異世界に行けるようになったので胡椒で成り上がる

兎屋亀吉

文字の大きさ
23 / 31
改稿版

20.老将

しおりを挟む
「こんなことが……。ああ、神よ」

「足が、動く。動くぞ!」

「目が、抉り出されたはずの俺の目が!」

 治療は大体終わった。
 一人につき中魔石20個程度はかかってしまっている。
 ここ最近少しづつ貯まってきた大魔石をいくつか消費してしまった。
 それだけ奴隷たちの怪我が酷いということだ。
 何年も前まで巻き戻さなければ綺麗な身体にはならない人が多い。
 しかし怪我を治せば動くことができる若い人たちはまだ魔石の消費量は少ないほうだろう。
 最後に残ったのは老人だ。
 怪我を治しても動けない可能性が高い。
 場合によっては数十歳は若返らせる必要があるだろう。

「どうやら子供や若い者たちの怪我を治してくれたようですじゃの……」

 穏やかな声で話しかけてくるのは、右目と右腕、左足を欠損している老翁だ。
 残った手足はやせ細り、怪我を治してもろくに動けそうにない。
 
「感謝いたしまする。じゃが、儂らの治療は不要ですじゃ。もはや怪我が治ってもまともに動けるとは思えませぬ」

 ほかのおじいさんおばあさんも同調する。
 せめて安らかに死なせてくれ、と。
 まあ俺がそれを聞き入れることは無いがね。
 せっかく金を出して買ったのだ。
 俺だって慈善事業で不良在庫を買い取ったわけではない。

「頼みまする。このままゆるりと死なせてはいただけませぬか?」

「それは俺が決めることだ」

 おじいさんおばあさんたちは生き永らえることに複雑な想いを抱いているようだ。
 平均寿命の短いこの世界で、その歳まで生きてきた人たちにはさぞかし色々な想いがあるだろう。
 そして色々な技能も持っているはずだ。
 若返らせたら即戦力になる可能性が大きい。
 魔石の消費なんて小さな問題だ。
 シャドウヴァイパーでもスナイピングすれば簡単に手に入るものだしね。
 俺はロドリゲスに他の奴隷たちを部屋から出して風呂にでも入れてくれるように頼む。
 今までの奴隷たちも怪我の程度によっては少々若返った人もいたが、それはまだ誤魔化せるレベルだった。
 しかしこれから治療する老人たちは言い訳できないレベルで若返らせるつもりだ。
 あとで対面したらわかってしまうだろうが、俺が魔法を使って老人たちが若返ったところを見せないようにすれば言い訳のしようもある。
 子供や若い奴隷は怪我が治って多少は緊張が解れたのか、そこまで悲壮感を感じさせない表情で部屋から出ていく。

「治療を始めるぞ」

「お願いしまする」

 怪我のひどい人から順に、おじいさんおばあさんを治していく。
 一人当たり平均20歳くらいは若返らせないと戦力にはならないだろう。
 魔石の消費がすごい。
 大魔石がどんどん無くなる。
 これが終わったらまた大森林に行かないとだめだな。
 
「なんと、これは……」

「すごい。腕が戻っただけではない。身体の倦怠感や震えも消えておる」

「まさか、若返っておるのか?」

「お肌も皺が無くなっているわ……」

 よぼよぼのおじいさんは力強い益荒男になり、皺くちゃのおばあさんは大人の色気が漂う熟女になった。
 栄養不足で多少痩せてはいるが、回復するのは難しくなさそうだ。
 さて、最後のおじいさんだ。
 俺を異世界に誘ってくれたのも、こんなおじいさんだったから俺はおじいさんには優しいよ。
 どうやらこのおじいさんは、最初に治療はしなくてもいいと言ってきたおじいさんのようだ。
 長い髭を蓄えた仙人のような雰囲気のおじいさんだな。
 その右目は拷問によって抉られたのではなく、戦いによってできた傷のようだ。
 額から顎にかけて大きな傷がある。

「頼みがありまする」

「なんだ?」

「右目の傷は治さないでおいてはくれませぬか」

 できるかな、そんなこと。
 ていうか目玉もなの?
 傷ってどこまでが傷?
 そういうの細かく言ってくれないと分からない。

「右目はいつ怪我した?」

「30は半ばの頃、好敵手と戦ってやられました。その思い出と共に刻んでおきたいのですじゃ」

「眼球は治していいのか?」

「そんなことができるのですかな」

「やろうと思えば」

「ではお願いします。注文など付けて申し訳ない」

 俺は老人の右目の傷と脳以外をすべて30歳若返らせる。
 たぶんこの老人が一番年上だから、そのくらい若返らせないとダメそうだった。
 若返った老人の見た目は大体40歳くらいだろうか。
 もう少し若返らせよう。
 右目に傷を負ったという30の半ばくらいまで若返らせる。

「これは……。なんというお力」

「俺は戦力を求めている。あんたは戦えるだろう?」

「多少ながら戦う力を持っていると自負しております」

「頼むよ。俺に力を貸してくれ」

「まさかもう一度剣を握ることができようとは。老骨ながら、誠心誠意尽くす所存でございます」

 やはり老人はいい。
 手に職持ってるし、義理堅いし。





「旦那様、このような魔法が使えたなどとは聞いておりませんよ」

「悪かった。言い忘れていた」

 時間遡及について今まで言ってなかったことについて、ロドリゲスに軽くお説教される。
 確かにこの魔法はその存在がバレれば大変なことになる魔法だ。
 もはや俺の家令といっても過言ではないロドリゲスにはもっと早く言っておくべきだった。
 そういえばロドリゲスも50を超えて最近は身体にガタが来ていると口にしていたな。

「ロドリゲスも若返りたい?」

「いえ、私は歳を経てきたことに後悔などありませんよ」

「ふーん」

「ですが、もしも足腰が立たなくなった時にまだ旦那様が朝起きられないようなら、心配でお願いするかもしれません」

「そうか」

 それはほとんど確定と言ってもいいのではないだろうか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳
ファンタジー
庭付き一戸建て住宅ごと召喚されたせいで、召喚に失敗。いったん、天界に転送されたジュンは、これからどうしたいかと神に問われた。 「なろう」さまにも、以前、投稿させていただいたお話です。 ペンネームもタイトルも違うし、かなり書き直したので、別のお話のようなものですけれど。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...