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20話「見つからない探しもの」
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しずくの誕生日から、白と最後に会ってから、1ヶ月という月日が流れていた。
梅雨明けも近いのか、真夏日になる日も多くなって、街では身軽な格好やカラフルな色が目立ち始めていた。
夏らしい開放感を感じながら、しずくは今日も汗をかきながら、公園の前を通って帰宅する。
陽も長くなり、夕方の公園内には学校帰りの子ども達や、保護者と一緒の幼児が賑やかに遊んでいる。
しずくの探している人は、もちろん見つかない。
それだけを確認して、しずくは公園を後にした。
白は、あの日から公園に姿を見せなくなっていた。
仕事が忙しい中、しずくの誕生日だけ無理をして会いに来てくれたのかもしれない。しずくは、そう思うようにしていた。
そう思わないと、心が切なさで張り裂けそうだったからだ。
彼がしずくの前に現われなかったのは、もちろん自分のせいだとしずくは自覚していた。
ずっと白の事を思い出せないしずくを待つのは、もう嫌になったのだろう。
もし逆の立場だったらと思うと、自分では我慢出来ないと思ってしまうのだ。
白の優しさに甘えて、ずっと待ってもらっていた。
白はしずくに対して、「好きだ。」という感情を表に出して伝えてくれていた。
それに安心して、しずくは「彼なら待ってくれる。」「白はわかってくれる。」と自分の気持ちを伝えようともしなかった。
白は2度も自分の気持ちを聞いてくれた。しずくにチャンスを与えてくれた。
それなのに、「まだ思い出せないから。」という自分勝手な考えで、返事をうやむやにしてしまったのだ。
白にとって、ただの恋愛ごっこをしているだけで、本当の恋人にはなれないと思ったのだろう。
しずくは、白に本気ではない、と。
彼に会えなくなってから、しずくは必死に白の過去を探した。
仕事から帰ってくると、すぐに過去の手帳を見たり、職場の保育園で撮影した写真を見直したり、手紙や年賀状なども見直した。
もちろん、卒業アルバムも一通り見たし、子ども達からもらった手紙を入れている大きな箱も1つ1つ丁寧に見直した。10年分の量だったので、かなりの数だったが、しずくは必死になって見直した。
だけど、彼の姿、名前はどこにも出てこなかった。
「はー・・・。白くんの過去は、ここにはないのかな。」
薄暗くなった部屋で一人そう呟く。
仕事が終わってすぐに探していたため、カーテンも開けたまま、電気も付けずにいた。
これでは、字も見えにくくなってしまう。
ため息を付きながら、よろよろと立ち上がり、カーテンを閉めてから部屋を明るくした。
部屋はここ数日部屋中を探した後が色濃く残っていた。
いたる所に本が山積みになり、紙も散乱していた。クローゼットの奥の物もだしたので、衣類も散乱している。
少し休もうとベットに横になる。
ゆっくりと目を閉じると、頭の中がすっきりとして冷静になれる。
次は、どこを探そうか。
・・・もうほとんどの物を1ヶ月繰り返し見ていたじゃない。過去の物なんて、もうここにはない。
見つけたら、白に教えないと。
・・・どうやって白に会うの?連絡先も知らないのに。もう、公園にも来てくれないのに。
「そうか、もう思い出しても白くんに会えないのか。」
彼に会えないのなら、彼を思い出しても仕方がない。
彼に会えないのなら、過去を探しても意味がない。
彼に会えないのなら、彼を好きになったこの気持ちを伝えられない。
もう全てが遅いのだ、彼に会えないのだから。
「・・・ぅっ・・・・。」
1ヶ月我慢してきた、見ない振りをしてきた現実を、しずくはやっと受け止めると、たくさんの涙が溢れてきた。
それは、溜めてきた想いが爆発したかのように、なかなか止まることはなく、しずくはただただ泣いた。
「はく・・・白くん・・・・。」
彼の名前を何度も呼びながら。
どれぐらい泣いたのだろう。
泣いたまま寝てしまったようだ。
ブーブーという振動で、しずくは目を覚ました。
この振動はスマホの目覚まし・・・?
いや、違う、着信だ。
まどろみの中で、そう認識するとしずくは腫れて開きにくい目を擦りながら飛び起きた。
彼からの連絡がくるのではないか、ここ1ヶ月はスマホを手放すことが出来なかった。
・・・連絡先など交換していないのに。
淡い期待の中、震える続けるスマホを手に持つと、案の定待っている相手ではなかった。
通知には「伊坂光哉」と表示されていた。
その表示をしばらく見つめた後、しずくはスマホの通話のボタンを静かに押していた。
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