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1.異世界魔術
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「うーん……」
もぞもぞと毛布を目深に被り、二度寝を楽しむ。
今日はやけに冷えるな。
季節は秋の始まりのはずで、まだまだ残暑が残る季節であるはずなのに。
また例年のごとく異常気象というやつだろうか。
酷い暑さの後の急な冷え。
老人や子供は体調を崩すかもしれない。
かくいう俺も環境の変化に強いわけではない。
風邪などひかないように気をつけなくては。
本当に今日は寒いな。
こんなに寒いのは異常で……本当に異常に寒いな。
もぞもぞと毛布の中で身体を丸めるが、一向に暖かくならない。
まるで毛布の保温機能が正常に働いていないみたいだ。
はたして研究室の毛布はこんなに温かみのない毛布だっただろうか。
ネットでちょっと高めのプレミアムマイクロファイバー毛布を注文したはずなのに、なんだこの寒いし肌触りの悪い毛布は。
俺はやっと毛布の質感がおかしいことに気付き、起き上がる。
「え?」
そこは見慣れた大学の物理学研究室ではなかった。
8畳くらいの部屋にベッドが3つ。
俺の寝ているベッドのほかの2つのベッドには2つとも子供が寝ていた。
背丈から考えてひとりは14、5歳、もうひとりは10歳くらいだろうか。
北欧系の顔立ちをしているので年齢が読みづらいが、大きくはずれているということはないだろう。
俺は即座に様々な可能性について考えるが、全く今の状況が理解できない。
そこでふと自分の身体に目を向けると、あることに気が付く。
小さいのだ、全体的に。
背も手も足も男にしかないアレも。
「ありえないだろ……」
ありえないなんてありえない、なんてセリフをドラマの中の物理学者が発していたが俺はべつにありえないことがありえないとは思わない派だ。
いや、今実際にありえないことが起こっていることから本当にありえないことはありえないのかもしれないけれど、科学的に証明できないことが起こりえることもあるという意味でありえないこともあるかも知れないと……。
もう意味分からん。
本当にありえないな。
自分が子供になるなんて。
それも子供に戻ったわけではない。
目の端に見えている髪が黒じゃないからな。
おそらく俺の顔も北欧風なんだろう。
全く別の子供に、意識だけが憑依した状態というのだろうか。
これは転生?
俺だってライトノベルくらい読む。
これが小説の設定でよくあるパターンなのだということに気付いている。
だが、それが現実に起こることはありえないだろうと思うのだ。
いや、ありえているからこの状況になっているわけで。
自分でも混乱しすぎだと思う。
なんだかいつものように脳が働いてくれない。
やはり意識は自分のものでも、身体はそれに見合ったものではないということなのか。
本来ならゆっくりと精神と共に成長していく脳が無理矢理酷使されているために、オーバーヒートしているのかもしれない。
頭の重さを自覚したとたんに、身体がだるくなる。
この身体の大きさから言ってまだ物心つくかつかないかといった年齢か。
大人の精神に脳が耐えられなくて知恵熱のような症状が出ている。
今は眠るとしよう。
俺は肌触りの悪いゴワゴワの毛布を被り、再び眠りについた。
それから3日間、俺は熱に浮かされることとなった。
夢うつつの中で、俺の精神とこの身体の精神が融合するのを感じた。
融合するといってもまだ自我なんてほとんどない子供の精神だ。
ほとんどが俺の精神となる。
俺の中に残ったこの身体の記憶は生まれてから今までのわずかな記憶のみ。
だがそれだけでも、大人の俺からしてみたら分かることがいくつもあった。
まず、この身体の名前はライル。
これからは俺の名前となるわけだが平民なので家名はなく、ただのライルだ。
俺の生まれた家はこの村の村長一族で、辺境領ではそこそこ裕福なほうらしい。
兄弟は上に兄が3人おり、同じ部屋で寝ていたのは2番目の兄ルーカスと3番目の兄ケニーだ。
1番上の兄エドワードは個室をもらっており、すでに村長職を継ぐことが決まっているので他の兄弟とは区別されている。
それで末っ子で四男の俺はといえば、まあいらない子だ。
