異世界の無人島で暮らすことになりました

兎屋亀吉

文字の大きさ
17 / 17

17.肉

しおりを挟む
 モンスターを倒してSPを稼ぐ前に、どうしてもやらなければならないことがある。
 それは巨大イノシシの肉の処理だ。
 俺はビーフジャーキーやベーコンよりも生の肉を焼いて食べたりするほうが好きなので全部そのまま食べたいところなのだが、今回とれた肉の量は10キロや20キロではきかない。
 こんな大量の肉を一度に食べることなどはできないし、アイテムボックスも今の容量ではそれほど入らない。
 肉の大半は加工食品にせざるをえないのだ。
 まずはいつものごとく本を読み、知識を手に入れることから始める。

「えっとソミュール液に漬けて冷蔵庫で…冷蔵庫?え、こっちも冷蔵庫、適した季節は冬?」

 なんということだ。
 どこを見ても冷暗所での熟成が必要とある。
 気温が低く空気が乾燥した冬が保存食の加工に適した季節だと書いてある記事もある。
 この島の湿度は夏の日本ほど高くないものの、気温は日中30度を超える。
 夜でもせいぜいが15、6度くらいまでしか低下しない。
 干物なんか日差しが強ければ強いほどいいと思っていたのだが、実はそうではないとこの本には書かれている。
 肉の熟成乾燥には直射日光は逆に当てないほうがよく、冷暗所での陰干しが適当であるらしい。
 まあしっかり塩漬けにして日陰に干しておけばそれほど旨味は増えなくとも腐るということはないのかな。
 本当に保存食としての機能性を重視したような形になってしまうかな。
 それでも肉が全く食べられないよりはいいだろう。
 まずは塩を肉に刷り込んでいくか。
 使う塩は海藻を海水に浸しては乾燥させてを繰り返して作った藻塩だ。
 塩はまだ通販スキルでは買えないし、あちらの世界で買ってきた塩はそれほど量がないからな。
 こちらで作ることのできるものはなんでも作っていかなければ。
 それにただの食塩よりもこの藻塩のほうが旨味が強くて美味しいような気もする。
 冷暗所での熟成によって旨味を増やすことができない以上、何か別の形で旨味を付加する必要もある。
 まあこの最初の塩揉みにはそれほど味には関係しない。
 これはある書籍に書かれていた血抜きと呼ばれる作業だ。
 塩をまぶして重しをしておくと、赤い汁が出て血生臭さが軽減されるらしい。
 このイノシシは興奮状態で殺してしまったし、血抜きも素人だから完璧とは言えないだろう。
 念入りに肉から血生臭さを抜いておきたい。
 俺は石で作った樽に肉をどんどん詰めていき、塩をまぶして最後に重しを乗せた。
 これで樽の下に開けた穴から赤色の汁が出てくるはずだ。
 この作業もまた、冷蔵庫で寝かせろと書いてあるが冷蔵庫はない。
 腐らないように多めの塩で対抗するしかあるまい。
 会社の研修で田舎暮らし体験施設に行ったときにやった味噌づくり体験が思い出される。
 あれも塩が少ないと味噌がカビだらけになってしまうと施設職員の人が言っていた。
 最近は健康ブームで減塩醤油とか減塩味噌とかあるけれど、それは保存食としてどうなのかと俺は思うのだ。
 いや今は減塩の話はどうでもいい。
 とにかく塩を大量にぶち込めばカビが生える可能性を減らすことができるという話だ。
 しかしこの島の気候ではそれも確実ではない。
 幸いなことにすでに気温のピークは過ぎ、これから日が暮れてくる。
 肉は今夜一晩寝かせる必要があるから、それまで腐ったりカビが生えたりしないように祈るだけだ。





 翌朝、肉を確認してみるとまだカビも生えておらず腐敗臭もしていなかった。
 大量にまぶした藻塩がいい仕事をしてくれたようだ。
 樽の下には大量の水分が排出されている。
 少し掬って透明なペットボトルに入れると、その汁が真っ赤であることがよくわかる。
 これが血抜きというやつか。
 この赤いのが旨味の元だからスーパーで肉を選ぶ際にはあまりこの汁が出ていないものを選ぶように勧めているテレビ番組を見たことがあるが、保存食にとってはこの汁は血生臭さの元であり菌類の繁殖を促す水分である。
 すべて廃棄処分、スライム共の餌にしてくれるわ。
 重しをはずし、樽の中の肉を一塊取り出してみる。
 昨日よりも少し水分が抜けて肉の色が濃くなっているような気がした。
 このまま低温熟成することができたら最高に美味しい肉になるのだろうが、この島にそんな施設はない。
 やはり小型でも冷蔵庫を買っておくべきだっただろうか。
 持ってくることができたとしても俺の腰が無事で済んだかはわからないが。
 このただの塩漬けでどのくらいの期間腐らせずに食べることができるのだろうか。
 3日間くらいはフレッシュな肉が食べたいところだ。
 肉の加工作業が間に合わなければどのみち腐らせてしまうことになる。
 とにかく加工できるだけ加工して、腹に詰め込めるだけ食べるしかないだろう。
 ちょうど寝起きで腹が減っている。
 最後の米を炊いて焼肉パーティといこう。
 朝からがっつり肉食とは、俺もずいぶん健全な身体になったものだ。
 この島に来て一番鍛えられたのは胃袋かもしれないな。
 俺は刺身包丁で肉を削ぎ切りにしていった。
 生のブロック肉って切りにくいな。
 冷凍庫欲しい。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

処理中です...