10 / 32
10話「スターチスの石と行動力」
しおりを挟む10話「スターチスの石と行動力」
初めて白としずくがデートをした日から1週間が経った。
その間、白はいつもの公園に顔を見せず、「しばらく会えなくなる。」という白の言葉が本当だったのだと、しずくは今更ながらに実感していた。
3月の中旬から、休みの日以外は毎日のように彼と顔を合わせていたため、1週間がとても長く感じていた。
会えない事になれると思っていたが、そういう事はなくどんなに仕事で疲れていても、いつも白が待っていた公園に入り、ぐるっと一周歩いてから帰るのが、しずくの新しい習慣になっていた。
もちろん、スマホの連絡先は交換していないので、彼から連絡がくることも、しずくからする事もなかった。
早めの誕生日プレゼントにもらったスターチスの花も、枯れてしまいそうになっていた。
以前もらった1輪のスターチスが枯れてしまった時に、しずくはとても寂しい気持ちに襲われた。
そのため、今回は何個か押し花にしたのだ。スターチスの花を使って押し花の栞を作ろうと思っていた。
そんな時に職場の同僚から、「レジン」という物をおしえてもらった。
専用のケースにレジン液という透明などろっとした液体を入れ、そこに押し花を混ぜるのだ。そして、日光に当てると液が固まり、昆虫や草花が入った琥珀のように透明な空間の中に、花が咲いたまま閉じ込める事ができるのだ。
しずくは、その方法を調べて、スターチスの花を枯らせずにいつでも見られるようにした。
透明の石の中に、スターチスは綺麗に咲いている。
それを光に浴びせながら眺めるのも、しずくの日課になっていたのだった。
そして、スターチスの花言葉。
それは、「変わらぬ心」「途絶えぬ記憶」だった。その花言葉は、白からの大切なメッセージだと、しずくは花を見ながら言葉の意味を深く考えていた。
そんな時、しずくの1番の友人である美冬から連絡があった。
彼女とは高校からの付き合いで、特に仲が良かった。性格はサバサバしており、行動力があり、そして美人だった。彼氏がいることが多かったが、何故か結婚はしない不思議な友人だ。本人曰く「結婚したいと思う人がいない。」らしい。
しずくは友達が多いほうではない。その数人の友達も結婚をして、なかなか会えなくなっている。
そのため独身同士である、美冬と遊ぶことが多くなっているのだった
お茶をしないか、と誘われて仕事帰りに待ち合わせをして、久しぶりに近況報告をしていた。
いつも「彼氏できた?いい人でもいる?」と質問してくる美冬。
もちろんこの日も、そうだった。彼女は、ニコニコしながら「今、彼氏と別れたばっかりなんだよねー?しずくはどうなの?何かあった?」と、聞いてきた。
いつもの「何にもないよー。」という返事だと思っていたのだろう。
しずくが、言いにくそう目を泳がせると、美冬は驚いた顔をした。
「え?!なに?何かいいことでもあったの!?」
と、カフェには相応しくないような、大きめな声を出して美冬はしずくに問いただした。「ちょっと、落ち着いてよ。」と、しずくは言いながらも、自分も何故か緊張している事に気づき、ゆっくりと深呼吸をしてからゆっくり話し始めた。
それは、もちろん白との出会いだった。
突然、声を掛けられた男の人が、自分を知っていた事。そして、一輪の花を渡されて告白された事。それから、毎日帰り道に送って貰っている事。そして、初デートをして帰り際に「しばらく会えない。」と言われた事。
すべてを、彼女に話した。
誰にも話していなかったので、しずくは相談できて嬉しかった。それに美冬は恋愛経験が豊富だ。いいアドバイスを貰えるかもしれない。
しずくは、丁寧に話をしている間、美冬は真剣に話しを聞いていた。
しずくが美冬に恋愛相談をしたことはほとんどなかったため、美冬は終始驚いた表情ながらも、何故か嬉しそうだった。
「と、言うわけで今は会えてないんだけど、こういう事がありました。」
全てを言い終わると、美冬は目をキラキラさせてしずくを見つめていた。
「いいね!なかなかない出会いだよー。話だけでも、白くんってイイ人そうだし、しずくの事大好きなんだね。」
「え!?大好き?」
「そうでしょー。毎日会いに来るとか、昔しずくに会ってからずっと思い続けくれて、しかも今でも好きなんてよっぽどだと思うよ。」
「・・・そうなのかな・・・。」
「そうでしょう。で、しずくは、会えなくなってどう思った?」
自分の今の気持ちはこの1週間で痛いほど実感できた。
ずっと彼の事を考えている自分がいるのだ。帰り道、ドキドキしながら公園へ行き、姿が見えないと悲しい気持ちに襲われる。そして、明日こそはと願ってスターチスの石を眺めるのだ。
気持ちはわかっているのに、素直に言えないのは、忘れている過去に捕らわれているから。
過去を忘れてしまっても、彼への気持ちは強い。
だが、どうしても思い出したいのだ。
白の気持ちを知りたい。