この世界はどうやら本当に異世界なようで、村がよく魔物の襲撃を受けたりもするくらいに危険がいっぱいだ。
そこでみんな子供が死ぬことを前提としてたくさん産む。
そうして俺のような無駄飯食らいがたくさん誕生してしまうというわけだ。
まあ扱いは俺の上の兄2人も同じようなものなようで、そろそろ身の振り方を考えなくてはいけないようだ。
辺境の農村であるこの村にはあまり農地が余っていない。
そのために仕事といえば防衛のために魔物と戦ったり、森に入って狩りや木こりをするような危険がある仕事ばかりだ。
村に残りそのような仕事に就くのか、それとも村から出て仕事を探すのか。
2番目の兄くらいまでなら多分村の中で安全な仕事もあるだろうが、3番目の兄はあと2、3年以内にはその選択を迫られることだろう。
そして俺も、13歳の成人を迎えるまでには考えなくてはならない。
「ライル?目が覚めたの?」
子供部屋のドアが開き、20代後半くらいの綺麗な女の人が入ってくる。
この人が俺の母であるハンナだ。
まず目に入るのはプラチナブロンドの髪と空色の瞳。
ゴリラみたいな大男の父ハワードとは全く釣りあわないスレンダーな北欧美人だ。
子供を4人生んでいるとは思えん魅力的なスタイルだ。
ちょっと前までこの女の人のおっぱいを吸っていたのだと思うと少し顔が熱くなる。
「どうしたの?まだ頭痛い?」
「ううん、もうだいじょうぶ」
子供らしくするのもなかなか大変だ。
名探偵の奴の大変さがよくわかる。
これから大人になるまでこれが続くのかと思うと今から憂鬱になる。
あまり口を開かないほうがボロが出なくていいのかもしれない。
そうは思いながらも、これから始まるであろう異世界での生活に俺は少しだけワクワクしていた。
この世界に転生だか憑依だかをして、かれこれ1年くらいが経っただろうか。
最近俺はある場所に通いつめている。
可愛い女の子の家ではない。
女の子は女の子でも、皺くちゃばあさんの家だ。
「こんにちは」
「ああ、いらっしゃい」
この村で唯一の魔術師、シエル婆さんに俺は魔術を習っているのだ。
習っているといっても直接教えてくれるわけではない。
婆さんが持っている魔術教本を見せてもらっているだけだ。
婆さんもまさか6歳の子供がもう字を覚えているとは思うまい。
あの日俺の精神が入った衝撃でこの身体の脳みそはイカれてしまったみたいで、なぜだか記憶力がすごく良くなった。
完全記憶能力に近い記憶力なんだが、記憶のキャパとか大丈夫なんだろうか。
将来が心配だ。
とりあえず将来のことはそのときになって考えるとして、その記憶力で1年でこの世界の文字を覚えた俺は婆さんの家で魔術教本を暗記する作業をしているというわけだ。
魔術とかすごく興奮する。
婆さんの家にある教本はあと3冊だけだからさくっと憶えて次のフェーズに移ろう。
教本を憶えてやってきたのは家の裏庭。
まだ6歳児だから家からあまり遠くには行けないんだ。
とりあえず集中はできそうなのでここで魔術の練習をしよう。
練習といってもまだ魔術のまの字も習得してないからまずは瞑想から始めないといけないんだけど。
目を閉じてリラックスして、自分の内側に目を向ける。
そう教本には書いてあった。
座禅に近いものかもしれないと思い、俺は座禅を組む。
1年間ストレッチをしていたおかげで俺の股関節はなかなか柔らかい。
見よう見まねだけど、あの複雑に足を組むタイプの座禅がなんとか組めた。
手はどうしたらいいのかうろ覚えなのでなんかそれっぽく構えてみる。
股間の上で丸を作るような形に手を組み、目を瞑る。
さて、ここからどうするんだろうか。
教本ではそれで身体の内側になにかあるのが分かると書いてあったが、なんのことやらさっぱりだ。
まあそんなにすぐにできるはずもないので、のんびりと毎日座禅を続けるとしよう。
人間というものも自然の一部なのだと、こうして座禅を組んで自然と一体になればよく分かる。
悟ったようなことを言っているが、あれからまだ半年ほどだ。
しかしながら、座禅というのは本当に奥が深い。
6歳児ながら座禅にはまるのはちょっとやばいと思うが、俺の精神は元の世界で生きた年月を合わせると30歳を超えているので問題ないはず。
向こうで禅寺とか行かなくてよかった。
行ったらはまってたわ。
いや今すでにはまってるんだけど。
一日のほとんどの時間を俺は座禅を組んで過ごしている。
