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15話「信じると決めた」
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「なんで、レイトさんに黒の刻印が……。」
水音は、レイトの脇腹にある刻印に釘付けになった。
レイトは、白蓮の刻印の持ち主で、白騎士隊長であり、白蓮の人々からの信頼も厚い人物のはず、だった。しかし、目の前の彼は黒の刻印がある。
どうして、彼が……黒の刻印を持っているのだろうか。
「あぁ……見られてしまったね。いつかはバレる事だから、君に見せるつもりではあったけど、少し早まってしまったな。」
「レイトさん、黒の刻印の持ち主だったんですか?」
「そうだよ。」
レイトはあっさりとその事実を認めた。
「どうして……どうして、白蓮の刻印だって嘘をついて……そして、どうやって……。」
水音は、驚きで言葉が上手く出てこなかった。しかし、レイトはそれを理解しているのか、水音の頭をゆっくりと撫でた。
「大丈夫だよ、水音。驚くのも仕方がない。こんな醜い刻印が僕の体にあるのだから。でも、それももうおしまいだよ。……僕の刻印を受け取ってくれないかな。」
「………どういう事?」
水音は、レイトが話している事の意味がわからなかった。
刻印の交換は、マカライト国の人々の刻印の交換だと聞いていた。でも、それは本当はそうではないのだろうか?
「無色はね、愛し合うことでその相手の刻印を貰うように、その人の刻印と同じ物になるんだ。あぁ、でも安心して。僕が白蓮と黒の交換を願うから、君も一緒に白蓮になれるからね。」
「………それ本当なの?」
「君もこれで本当のマカライト国の人になれるんだ。」
レイトはうっとりとした目で、水音を見つめて、そのまま額に小さく口づけを落とした。愛しい者を愛でるように。
「やめてください。私、刻印なんていらないです!」
「黒の刻印だけど、すぐに白蓮に変わるんだ。そんなに不安にならなくていいんだよ。」
「白蓮の刻印が嫌なんですっ!」
水音がそう叫ぶと、レイトは目を大きくして驚いた顔をしていた。そして、信じられないものを見るような、そんな表情だった。
「君は、どうしてそこまで白蓮を嫌がるんだ?」
「……あれは、人の犠牲で成り立っている生活です。あんなのは、幸せとはいいません。ただの独裁です。」
「…………君は、わかっていない。」
「え?」
「君は、わかっていないんだ。黒がどれだけ苦しくて惨めで、酷い生活かを。だから、そんな事が言えるだ。」
悔しさと怒りを噛み締めるようにそう言うと、レイトはまた、水音にキスをした。
その時、口の中に違和感を感じた。固形の何かを口の中に入れられた、と思った時にはレイトの口が塞がれてしまった。吐き出したいのに、薬を舌で押されてしまう。無理矢理、喉まで入れられるかのように薬を飲み込み、水音は唇を離された瞬間、咳き込んだ。
それでも、薬が出てくることはなかった。
「何をしたんですかっ!?」
「君はきっと逃げようとするからね……。ゆっくりお人形になっていく薬だよ。大丈夫、2日で効果切れていくから、それまでに全て終わらせるよ。もう、彼には頼ってられない。」
「………そんな。」
「大丈夫だよ。痛いことはいないから。」
「……………彼って誰の事ですか?」
「君は知らなくいい事だよ。」
レイトは水音に薬を飲ませ、そして、全てを終わらせようとしているのだ。
恋人同士の繋がりと、刻印の交換を。それに抵抗したいのに、少しずつ体が重くなっていくのを感じられる。まだ、体は動かせるものの、先程よりも怠さが大きく、水音はベットに身を任せたまま、キッとレイトを睨んだ。
「レイトさん……レイトさんの事、私は信じてます。本当はそんな事をする人ではないって。」
「……君はお人好しなのかな?こんな風に無理矢理押し倒されたり、こんな血塗れの僕を見てそんな事を思うなんて。」
「レイトさんは確かに悪いことをしているかもしれません。でも、理由があるんですよね?」
「………それは……。」
