異世界に行けるようになったので胡椒で成り上がる

兎屋亀吉

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改稿版

2.異世界と魔法

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「ここが、異世界か」

 そこはどこかの街の裏通りのようだった。
 人が歩いておらず誰も突然現れた俺を見ることのない場所を選んだのかもしれない。
 とりあえずおじいさんにもらったタブレットを確認してみるか。
 光が集まり俺の手の中にスマホよりも一回り大きいくらいのタブレットが現れる。
 以前使ったことのあるタブレットの機種にボタンの位置などが似ている。
 たしか右側面のボタンが電源ボタンだったはずだ。
 ボタンを1回押すと見慣れた待機画面が出てくる。
 俺が以前使っていたタブレットに似せているのかもしれない。
 ホーム画面には時間の表示と、アプリが一つだけ。
 時空神の魔道具というアプリだ。
 それをタップする。
 アプリが立ち上がり、画面いっぱいに幾何学模様が並ぶ。
 文字が見づらい背景だな。
 見づらいが、項目は3つ。
 使用可能魔法という項目と魔法作成という項目、そしてヘルプだ。
 俺はヘルプをタップする。
 ヘルプは意外に分かりやすく、アプリとタトゥの使い方が図解入りで書かれていた。
 使用可能魔法の項目は今使える魔法がリストになっていて、魔法名をタップすると魔法の説明と一つの模様が画面に表示される。
 タトゥをそれと同じ模様に変化させると、その魔法を使うことができるというわけだ。
 今現在使用可能魔法のリストにある魔法は【世界間転移】と【アイテムボックス】の2つだけ。
 この【アイテムボックス】という魔法は、特別な魔法みたいだ。
 魔法の特徴としては異空間にアイテムを収納して自由に取り出せるというゲームのアイテムストレージのような魔法だが、もう一つこの魔法には役割があるらしい。
 それが魔力の供給だ。
 魔法を使うには魔力というエネルギーが必要になるらしいのだが、異世界人である俺は魔力というエネルギーを持っていない。
 だからそれを補うために、魔石というアイテムを用いなければならない。
 魔石をアイテムボックスに収納すると、それがエネルギー源となって魔法を使うことができるということらしい。
 もちろんアイテムボックスを使うにも魔力は必要だが、このタブレットがアイテムボックスの入り口になっているので魔石が1個も収納されていないときでも画面に収納したいものを押し当てるだけで魔力を使わずに収納できるそうな。
 しかしおじいさんはいつでも帰れるようなことを言っていたけれど、魔石というアイテムを手に入れないことには帰ることもできないじゃないか。
 どうやったら手に入るのか書いてないし。
 とりあえず魔石のことは置いておいて俺は次に魔法作成の項目のヘルプを読む。
 魔法作成は名前の通り魔法を作成する項目だ。
 時間と空間に関わる魔法ならば、作成して使用可能魔法のリストに追加することができる。
 手始めに何か作ってみようか。
 エロ漫画のシチュエーションで、一つすごく好きなのがある。
 ワームホールだ。
 体の一部を別の空間に転送して、女の子にエッチなことをするというシチュエーションが俺は大好きなのだ。
 本当にそんなことをする気はないけれど、あこがれのワームホールを作ってみたい。
 魔法作成の項目をタップすると、細かく色々なことを入力する欄があってめんどくさそうだ。
 一番上に既存魔法リストを参照というボタンがあったのでタップする。
 同じような魔法があればめんどくさい設定をしなくて済むかもしれない。
 ずらっと魔法の名前とどんな魔法なのかが表示されていく。
 俺の思いつくような魔法は大体リストに載っている。
 ワームホールに似た魔法で、空間点穴という魔法があったのでそれを参照する。
 名前を変更し、ワームホールにする。
 完了ボタンをタップして、完成と。
 使用可能魔法のリストにワームホールが表示された。
 使ってみたいな。
 しかし魔石を持っていない俺は、魔法を使うことができないのだ。
 とにかく魔石を手に入れないことには何も始まらないようだ。
 諦めてタブレットをしまう。
 タブレットは光の粒になって胸に吸い込まれていった。
 何度見ても不思議だよ。
 俺は街の喧騒が聞こえる方向に歩き出す。
 日本だったらちょっと人通りの少ない道でも、大の男がいきなり襲われる心配をするようなことはよほどないだろう。
 しかしここは異世界なのだ。
 海外よりもわけわからない土地だ。
 そう思ったら急に怖くなってきた。
 ここ、治安はどうなんだろう。
 俺は小走りになる。
 誰かが後ろをつけてきている気がしてダッシュになる。
 いやいやホントに足音してるんだけど。

「待ちやがれ!!」

 野太い男の怒声で肩がビクリと震える。
 俺は陸上部だった学生時代でさえそこまでじゃなかった程の本気で走る。

「ま、待てって言ってるだろうが!!」

 後ろを振り向くことができない。
 最近運動不足だったので息が苦しい。
 こんなことなら走り込みくらいしておくんだった。
 あと少し、あと少しで街の喧騒に追いつけると思った。
 もうすでにうるさいくらいに街の喧騒は聞こえてきている。
 たぶん追いかけてきているのは恐喝かなにかを専門とする人だろうけど、さすがに大勢の人の前では人を脅そうなんて思わないだろう。
 俺は走った。
 しかし曲がり角を曲がった俺の目に飛び込んできた光景に、軽く絶望感があふれてくる。
 曲がり角の先は袋小路だったのだ。
 その壁の向こう側から楽し気な街の喧騒が聞こえてくる。
 たかが壁一枚、されど壁一枚。
 せめてワームホールが使えたら壁なんて抜けられたのに。
 俺は壁に背を預け、ずるずると座り込む。

「はぁはぁ、手こずらせやがって……。この野郎ただじゃおかねえからな」

「さっさと金目のものを出しやがれ」

 追いかけてきたのは2人の男。
 大柄なマッチョと、小柄なネズミ顔の男だ。
 マッチョは重そうな剣を持っていて、ネズミ顔は鋭いナイフをベロリと舐める。
 ほんとにナイフ舐める人って初めて見た。

「はぁ……」

 なんで俺は逃げていたんだろう。
 どうせ俺は死ぬつもりだったじゃないか。
 別に死んだっていいんだ。
 だったら、この2人を俺の寂しい門出の道連れにしてやる。

「な、なんだよ。やるっていうのか?」

「こ、来いよ。ビビってんの丸わかりなんだよ」

 俺はポケットに入っていたマイ胡椒を取り出し、男たちに向かって振りかけた。

「ぐぁぁぁぁっ!目がっ目がっ」

「ぶわっくしゅんっ!ぶわっくしゅんっ!」

 カランと転がる男たちの武器。
 俺はそれを拾い上げ、振りかぶった。

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