さすがにエコノミークラス症候群とかが怖いのでちょいちょい休憩は挟むけど。
そのおかげで家族にちょっと不審がられている。
しょうがないよね、あまり口を開かず一日のほとんどを瞑想して過ごす6歳児なんて気持ち悪いもん。
俺だったらとっくの昔に山に捨ててるね。
その点父母兄弟には感謝だ。
不審に思いながらも子供のやることで流してくれているから。
ああ、そういえばこの座禅を始めるきっかけとなった魔術はもう初級の魔術が使える段階にまでいっている。
座禅にはまったせいであまり魔術に費やす時間がなかったけれど、座禅の休憩時間にちょいちょい練習したりしてたらいつの間にか使えるようになっていた。
そろそろ座禅にばかりかまけていないで魔術の練習をすべきなのかもしれない。
元の世界では平の研究員ながら一応結婚相談所の職業欄には研究職と書いていた俺であるからして、こういったトライアンドエラーを続ける訓練というものが嫌いじゃない。
3番目の兄ケニーは最近家を出ることを決めて、近所のおじさんに剣を習っているらしいけど俺には無理だな。
同じ努力でも身体を動かすのはダメだ。
前の世界で読んだ異世界転生ものの小説の主人公はみんな小さい頃から剣の稽古とかを頑張っていたけれど、どう考えても平和ボケした元日本人が剣を振り回して命の取り合いなんてできる気がしない。
そもそもなんで小説の主人公はみんな小さい頃から剣の稽古をしたくらいで異世界の剣士たちと戦って勝てるのかな。
やっぱりチートのおかげなんだろうか。
わからないな、明確なチートがないにも関わらず勝っている主人公もいたからな。
結局は主人公補正というやつなのかもしれないな。
ノーチートの俺はどうやってこの世界で生きていけばいいのか。
記憶力の強化がチートといえばチートだけど、どちらかといえばあちらの世界で欲しかったチートだな。
ノーチートはノーチートらしく、のんびり好きなことをして過ごそう。
しばらくのうちは、日がな一日座禅を組んで、飽きたら魔術の練習をして、そんな毎日でいいのかもしれない。
願わくば、死ぬまでそんな毎日を過ごしたいところだ。
もぞもぞと毛布を目深に被り、二度寝を楽しむ。
今日はやけに冷えるな。
季節は秋の始まりのはずで、まだまだ残暑が残る季節であるはずなのに。
また例年のごとく異常気象というやつだろうか。
酷い暑さの後の急な冷え。
老人や子供は体調を崩すかもしれない。
かくいう俺も環境の変化に強いわけではない。
風邪などひかないように気をつけなくては。
本当に今日は寒いな。
こんなに寒いのは異常で……本当に異常に寒いな。
もぞもぞと毛布の中で身体を丸めるが、一向に暖かくならない。
まるで毛布の保温機能が正常に働いていないみたいだ。
はたして研究室の毛布はこんなに温かみのない毛布だっただろうか。
ネットでちょっと高めのプレミアムマイクロファイバー毛布を注文したはずなのに、なんだこの寒いし肌触りの悪い毛布は。
俺はやっと毛布の質感がおかしいことに気付き、起き上がる。
「え?」
そこは見慣れた大学の物理学研究室ではなかった。
8畳くらいの部屋にベッドが3つ。
俺の寝ているベッドのほかの2つのベッドには2つとも子供が寝ていた。
背丈から考えてひとりは14、5歳、もうひとりは10歳くらいだろうか。
北欧系の顔立ちをしているので年齢が読みづらいが、大きくはずれているということはないだろう。
俺は即座に様々な可能性について考えるが、全く今の状況が理解できない。
そこでふと自分の身体に目を向けると、あることに気が付く。
小さいのだ、全体的に。
背も手も足も男にしかないアレも。
「ありえないだろ……」
ありえないなんてありえない、なんてセリフをドラマの中の物理学者が発していたが俺はべつにありえないことがありえないとは思わない派だ。
いや、今実際にありえないことが起こっていることから本当にありえないことはありえないのかもしれないけれど、科学的に証明できないことが起こりえることもあるという意味でありえないこともあるかも知れないと……。
もう意味分からん。
本当にありえないな。
自分が子供になるなんて。
それも子供に戻ったわけではない。
目の端に見えている髪が黒じゃないからな。
おそらく俺の顔も北欧風なんだろう。
全く別の子供に、意識だけが憑依した状態というのだろうか。
これは転生?
