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逸文 比翼連理 二十五
しおりを挟む涙がようやくおさまったあと、二言、三言を交わした。もっぱら、姫さまから堺での暮らしぶりを聞かれ、それにりくが答えるかたちをとった。この時代の身分のかけ離れた者の間にあるまじきことだったが、古い友人に近況を尋ねられるに近かった。
上方の繁華など、りくはたいして味わったわけではないが、それでも体験しえた街娘らしい些細な楽しみを語ると、さ栄姫は感心し、羨ましがってさえくれるようだった。
一方で、
(伊勢の者としてのわたしのことなど、お尋ねになられぬ。余計なことをわたしに喋らせるまでもない、とお気を使いか。)
それどころか、新三郎のことにもろくに触れないのだ。それは訝しかった。
気がつくと、午後の日が落ちかけていた。
「おや、もう暗くなってしもうた。りく、ここに泊まるか?」
心が動いたが、
「いえ、若旦那……若様からご紹介をいただいたお家がございますので、やはり、ご挨拶に、そちらに参らねばなりませぬ。」
「どこのおうちじゃ? わたしからお断りを入れてやろうか……」
と言って、さ栄姫は、はっと気づいたようで、
「……とも、いかぬわな。子どもがそんなことを頼むはおかしい。おじいさまにお願いするのも、今日会うたばかりの大人にそこまでなつくも、些か妙じゃな。」
自分の、子どもらしい、丸みを帯びた手を見ながら、声に悲しい色がある。あきらめたように目を閉じた仕草は大人のものだったが、それが途端に、幼女を抜けきっていない真汐姫には不似合いになってしまったように、りくの目には見えた。
「姫さまは、大舘の姫さまと、一心同体になられたとおっしゃいましたが、……おそれながら、お教えください、それはいかなる形にございましょう?」
「うん、知りたかろう。……真汐の知ること、感じることを、真汐の心の底にいるさ栄は、すべて知れる、感じ取れる。……じゃが、さ栄として斯様に過ごしているとき、真汐は眠ってしまう。まだ、私たち二人の心は、全くひとつには溶けあえていないのじゃろうな。……じゃが、さほどに長く眠らせてはならぬ。この子のためにならぬ。……今日はりくに会えたうれしさに、長く眠らせすぎた。……時を止めて喋る、か? さような芸当もまだ、できぬでもないが、今日は左様しとうなかったのじゃ。……さあ、そろそろに、さ栄は真汐を起こすとしよう。」
真汐姫の小さな、丸みを帯びた姿が、中腰になった。侍女を呼び戻そうというのだろうか。
「姫さまっ!?」
行ってしまうのか、と思うと、りくの心は揺れた。別れたくない、まだ、最も大事なことを話できていない気がする。
だが、さ栄さまのほうが、なにか決意したように、うん、とうなずいて、りくのほうにするすると移動し、ほとんど耳元にまで顔が近づいた。りくは硬直したようになる。そこで、囁きがあった。
「りく、最後に頼みがある。聞いておくれ。」
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