水音の説得に、レイトは少しだけ動揺してしまっていた。まさか、こんなことをされてまで自分を信じるとは思ってもいなかったのだろう。
水音は、それを感じ取り「やはり、この人は信じられる。」そんな風に思った。
その時だった。
ガシャンッと、レイトの部屋の窓が割れて、黒いものが飛び込んできた。そして、それはすぐに動き出して、レイトに飛びかかっていた。
「………シュリっっ!」
水音はその人影が誰かがすぐにわかり、思わず叫んでしまう。シュリの手には、いつかのボロボロの短剣があった。レイトも、太股に隠していた短剣をすぐに抜いて、シュリの攻撃を受けた。
「白騎士の警備はどうなってるんだ……!」
「あんな連中、俺一人で退治出来るってわかってんだろう?」
「っっ!!」
シュリは短剣を使い素早く攻撃を仕掛ける。しかし、レイトはそれをすべてわかっているかの様にかわし、そしてその間にシュリへと斬りかかる。
「相変わらず、いやらしい攻撃だなっ!」
「奇襲を仕掛けるおまえには負けるよっ!」
「水音に何をしたっ!?」
「……今からするところだったんだよ。まぁ、お人形になる準備は整ったよ。」
「っっ!このっ!」
シュリは、レイトの体を思い切り蹴飛ばした。けれど、シュリの攻撃はかすっただけだったが、一瞬彼の動きを止めた。
「水音っ!」
シュリはその隙に水音に駆け寄った。そして、体を起こして彼を抱き締めた。
「大丈夫か?何かされてないか……?」
「シュリ……ありがとう、来てくれて。今は体が重くて動けないの。……ごめんなさい。」
「わかった。俺にしがみついてろ。」
シュリは水音を抱き上げた。水音は彼にしがみつく力も出なかったが、必死に力を振り絞って、彼の肩をぎゅと手で掴んだ。それを感じて安心したのか、シュリは水音を見つめて少しだけ微笑んだ。
けれど、その表情はすぐに真剣なものへと変わった。
水音は、久しぶりに見る彼をしっかり見えていたかった。けれど、目の前には怒りを露にしているレイトがいた。彼が来てくれた事を喜びたいけれど、それは後になってしまいそうだった。
それに、水音は少しずつ頭が朦朧として考えられなくなってきていたのだ。
「水音を返して貰おうか。」
「俺がそれを聞くとでも?」
「では、僕が間違って彼女を斬ってしまわないように、守ってあげるんだなっ!」
「……。」
レイトは声を上げながら、突っ込んでくる。
シュリは、咄嗟に枕をレイトに投げた。それをレイトはすぐに避けてシュリに向かってきた。
「君の攻撃パターンらわかってるんだよ!」
「……それは、俺も同じだっ!」
シュリは、レイトの動きを予知していたのか、彼の左脇、ちょうど黒の刻印があるところに短剣を思い切り投げつけた。
短剣は、レイトの脇腹をざっくりと斬り、そのまま床に落ちた。
「………っ、その剣を投げるなんて……。」
「水音を助けるためなら、その剣なんて惜しくないさ。それに、おまえが水音を傷つけるはずかないってことも、わかっている。」
レイトは痛みに耐えながら立ち上がろうとするが、沢山の血を流してその場に倒れ込んでしまった。
「レイト……レイト?」
「水音?」
「レイトが怪我をしてるわ、ダメ、助けないとっ!」
水音は、朦朧とする頭でレイトが倒れる姿を見てそう思った。
彼は、きっと間違ってしまっただけだ。きっと、話せばわかるはずなのだ。
同じ国で生きる人同士が傷つけ合うなんて、それを見てられなかった。水音を助けてくれた2人が傷つけ合うのは、嫌だったのだ。
彼の傷は、少し前のシュリほどのものではなかったかもしれない。けれども、大量の血が流れている。そして、彼は苦痛に歪んだ顔になりながらも、水音に手を伸ばして「水音……。」と、呼んでいた。
レイトの綺麗な顔や髪、そして刻印が赤に染まっていく。
「シュリ、離してっ!私、レイトを助けたいっ!」
「おまえ、何言ってんだ!お前を傷つけた奴だぞ!」
「それでもいや、私は彼を信じるって決めたの。私が信じないと、彼が……。」
シュリに抱かれ、動かない手を必死に伸ばして、レイトを見つめた。
けれども、薬のせいなのか。水音の体はパタリと動かなくなってしまった。
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