俺だってライトノベルくらい読む。
これが小説の設定でよくあるパターンなのだということに気付いている。
だが、それが現実に起こることはありえないだろうと思うのだ。
いや、ありえているからこの状況になっているわけで。
自分でも混乱しすぎだと思う。
なんだかいつものように脳が働いてくれない。
やはり意識は自分のものでも、身体はそれに見合ったものではないということなのか。
本来ならゆっくりと精神と共に成長していく脳が無理矢理酷使されているために、オーバーヒートしているのかもしれない。
頭の重さを自覚したとたんに、身体がだるくなる。
この身体の大きさから言ってまだ物心つくかつかないかといった年齢か。
大人の精神に脳が耐えられなくて知恵熱のような症状が出ている。
今は眠るとしよう。
俺は肌触りの悪いゴワゴワの毛布を被り、再び眠りについた。
それから3日間、俺は熱に浮かされることとなった。
夢うつつの中で、俺の精神とこの身体の精神が融合するのを感じた。
融合するといってもまだ自我なんてほとんどない子供の精神だ。
ほとんどが俺の精神となる。
俺の中に残ったこの身体の記憶は生まれてから今までのわずかな記憶のみ。
だがそれだけでも、大人の俺からしてみたら分かることがいくつもあった。
まず、この身体の名前はライル。
これからは俺の名前となるわけだが平民なので家名はなく、ただのライルだ。
俺の生まれた家はこの村の村長一族で、辺境領ではそこそこ裕福なほうらしい。
兄弟は上に兄が3人おり、同じ部屋で寝ていたのは2番目の兄ルーカスと3番目の兄ケニーだ。
1番上の兄エドワードは個室をもらっており、すでに村長職を継ぐことが決まっているので他の兄弟とは区別されている。
それで末っ子で四男の俺はといえば、まあいらない子だ。
この世界はどうやら本当に異世界なようで、村がよく魔物の襲撃を受けたりもするくらいに危険がいっぱいだ。
そこでみんな子供が死ぬことを前提としてたくさん産む。
そうして俺のような無駄飯食らいがたくさん誕生してしまうというわけだ。
まあ扱いは俺の上の兄2人も同じようなものなようで、そろそろ身の振り方を考えなくてはいけないようだ。
辺境の農村であるこの村にはあまり農地が余っていない。
そのために仕事といえば防衛のために魔物と戦ったり、森に入って狩りや木こりをするような危険がある仕事ばかりだ。
村に残りそのような仕事に就くのか、それとも村から出て仕事を探すのか。
2番目の兄くらいまでなら多分村の中で安全な仕事もあるだろうが、3番目の兄はあと2、3年以内にはその選択を迫られることだろう。
そして俺も、13歳の成人を迎えるまでには考えなくてはならない。
「ライル?目が覚めたの?」
子供部屋のドアが開き、20代後半くらいの綺麗な女の人が入ってくる。
この人が俺の母であるハンナだ。
まず目に入るのはプラチナブロンドの髪と空色の瞳。
ゴリラみたいな大男の父ハワードとは全く釣りあわないスレンダーな北欧美人だ。
子供を4人生んでいるとは思えん魅力的なスタイルだ。
ちょっと前までこの女の人のおっぱいを吸っていたのだと思うと少し顔が熱くなる。
「どうしたの?まだ頭痛い?」
「ううん、もうだいじょうぶ」
子供らしくするのもなかなか大変だ。
名探偵の奴の大変さがよくわかる。
これから大人になるまでこれが続くのかと思うと今から憂鬱になる。
あまり口を開かないほうがボロが出なくていいのかもしれない。
そうは思いながらも、これから始まるであろう異世界での生活に俺は少しだけワクワクしていた。
この世界に転生だか憑依だかをして、かれこれ1年くらいが経っただろうか。
最近俺はある場所に通いつめている。
可愛い女の子の家ではない。
女の子は女の子でも、皺くちゃばあさんの家だ。
「こんにちは」
「ああ、いらっしゃい」
この村で唯一の魔術師、シエル婆さんに俺は魔術を習っているのだ。
習っているといっても直接教えてくれるわけではない。
婆さんが持っている魔術教本を見せてもらっているだけだ。
婆さんもまさか6歳の子供がもう字を覚えているとは思うまい。
あの日俺の精神が入った衝撃でこの身体の脳みそはイカれてしまったみたいで、なぜだか記憶力がすごく良くなった。
