異世界転移かと思ったら群馬だった

兎屋亀吉

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11.ヤのつく職業

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「おいおい、誰を殺すって?」

 ドアを勝手に開けてぞろぞろと入ってくる大勢の強面たち。
 どうやら中の様子は経営者側に筒抜けらしい。
 裏ビデオとかにされてさらに売りだされていたら最悪だな。

「さっきからずいぶんと込み合った話をしてるみたいじゃねえかよ。俺たちも混ぜてくれよ」

「で、誰と誰が逃げるって?」

 やっぱり本職の人の脅しは迫力がある。
 足がガクガク震えてきたので俺とエミさんの周囲をバリアで囲んで安全地帯とする。
 モンスターと見間違うほど大きなイノシシの突進でもびくともしなかったバリアだ、これで安心だろう。
 俺はなけなしの勇気を振り絞って発言する。

「あの、エミさんはあなた方にいくらくらい借りているんでしょうか。俺のほうで借金を立て替えたいんですが」

「あぁ?ずいぶん貧乏くさい顔してるけど、払えるのか?こいつの借金はゼロの桁が一つ違うぜ?」

「金額を教えてください」

「ちっ、おい、借用書持ってこい」

「へいっ」

 強面の中でも一番若い兄さんがバタバタと走っていき、すぐに戻ってくる。
 その手には1枚の紙切れ。
 一応借用書というものがあるんだな。

「見てみな」

「拝見します」

 借用書にはゼロがいっぱい。
 俺の計画する今年中に稼ぐはずの額よりもさらにゼロが一つ多い。
 普通に考えてこんな金額ありえないだろう。
 エミさんの実家の事業の規模から考えても、こんな金額は普通じゃない。

「あの、ゼロの数間違えてませんか?2個ほど」

「いいや?間違えてないぜ?」

「本当にこんな金額貸したんですか?失礼ですけど、あなた方がこんな金額を貸すっていうのが考えられないんですけが」

「うるせえな、貸したんだからこうやって借用書があるんだろうが。いい加減諦めな」

 せいぜい町工場の焦げ付いた債権程度の金額だろうと思っていたけれど、上場企業の資本金レベルの金額だった。
 さすがに払えない。
 お金で解決は不可能だ。
 
「もういいだろ。おい、こいつは半殺しにして外に放り出せ。エミ、てめえはお仕置き部屋行きだ。覚悟してろよ」

「い、いやぁ!!もうあそこは絶対に嫌なの!!私は何もしてない!!この男も知らない!!」

「知り合いなのはわかってんだよ。てめえの客が逃亡をもちかけた。連帯責任ってやつだぜ」

 男はにやりと笑う。
 胸糞が悪くなる顔だ。
 ぐーぱんしてやりたくなる。
 怖いからやらないけど。
 俺なんてバリアから出たら引きこもりのもやしだ。
 ヤクザに近接戦闘で勝てるわけがない。
 バリアが無かったら正直こんなところ近づきもしなかっただろうな。
 でも、俺には偶然手に入れた力があった。
 本当に俺っていう人間はビビりで情けない人間だから、こんな力でもなければ勇気を出すこともできないんだ。
 自分の矮小さが嫌になるね。

「ん?なんだこれ。壁?」

「兄貴!これ以上進めません!」

「何を馬鹿なことを言ってやがる。どけっ」

 アニキと呼ばれたちょっとだけハイクラスの腕時計をつけた男が俺の前のバリアに触れる。
 バリアは俺の30センチくらい前に張ってあるからめちゃくちゃ近い。
 サファリパークでライオンを見ている気分だ。
 
「なんだこりゃあ、どうなってやがる!おいてめえ!!どうなってんだよ!!」

 ハイクラス強面は拳を振り上げてバリアをバンバン叩く。
 その迫力に股ぐらがひゅんとなるが、バリアの信頼性は何度も確認しているので段々と落ち着いてくる。
 大丈夫だ、絶対にバリアは破れない。

「ね、ねえ、どうなってんの?」

「あまり詳しいことは話せないんですけど、たぶん大丈夫です。今すぐどうにかされることはないと思います」

「い、いますぐってどういうこと?時間が経つとやばいの?」

「いや、そうじゃなくて。これからどうするかっていう話です」

 バリアが破られることはたぶんない。
 だけど俺たちもバリアからは出られない。
 ここから出てシェアハウスに帰るためには、周りを囲んでいる強面たちをどうにかしなければならない。
 
「警察でも呼びますか?」

「だ、だめだって。警察なんて呼んだら報復に何されるかわからないわ」

「そうなると、俺たちが死ぬか相手が死ぬかみたいな話になりますよ」

 それはもう戦争だ。
 ヤクザVS引きこもり、勝てる気がしない。
 俺はバリアもあるしきっと死なないだろう。
 だけどヤクザのやり方はきっと俺自身を狙うものばかりではない。
 俺の両親や妹、エミさんの肉親などを狙ってくるだろう。
 そうなれば俺は守りに回るしかなくなる。
 全員一か所に集めてバリアで守れば守れるだろうが、兵糧攻めにされたら終わる。
 ひとりでは攻めか守り、どちらかにしか手が回らないのだ。
 今ここで戦争を選択することはできない。
 何か、相手が納得してくれる落としどころが必要だ。
 エミさんの借金とエミさん自身を諦めてくれる何かが。
 そして俺は、それを持っている。
 俺はエミさんとの話を切り上げ、壁に張り付くハイクラスに向き直る。

「あの……」

「あぁ?」

「俺を雇いませんか?」

「はぁ?お前を?俺たちが?笑わせんじゃねえ」

「でもこの壁、壊せますか?俺はこれを作り出す能力を持っています。さらには金稼ぎも得意です。絶対エミさんよりもお得な商品ですけどね」

「ちょっと待ってろ」

 ハイクラス強面は何かを考えるような仕草をしてからおもむろに腰の後ろに手を回す。
 もしかしなくても銃だろうな。
 ベルトの隙間に挟んでいたとみられる銃を引き抜き、ためらうことなく発砲するハイクラス。
 黒い筒が火を噴き、発砲音に耳がきんきんする。

「なるほど、銃を防げる壁か。なかなか役に立ちそうだ」

 当然のごとくバリアはびくともしない。
 しかし硬い壁に向かって銃を撃てばどうなるか。
 当然跳弾する。
 跳弾した弾はハイクラスには当たらずその部下の太ももを貫いている。

「んぐぐっ、あ、アニキ、いてえっす」

「つばでもつけとけ」

「そんな……」

 うーん、外道。
 こんな人の部下にならなければいけないなんてな。
 でもこれもエミさんを助けるためだ。

「いいだろう。お前を雇う。だが正式な組員じゃなく、俺の私兵としてだ」

「ありがとうございます。そのかわり……」

「ああ、その女の両親の借金もすべてチャラにしてやろう。今後その女とその周辺には手を出さない。これでいいんだろ?」

「ええ」

「契約成立だ」

 かくして俺は、ヤクザの私兵となった。


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