりも、その生き方以外は選べないから冒険者になったような人が多い。
命を賭けていなければ生きている気がしない、生涯をかけて魔力値を上げることを目標としている、魔獣が憎い。
冒険者になった理由は人それぞれだが、皆一様に普通とは違う価値観で生きているような人ばかりだ。
そうでなければすぐに除名されるか自分で辞めていく。
そんな冒険者の価値観から見れば、獣人というのはそれほど差別するに値しないのかもしれない。
獣人は強い。
獣人の多くが、身体強化スキルなどの強力なスキルを生まれながらに有している。
ジルタを見ていても思ったが、身体が非常に頑丈だ。
最初にジルタと出会ったとき、ジルタは魔力値が倍近いチンピラに何度も殴られていた。
あのとき俺は異常にタフなことを不審に思って鑑定を使った。
そして身体強化スキルというスキルをジルタが持っていたために、おそらくそれを使ってチンピラの攻撃を耐えているのだろうと思っていた。
だがあのときジルタはなんのスキルも発動していなかったらしい。
格上からあれだけ殴られたにもかかわらずほとんど怪我も負うことが無かったタフさこそが獣人の最大の武器なのだ。
冒険者から見たら羨ましい才能だろう。
そして仲間になってくれれば心強い。
だから冒険者は獣人に差別的感情を抱く人が少ない。
将来仲間になってくれる可能性を自分で潰すことになってしまうから。
そんな冒険者以外にも、実はこの国で獣人を差別しない職業がある。
それは傭兵。
魔獣を狩る冒険者と違い、人を相手に戦うフリーランスの戦争屋集団だ。
しかしその多くは素行が悪く盗賊と何が違うのか分からない。
実際戦争が無いときは盗賊をしている傭兵団もあるくらいだ。
傭兵ギルドというものもあるが、これは冒険者ギルドや狩人ギルドなどとは全く趣が異なる。
公式な組織というよりも、ヤクザのフロント企業みたいなものだ。
後ろ盾には大陸中の裏社会を支配するマフィアがいるらしい。
その力は下手したら大国の上位貴族を上回るくらいのようだから、国は傭兵ギルドがならず者の集まりだと分かっていても手を出せない。
そんな後ろ盾を背景に好き勝手している傭兵には、人間も獣人もない。
彼らも生きるか死ぬかの世界で飯を食う者。
人間であろうと獣人であろうと弱みを見せたら貪り食らう。
そういう価値観だ。
たとえ差別は無かろうが近づくべきではないな。
「おいおい、なんだこりゃあ。軽く脅して貸切にしてやろうと思や、最初から貸切じゃねえかよ」
「ホントだぜ。あん?2人ほどいやがるじゃねえか。おい、お前ら出て行け。俺たちゃ天下のスカーレットランスだぜ」
「死にたくなけりゃあさっさと股間洗って出ていきな」
「ぎゃはははっ。股間洗わせてやるとか、お前やさしすぎ……」
近づきたくは無かったのだがね。
浴場に入ってきた十数人の男たちは俺達に風呂から出て行くように要求する。
鍛え上げられた身体にたくさんの刀傷。
意地悪く歪められた性格の悪そうな顔。
何をするのか分からない雰囲気。
こいつらどう見ても傭兵だ。
スカーレットランスと言っていたな。
それが傭兵団の名前なのかもしれない。
傭兵団の名前なんて詳しくないから分からない。
知らないって言ったら鬼のように怒るのだろうな。
ざっと鑑定してみたところ、魔力値は平均60くらいか。
今の俺の魔力値は76、ジルタは43だ。
相手はなんら珍しいスキルも持っていないようだし、たぶん2人がかりならこの人数相手でも勝てないことはない。
だが、この傭兵団の人員がこれだけではない可能性もある。
スカーレットランスが何人規模の傭兵団なのかだ。
あと1000人仲間がいますとか言われたら絶望だな。
まあ無難に下手に出ておくか。
「すぐに出て行きます」
「おう、そうしろ。股間はしっかり洗っていけよ」
「ぎゃはははっ、まだ言ってやがる」
中学生みたいな下ネタが大好きな奴らだってことはわかったよ。
俺はジルタを連れて足早に風呂から上がった。
風呂屋で傭兵に会ってからというもの、ジルタの様子がどこかおかしい。
何か思いつめたような顔をして訓練にも身が入っていない。
「ジルタ、あの傭兵たちに何かされたのか?」
「された、といいますか……」
「まさか、あいつらが復讐の相手なのか?」
「いえ、直接は……」
何か煮え切らないが、復讐に関係することであることは間違いないようだ。
これ以上深入りして聞くのも俺の望む関係ではないので俺はこのあたりで話を切り上げようとするが、その前にジルタが口を開く。
「僕の復讐対象はこの国の貴族、スレイン男爵なんです。あいつらはその貴族に雇われている傭兵です」
「相手は貴族だったのか、そりゃあ難しそうだ」
「スレイン男爵は裏であいつらに獣人狩りをさせているんです。それを秘密裏に奴隷として売って莫大な利益を得ている。でも特別容姿に優れた獣人が手に入ると奴は自分の手元に置いて楽しみます。そして飽きたら……」
ジルタの言葉はそれ以上続かなかった。
飽きたらきっとろくでもないことになるのだろう。
奴隷として売られるよりも辛いことに。
「僕の母もそうなった。だから僕はあいつを殺すんです」
「なるほどな。ジルタはどうして自由の身になることができたんだ。その話だと女以外の獣人は奴隷として売られていてもおかしくないが」
「僕は売られた先で、固有スキルを使ったんです。それで、気がついたらこの町の下水道に倒れていました」
「そうか」
おそらく人狼化の2段階目を使ったのだろう。
人狼となったジルタは力の限り暴れ、逃げた。
それからこの町で泥水をすすって生きてきたというわけか。
素直に同情するよ。
「あの傭兵団がいるということは、この町にスレイン男爵が来ている可能性があるんです。僕は少し出かけてきてもいいですか?」
「わかった。だが、スレイン男爵を見つけても無計画に突っ込むことだけはしないでくれないか?」
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