完全記憶能力に近い記憶力なんだが、記憶のキャパとか大丈夫なんだろうか。
将来が心配だ。
とりあえず将来のことはそのときになって考えるとして、その記憶力で1年でこの世界の文字を覚えた俺は婆さんの家で魔術教本を暗記する作業をしているというわけだ。
魔術とかすごく興奮する。
婆さんの家にある教本はあと3冊だけだからさくっと憶えて次のフェーズに移ろう。
教本を憶えてやってきたのは家の裏庭。
まだ6歳児だから家からあまり遠くには行けないんだ。
とりあえず集中はできそうなのでここで魔術の練習をしよう。
練習といってもまだ魔術のまの字も習得してないからまずは瞑想から始めないといけないんだけど。
目を閉じてリラックスして、自分の内側に目を向ける。
そう教本には書いてあった。
座禅に近いものかもしれないと思い、俺は座禅を組む。
1年間ストレッチをしていたおかげで俺の股関節はなかなか柔らかい。
見よう見まねだけど、あの複雑に足を組むタイプの座禅がなんとか組めた。
手はどうしたらいいのかうろ覚えなのでなんかそれっぽく構えてみる。
股間の上で丸を作るような形に手を組み、目を瞑る。
さて、ここからどうするんだろうか。
教本ではそれで身体の内側になにかあるのが分かると書いてあったが、なんのことやらさっぱりだ。
まあそんなにすぐにできるはずもないので、のんびりと毎日座禅を続けるとしよう。
人間というものも自然の一部なのだと、こうして座禅を組んで自然と一体になればよく分かる。
悟ったようなことを言っているが、あれからまだ半年ほどだ。
しかしながら、座禅というのは本当に奥が深い。
6歳児ながら座禅にはまるのはちょっとやばいと思うが、俺の精神は元の世界で生きた年月を合わせると30歳を超えているので問題ないはず。
向こうで禅寺とか行かなくてよかった。
行ったらはまってたわ。
いや今すでにはまってるんだけど。
一日のほとんどの時間を俺は座禅を組んで過ごしている。
さすがにエコノミークラス症候群とかが怖いのでちょいちょい休憩は挟むけど。
そのおかげで家族にちょっと不審がられている。
しょうがないよね、あまり口を開かず一日のほとんどを瞑想して過ごす6歳児なんて気持ち悪いもん。
俺だったらとっくの昔に山に捨ててるね。
その点父母兄弟には感謝だ。
不審に思いながらも子供のやることで流してくれているから。
ああ、そういえばこの座禅を始めるきっかけとなった魔術はもう初級の魔術が使える段階にまでいっている。
座禅にはまったせいであまり魔術に費やす時間がなかったけれど、座禅の休憩時間にちょいちょい練習したりしてたらいつの間にか使えるようになっていた。
そろそろ座禅にばかりかまけていないで魔術の練習をすべきなのかもしれない。
元の世界では平の研究員ながら一応結婚相談所の職業欄には研究職と書いていた俺であるからして、こういったトライアンドエラーを続ける訓練というものが嫌いじゃない。
3番目の兄ケニーは最近家を出ることを決めて、近所のおじさんに剣を習っているらしいけど俺には無理だな。
同じ努力でも身体を動かすのはダメだ。
前の世界で読んだ異世界転生ものの小説の主人公はみんな小さい頃から剣の稽古とかを頑張っていたけれど、どう考えても平和ボケした元日本人が剣を振り回して命の取り合いなんてできる気がしない。
そもそもなんで小説の主人公はみんな小さい頃から剣の稽古をしたくらいで異世界の剣士たちと戦って勝てるのかな。
やっぱりチートのおかげなんだろうか。
わからないな、明確なチートがないにも関わらず勝っている主人公もいたからな。
結局は主人公補正というやつなのかもしれないな。
ノーチートの俺はどうやってこの世界で生きていけばいいのか。
記憶力の強化がチートといえばチートだけど、どちらかといえばあちらの世界で欲しかったチートだな。
ノーチートはノーチートらしく、のんびり好きなことをして過ごそう。
しばらくのうちは、日がな一日座禅を組んで、飽きたら魔術の練習をして、そんな毎日でいいのかもしれない。
願わくば、死ぬまでそんな毎日を過ごしたいところだ。
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