異世界に行けるようになったので胡椒で成り上がる

兎屋亀吉

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改稿版

1.謎のおじいさん

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 おじいさんが倒れている。
 助けて欲しいのは俺のほうだけど、俺は気まぐれで助けてあげることにした。

「すまんのう。人間の身体は食事が必要だということを忘れておったのじゃ」

 ちょっとボケてしまっているみたいだ。
 きっとご飯を食べていないのを忘れてしまったのだろう。

「それにしてもお主、こんな見ず知らずの老いぼれにマ〇ドナルドではなくモ〇バーガーを奢ってくれるとは今時珍しい心根の持ち主じゃのう」

 別におじいさんにモ〇バーガーを奢ったのは親切からではない。
 俺が食べたかったからだ。
 最期の食事はいつものマ〇ドナルドではなく、モ〇バーガーにしたかった。
 俺はマイ胡椒を取り出し、ポテトにかけて食べる。
 ポテトにスパイシーな辛味がマッチする。
 やっぱりポテトには胡椒だな。

「最期?お主どこか悪いところでもあるのか?」

 あれ、俺は口に出していないはずなのだけど。
 おじいさんは俺の心を読んでいるかのように話す。
 ボケてくるとESPが目覚めることもあるのだろうか。
 まあそんなことは今更どうでもいいことだ。
 俺はおじいさんに今の状況を伝えた。

「何、バイトを首になって彼女に振られて投資詐欺に遭って友達もいなくてモ〇バーガーで財布も空になった?」

 俺はこくりと首を縦に振る。
 
「それは辛かったのう。儂のような老いぼれがかけてやれる言葉などはお主の心には響かんかもしれんが、あと1日だけ生きてみんか?」

 おじいさんの言葉に俺は首を傾げる。
 生きてればいいことあるとかありきたりの言葉をかけられるのかと辟易して聞いていれば、なんだかちょっと違った。
 あと1日だけ生きてみるとはいったいどういうことなのだろうか。

「ハンバーガーを奢ってくれたお礼に、儂がいいものをあげよう。期待の目を向けてくれているところすまないが、金ではないんだ。儂もこちらの世界の金は持ち合わせておらんのでな」

 使えんジジイだ。
 俺が今まで見たこともないような大金でも積み上げてくるのかと思えば、金ではないだと?
 この状況で金以上に良い物など存在しない。
 まあいいか。
 おじいさんを助けたのは別に見返りが欲しかったからというわけではないし。
 
「まあそう落胆するな。これは本当にお主にとっては良い物なんじゃ。手を出すんじゃ」

 俺はあまり期待しないように右手を差し出す。
 おじいさんは俺の右手に触れる。
 その手には何か持っているような様子は無い。
 手相でも見てくれるというのかな。

「我、時空神の名において、汝に時と空間の魔法具を与える」

 やっぱりボケてるなこのおじいさん。
 ちょっと空想と現実が混ざっちゃってるのかな。
 こういった症状は中学2年生くらいによく見られるのだけれど、老人になってから発症するとは珍しい。
 おじいさんに掴まれている右手がチクリと痛んだ。
 おじいさんはずいぶんと老人らしくない綺麗な手をしていたけれど、ささくれくらいはあったのかな。
 
「これでよし」

 なにがいいのか分からない。
 なんらかの中二的儀式が終了したということか。
 
「手首を見てみよ」

 ん?なにこれ。
 俺の右手の手首から手の甲にかけて、なにやらトライバルな柄のオシャレタトゥが入っていた。
 なんでオシャレタトゥが。
 シールかなにかかな。
 これがおじいさんのお礼なのか?
 お礼にオシャレタトゥを入れられちゃったのか俺は。
 このトライバルな柄のタトゥは確かにオシャレで、ワンランク上の俺になれるかもしれないけれど、ちょっと日本のモラルではワンランク下がった俺になった可能性がある。
 主に就職面で。
 もうどこにも就職するつもりも無いし働く気も無いので別にいいのだけれど、若干の恩を仇で返された感がある。

「まあ急くでない。それはただの刺青ではなく、時空魔法の魔法具なのじゃ」

 はいはい、すごいね。
 このおじいさんどうしよ、完全にボケてるんだけど。
 どこに通報すればいいの?
 
「儂はボケておらん。その目やめろ。試しに刺青を操作してみよ。自在に形を変えられるはずじゃ」

 何を言っているのかちょっとよくわからないけれど、ためしにやってみた。
 できた。
 右手の手首から手の甲にかけてしっかりと描かれているはずのタトゥがうねうねと動く。
 非常に気持ち悪い。
 大きさなども変わるようだ。
 いったいこのインクどうなっているんだ。
 とりあえず俺は動くのならばとタトゥを小さなホクロに擬態させた。
 タトゥが入っていたら銭湯入れないからね。
 
「それでいい。おそらく神の与えた魔法具であると知れれば、狙ってくる輩もおるじゃろう。普段はホクロに見せかけておくのがいい」

 狙ってくるとか訳が分からないんだけど、タトゥが普通ではないことは分かったから俺はおじいさんの話を真面目に聞く。

「お主はこことは違う世界の存在を信じておるか?」

「異世界ってこと?」

「そうじゃ。こことは違う世界というものは実在する。その世界にはこの世界には無い力、魔法と呼ばれる力があるんじゃ」

 ファンタジーな話になってきたな。
 頭の中がファンタジーなおじいさんかと思ったんだけど、不思議現象を実際に目にすると本当にファンタジーなおじいさんなのかもしれない。

「しかしあちらの世界の人間が誰でも魔法を使うことができるのかといえば、そうではない。魔法具と呼ばれる特殊な道具を用いて、専門の知識や技術が無ければ魔法を使うことはできないのじゃ」

 意外と夢の無い設定だ。
 どうせそんな世界では、貴族や王族なんかの一部の権力者が魔法の力を独占しているんだろうな。
 日本で銃の所持が禁止されているように、魔法具の所持も禁止されていたりして。

「これからお主をそちらの世界へ飛ばす」

 ふぁ!?
 なんでいきなり。

「1日だけでいいのであちらの世界を生きてみよ。そして気が向いたらもう次の1日も生きて、また気が向いたらその次の日も生きてみるのじゃ。儂の与えた魔法具を使えばこちらの世界にはすぐに帰ってこられる。だから気楽に向こうの世界を散見してみるのじゃ。それでも世界に絶望したのなら、冥府でお主を待っておる」

 そう言っておじいさんは懐から古い本のようなものを取り出し、ページを1枚抜き取る。
 それはすっと形を変え、小さなタブレットPCのような形になった。

「これに魔法具の使い方が書かれておる。そんなに難しくないから大丈夫じゃ」

 タブレットは光の粒になって俺の胸に吸い込まれた。
 もう驚きはしない。
 きっとそういうものなんだろう。

「では、達者でな」

 おじいさんの持つ本が光り始め、その光が俺の身体を包み込む。
 景色がぼやけ始め、音も遠くなる。
 別れ際におじいさんの声が聞こえる。

「残ったポテト、もらっていいかの?」

 どうぞ。


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