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14話「一時の安堵」
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★★★
「柊さん!風香さんから連絡です。自宅に不法侵入をされたようで部屋が荒らされているとの事です」
「なっ…………!!すぐ行く!」
柊は上司と共に今後の捜査の事を話し合っていた。その時に飛び込んできたのが、風香の事件についてだった。
柊はすぐに立ち上がり、上司にお詫びをした後急いで現場である風香の自宅まで向かった。すでに110番に通報もしてあるという事で、柊は舌打ちをしながら署内の廊下を走った。
こんな事は早く止めてしまいたい。
それなのに止める事は出来ないのだ。
真実を風香は話す事など、柊には出来ないのだ。それが悔しくて堪らなかった。
「風香、ごめんね………」
柊は自分の弱さを実感しながら、そう呟いた。
今、彼女は一人で不安になっているはずだ。
だからこそ、風香の傍にいて少しでも安心させてあげたい。守ってあげたい。
やっている事と気持ちに矛盾があるのかもしれない。
それでも、風香を笑顔にしたい。
その思いだけは同じだった。
「待ってて………今、行くから…………」
柊は、手を強く握りしめて、彼女の元へと向かったのだった。
☆☆☆
彼の事を信じていないわけではない。
柊が何故自分の部屋に侵入しなければいけないのか。
それに彼は絶対にしたいという理由を風香にはあった。
けれど、口から出た言葉は嘘になってしまった。風香は罪悪感を感じながらも、柊ではないと思い続けていた。それに、鍵を持っていても風香の事を忘れてしまっているはずなのだ。
それを和臣に伝えればよかったのかもしれないが、彼の職業を考えるとなかなか伝えられなかった。
「風香ちゃん?」
「あっ……はい!」
考え事をしていた風香の顔を心配そうに覗き込んだのは柊だった。大家との話しが終わって戻ってきたのだろう。
「ごめんなさい……ボーッとしちゃって」
「仕方がないよこんな事になったんだ。………今日は警察もここを調査するし、もう少したら風香ちゃんの話を聞いたらおしまいだけど。ここの部屋に戻れないね」
「………そうだね。怖いので、しばらくは違う所を探そうかな。とりあえず、ホテルに………」
「俺のところにおいで」
「え………」
「風香ちゃんがよかったら、俺のうちに来たら?………落ち着くまででもいいから」
柊の言葉に風香は目を大きくした。
彼は真剣な表情で風香にそう言った。
柊はしばらくの間、家に滞在する事を提案してくれたのだ。優しい柊ならば、そうするだろうが、記憶を無くした柊と付き合い始めてまだ間もない。それなのに、彼は風香を心配してくれているのだろう。
「付き合ったばかりだし、まだ難しいかな?」
「いえ………そんな事ないよ。ご迷惑にならないかなって」
「それはないよ。不謹慎かもしれないけど、風香ちゃんが家に居てくれるのは嬉しいよ。だから、まずは落ち着くまでおいで」
「じゃあ………お言葉に甘えて」
「うん」
風香の返事を聞いて安心した柊は、微笑んだ後にまた現場へと戻っていった。
事情聴取をした後、風香は解放されることになった。今のところ、犯人が玄関から侵入した事ぐらいしかわかっておらず、監視カメラの確認などはまた後々行われるようだ。風香のマンションの周りを多めにパトロールしてくれるようになったので一安心ではあった。
話を終えた後、風香はすぐに帰宅する事になった。柊は仕事をしているだろうと思ったが、風香の事を迎えに来てくれた。
「さぁ、帰ろうか」
「え……柊さん、お仕事は?」
「被害者の女の子の一人で帰らせるわけにはいかないよ。俺も心配だし、上司にも怒られる」
「ふふふ………ありがとうございます」
先程まで震えるほど怖いことがあったのに、柊が傍に居てくれるだけで微笑む事が、できるようになったのだ。
それも全ては彼のお陰だった。
けれど、やはり心の奥底では、先程の鍵の事を考えてしまう。
婚約者だった柊には風香の部屋の鍵を渡していた。お互いに自宅の部屋を渡しており、お揃いの傘のキーホルダーをつけていた。もちろん、風香は今でも柊の鍵を大切に持っている。
彼はどうだろうか。
記憶を無くした柊が、風香に関連付けるものを見て、どう感じるのだろうか。
それに、柊の自宅にも風香の荷物はたくさんあった。お揃いの食器やパジャマや洋服、化粧品もあったはずだ。今の彼の自宅はどうなってしまっているのか。そもそも、同じ場所に住んでいるのかも謎だった。教えてもらった大体の場所は同じだったが、違う所に住んでいる可能性もあるのだ。
「風香ちゃん」
「わっ………ど、どうしたの?柊さん」
気づくと風香はいつの間にか彼に抱きしめられていた。車に乗り、柊が車を走られたのは覚えていたけれど、ボーッとして考えに耽っていたようだ。
「………君が無事でよかったよ」
「柊さん………」
「君のうちに不法侵入者が入ったと聞いたときは、心配で仕方がなかったんだ。風香ちゃんの姿を見るまで安心なんて出来なかった。だから、またこうやって会えてよかったと心から思ってる」
「………っっ………」
彼の体温に包まれ、彼が本当に心配していたという感情のこもった声を間近で聞いて、風香の緊張の糸が切れてしまった。
「………柊さん………怖かった………自分がもし、部屋に居たらって思うと、震えが止まらなかったの」
「うん……そうだよね」
「部屋にまだ誰かいるかもしれない。これから一人でどうしようとか考えた、不安だった」
気づくと風香は彼の腕の中で涙を溢していた。
突然の不法侵入は、柊の行方不明と記憶喪失という大きな事件で戸惑いと不安があった風香の心に、更に負荷を与えたのだ。
ただでさえ、考えなければいけない事、悲しい事が増え、風香の感情は不安定になっていたのに追い討ちをかけるように今回の事件が起こった。
けれど、今回の事件については風香は一人ではなかった。柊に相談し、支えて貰えるのだ。
こうやって、頭を撫でて気持ちを吐き出せる。そして、受け入れて貰える事がとても幸せだった。
「俺が風香ちゃんを守るよ。だから、安心して欲しい」
「うん………ありがとう、柊さん………」
いつだって、こうやって彼に抱きしめられて安心し、元気を貰ってきた。
それは今でも変わらない。それが嬉しい。
風香は、今だけでもいい。
何もかも忘れて、彼に甘えてしまいたかった。
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