孤児だけどガチャのおかげでなんとか生きてます

兎屋亀吉

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86.カエデ・ニシオカ

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 男の娘は名前をカエデ・ニシオカというらしい。
 貴族でもなんでもなく、平民だと言っていた。
 故郷の国では身分制度というものがなく、平民もすべて苗字を持っているとも。
 漢字というものがあり、西岡楓と書くとも。
 そして故郷はすごく遠い場所にあるから二度と帰ることはできないだろうと悲し気な顔で語った。
 船が難破して偶然この大陸に流れ着いたけど故郷の方角がわからなくて二度と帰れないとか遠すぎて現在の航海技術じゃたどり着けないとか、そういう感じであってほしいな。
 カエデはどうやら馬車を持っている商会の正式な職員というわけではないようなのだが、ポニテ娘と一緒に一時的にお世話になっているというよくわからない立場らしい。
 オークと戦わされていたので護衛の仕事でもしているのかと思ったが、仕事は特にないらしい。
 だがポニテ娘が勝手に護衛のようなことをしだしたために、カエデも戦わされていたのだという。
 腕っぷしには全然自信がなくて戦闘は全然ダメなので、他のことでお世話になっている商会に貢献しようと色々と手伝っているそうだ。
 いい子だな。
 力仕事では役に立たないが、料理は得意なので野営の料理を作ると男たちは喜んでくれるのだという。
 そりゃ喜ぶだろ。
 これだけ可愛くて守ってあげたくなるような子で料理が上手かったら、もう男でもいいと思ってしまう奴も出てきそうだ。
 
「それで、今も商人さんのお手伝いで何か入用の物が無いか聞いて回ってるんだよね」

 なるほど、ここまでがセールストークの前座だったらしい。
 身の上話から入るとはやり手のセールスマンっぽい手口だ。
 直前まで親し気に話していたために、何か買ってくれと言われて断ると感じの悪い奴だと思われてしまうかもという心理になってしまう。
 まあ別に何も買いたくないわけじゃないから買ってもいいんだけど。

「何があるの」

「一番多いのは港町から運んできた魚の干物とかの乾物かな。あんまり量は無いけどチーズとか葡萄酒、日持ちする野菜の類もあるって商人さんが言ってたね」

 結構色々取り扱ってるな。
 まあカエデがお世話になっていると言っていた商人の馬車は3台くらいあったからそのくらいはあるか。
 食べ物が多いな。
 魚の干物は港から運んできたんだから当然海の魚だろう。
 食べたい。
 葡萄酒はいらないけど、チーズもいいな。
 日持ちする野菜は何があるのか聞くと玉ねぎがあった。
 最高だ。
 私は金貨を出して干物とチーズと玉ねぎをリュックに入るだけ買った。
 私は孤児なので当然お金なんか持ったことがなかったので、何気に人生初お買い物かもしれない。
 初買いが食べ物って、なんだか食いしん坊みたいだな。
 まあ食べるのは好きだけどな。

「まいどあり!またよろしくね!!」

 商品を持ってきたカエデは笑顔で手を振って去っていった。
 可愛かったな。
 お嫁にするならああいう子がいいな。
 





 明け方、休憩所の利用者が見張りを残して寝静まっている時間にも私は起きていた。
 というのも最近は小周天が熟達してきたのか、周囲から気を取り込んでいるうちは全く眠くならないのだ。
 ついでにお腹も減らないし喉も乾かない。
 つまり私は小周天を切らすことが無い限りは一睡もせず飲まず食わずでずっと動き続けることが可能ということだ。
 なんだか仙人みたいになってきたな。
 無欲でもないし不惑の境地でもないけど、少しだけ人類の域をはみ出し始めている気はしている。
 便利でいいんだけどな。
 小周天を切れば普通に眠くなってお腹も減るし。
 この休憩所のような不特定多数の人間に囲まれた状況ではぐーすか眠る気にもならないのでちょうどいい。
 それに、私の愛用している高級テントは使っていれば目立つ。
 テント自体の見た目もさることながら、畳み方のわからないあのテントは未だにカプセルに直で入っているのだ。
 周囲に人目のない状況ならまだしも、この状況で高級テントをカプセルから取り出すことはできなかった。
 そのため今ユキトが眠っているテントはガチャのCランクアイテムである普通のテントだ。
 ひろしの世界の高性能なキャンプギアでもなく、普通にこの世界で使われている一般的な布製テントだ。
 防水が甘いので水も入ってくる雨の日地獄のテントなのだ。
 できることなら眠りたくはない。
 だが周りに全然眠らないのに動いてる化け物みたいな奴だとは思われたくないので、武器を抱えて目を瞑り身体を休めているふりをしている。
 武術の達人とかがやりそうなあれだ。
 敵襲があればバチリと目を開けて動き出す。
 女の一人旅なので油断を見せない方がいいというのもある。
 バリバリに警戒してるので襲っても無駄ですという姿を見せるだけでも多少の防犯効果はあるだろう。
 そんな私のバチバチの警戒網に、一人の人間が踏み込んできたのがわかる。
 なんだ、夜這いには少し遅すぎる気がするけどな。
 すでに時刻は夜というよりも朝だ。
 そろそろお日様が昇り始めることだろう。
 私は武人のごとくバチリを目を開けて軽く武器を握って相手を確認する。
 そこにいたのは何やらニヤニヤした嬉しそうな表情をした、ポニテ女だった。
 今度はお前か。

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