異世界に行けるようになったので胡椒で成り上がる

兎屋亀吉

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改稿版

18.人員補充

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「旦那様。新しい商会では香辛料や酒、高級雑貨などを扱うつもりなのですよね」

「そうだけど?」

「それでしたらいささか商会の警備のための戦力が足りないように思います。最低でもあと20人ほどは戦えるものを雇うか買うかしなくては」

「そうか」

「はい。今までは旦那様が商品をすべて持っておられたのでよかったのですが、商会にするのでしたら商品をあるていど倉庫に置いておかねば効率が悪いですからな」

「なるほど」

 やっぱり思いつきで色々やるものではないな。
 ちゃんと知識のある人間に聞いてから始めないと。
 いっそ商会を任せるための人員も補充するかな。
 どうせ戦力も増やすのだし。
 でもなかなか、裏切らない人材っていうのも稀だからな。
 ロドリゲスは本当にいい拾いものだったよ。
 この世界では下働きの人間でも、金持って逃げない人を探すだけで大変だからね。
 やっぱりまた奴隷かな。
 奴隷はいい。
 今まで過酷な環境にいた人ほど優しくすれば従順になってくれるから。
 この間横転していた馬車から買った奴隷たちなんて、なんか俺のこと神かなにかのように拝んでるからね。
 ちょっとそこまではしなくてもいいけど、最低限お金や商品を持ち逃げしないくらいの自制心を持った人が雇いたい。
 
「昼から奴隷を買いに行く」

「かしこまりました」





 奴隷商というところは、なかなかに面白いところだ。
 奴隷ひとりひとりに人生があり、ドラマがある。
 それは奴隷商人にも言えることだ。
 奴隷にきつく当たる人、優しく接する人、優しく見えるが実は奴隷を見下している人。
 奴隷商人と奴隷の話し方ひとつでも、そこにあるストーリーを色々と想像してしまう。
 悪趣味だと言われるかもしれないが、俺はこういった極限状態が作り出す人間模様を見るのが結構好きなのだ。
 奴隷を買うのは今日で2回目だけれど、これはハマッてしまいそうだ。
 
「旦那様、口元がにやけております。だらしないので顔をお戻しください」

「あ、ああ。分かってる」

 ロドリゲスに注意されてしまった。
 元貴族の侍従長だっただけあって、こういった機微にはうるさいのだ。
 冒険者の活動をしないときには身なりをそれなりに整えろだとか、昼まで寝るのがだらしないだとか。
 今日だってタキシードみたいな余所行きの格好をさせられて馬車に乗って奴隷商まで来たんだ。
 そんなに見た目に気を使う必要は無いのにな。
 俺は半分は冒険者なのだし。
 まあ俺も天涯孤独の身の上なので、こうやって世話を焼かれるのがなんだかんだ嬉しかったりするのだけれど。
 
「こちらの奴隷などはいかがでございましょうか?」

 どこにでもいる普通のおっさんのような見た目の奴隷商人が虎の獣人を勧めてくる。
 確かに強そうだ。
 筋骨隆々で、猛獣のような目をした若い奴隷だ。
 たぶん本当に強いんだろうが、お値段もそれなりだ。
 金貨300枚もする。
 先日買った奴隷が嘘か本当か金貨800枚だったことを考えると、この奴隷は1人の値段にしては高すぎる。
 俺は別に買ってもいいと思うのだけれど、ロドリゲスを見ると厳しい顔で首を横に振る。
 やはりか。
 現実的な価格では無いということだろう。
 俺の場合は異世界で商品を仕入れてくるから原価率はきわめてハイパフォーマンスだ。
 だからどれだけ高い奴隷を警備に配置しようと、そこそこの利益は出ると思うのだがね。
 だがロドリゲスの言いたいことも分かる。
 商人ならば、銅貨1枚でも多くの利益を追求するべきだとそう言いたいのだろう。
 そうだね、俺も稼ぎが多ければ悪い気はしない。
 俺はロドリゲスの意見に従い、虎獣人の奴隷を却下する。
 実際俺もこの虎獣人は従わせるのが大変そうだとは思っていた。
 この奴隷商は奴隷の扱いがそこまで悪くない。
 しかしそれは逆に、優しくしてやってもそこまで従順にならないということだ。
 先日の奴隷に味をしめた俺は、またあのパターンで従順な従業員を手に入れたくて奴隷商に来たのだ。
 なにかもっと、扱いの悪い奴隷はいないものか。

「ここでは奴隷の扱いがいいですね」

「はっ、奴隷は私どもの商品でございますれば。大切にするのは当然のこと。昨日うちに他所の奴隷商から流れてきた奴隷が大量入荷されたのですが、酷いものでした。あんな扱いは人間のすることではありませんね」

 ほう、その奴隷たちはそんなに酷い扱いを受けていたのか。
 くふふ、いい情報を聞いた。

「旦那様、顔がまた大変なことになっております」
 
 しまったしまった。
 顔に出てしまっていたか。
 俺は歪んだ口元に手をあて、元に戻す。

「その奴隷を見てみたいのですが、いいですか?」

「あまり見ても気持ちのいいものではありませんよ?中には身体に重大な損傷を負っている者もおりますから」

「ええ、私は大丈夫です。可哀想な奴隷を少しでもいい環境で働かせてあげたいのです」

「お客様……。私感動してしまいました。奴隷たちのことをこんなにも考えてくださる方がこの国にいらっしゃるとは」

 奴隷商人は本当に軽く目を潤ませている。
 商人としてこの男が大丈夫なのか心配になってしまった。
 俺とロドリゲスは奴隷商の案内に従って奥の広い牢に向かう。
 まだここの環境に慣れていない奴隷たちを、心細くないように皆一緒の房に入れているのだという。
 もちろん男女は分けているが。
 
「こちらになります」

 そう言って奴隷商に案内された先には、とても直視できないような凄惨な現状が広がっていた。
 覚悟はしていたが胸糞が悪くなる。
 身体は綺麗に洗われているし簡素だが清潔で温かい服を着せているようだが、その身体には皆一様に痛々しい包帯が巻かれていた。
 身体の一部が欠損している者も珍しくはない。
 目に包帯を巻いている者もいる。
 目玉でもくりぬかれたかというのか。
 
「全部買う」

「は?」

「全部、買う」

 こんなの、放っておけるわけがないだろう。


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