「早く思い出して、早く気持ちを伝えたい。」
「それは、どうして?」
「・・・早く会いたい、かな。」
そういうと、美冬はうんうんと頷きながら「早く思い出せるといいね。」と優しく微笑みながらそう言ってくれた。
もちろん、羽衣石白について美冬にも聞いたが「そんな珍しい苗字の人忘れるわけないし。年下くんなんて、あまり知り合いいないしなー。」と、彼女も知らないようだった。
ここにも彼の情報がないとわかると、ため息が出る思いだった。
「そっかー。何かいい人いるってなるの、しずくには頼みにくいな。」
「え、なに??」
「久しぶりに合コンのお誘いがあるの!30歳すぎるとなかなかないでしょー?私も彼氏いないし、人数も足りなくて困ってたからしずくも誘うつもりだったんだよね。」
「合コンか。」
確かに、今はそういう気分ではなかったし、白の事で頭がいっぱいになっていた。
合コンとなると、異性と話す事になる。男友達もいないしずくは、異性と話をするだけでも、高緊張状態になってしまう。いつも、避けてきたが美冬に誘われて何度か参加した事はあった。
美冬が困っていると思うと、誘いを受けるべきだと思ったが、どうしても他の男性と話せる状態ではなかった。
申し訳ないが断ろうと思ったが、美冬の一言でその思いは変わった。
「なんか、相手の男の人でしずくの事知っている人もいるみたいなんだよね。名前だしたら、本名知っててさ。」
「え・・・。」
「名前は忘れちゃったんだけど。」
自分の事を知っている人がいる。そして、男性。
それだけで、しずくは彼と繋がってはいないか、そんな淡い期待を持ってしまった。
全て彼に繋がっている、考える事全てが。
自分では思い出す要因を見つけられずにいたしずくは、藁にも縋る思いでいたのだ。
自分の事を知っているならば、白とももしかしたら繋がっているかもしれない。そう思ったら、しずくはすぐに言葉を出していた。
「合コン行こうかな。」
「へ・・・?」
予想外の言葉に、美冬は声を失っていたが、すぐにしずくの考えがわかったのか「いいと思うよ。行動するの大切だよ。」と嬉しそうに言った。
美冬と別れた後、合コンの日時と集合場所の連絡がすぐに届いた。
その日は5月26日の夜。
しずくの誕生日だった。
0
あなたにおすすめの小説
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
恋。となり、となり、隣。
雉虎 悠雨
恋愛
友人の部屋にルームシェアすることになった篠崎ゆきは、引っ越してから三ヶ月、家が変わった以外は今まで通りの日常を送っていた。隣は赤ちゃんがいる家族と一人暮らしの背の高いあまり表情のない男。
ある日、マンションに帰ってくると、隣の部屋の前でその部屋の男、目雲周弥が倒れていた。
そして泥酔していたのを介抱する。
その一ヶ月後、またも帰宅すると隣の部屋の前でうずくまっている。また泥酔したのかとゆきが近づくと、前回と様子が違い酷いめまいを起こしているようだった。
ゆきは部屋になんとか運び入れ、また介抱した。
そこからゆきの日常も目雲の日常も変化していく。
小説家になろうにも掲載しています
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ある日、憧れブランドの社長が溺愛求婚してきました
蓮恭
恋愛
恋人に裏切られ、傷心のヒロイン杏子は勤め先の美容室を去り、人気の老舗美容室に転職する。
そこで真面目に培ってきた技術を買われ、憧れのヘアケアブランドの社長である統一郎の自宅を訪問して施術をする事に……。
しかも統一郎からどうしてもと頼まれたのは、その後の杏子の人生を大きく変えてしまうような事で……⁉︎
杏子は過去の臆病な自分と決別し、統一郎との新しい一歩を踏み出せるのか?
【サクサク読める現代物溺愛系恋愛ストーリーです】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
数合わせから始まる俺様の独占欲
日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。
見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。
そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。
正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。
しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。
彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。
仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる