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39話「不変の恋」
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事件が解決し、穏やかな日々が始まると思っていた。けれど、風香には不安な事も苦しみもあった。
風香は美鈴と面会をしたかったけれど、美鈴はそれを拒んでおり会わせて貰えなかったのだ。事件の話したいわけではなく、前のように普通の話しをしたい。そう思っていた。けれど、美鈴はそれを望んでいないのだ。自分が逮捕されるのに協力した人。美鈴は風香の所持している宝石を盗むためにいろいろ作戦を練っていた。そう考えると、彼女が会いたくないと思ってしまうのも仕方がないのかもしれない。そう思ってしまう。
そして、元彼氏である輝は事件には全く関与されていないことがわかった。美鈴が突然会いに来て、「風香の婚約者が酷い奴で、風香が会いたがっている」と話していたそうだ。ゲームばかりしていた輝は金がなかったこともあり、美鈴と付き合い直せば、宝石を売らせてお金にできるかもしれないと考えたという。けれど、何回か家に会いに行ったが全く姿が見えなかったので、ここには住んでいないのだと諦めたという事だった。
そして、風香が属していた組織も自白により少しずつ捕まり始めているようで、柊は「しっかり話してくれているよ。反省のいろも見え始めているから。きっと、会いに行くのには後悔と恥ずかしさがあるから難しいだろう。だから、影から見守っていてあげて」と言われた。
風香はとても悔しかったけれど、加害者の気持ちは柊の方がよくわかっているのだろう。風香が思っている以上に複雑なはずだ。
返事がない連絡を何度もしながら、それで美鈴から何か返事が来た時だけ会いに行こう。
風香はそう決めた。
そして、もう1つ苦しめた事。
それはいよいよ始まった体の異変だった。
「………くっ………」
風香は歯を食い縛り、激痛に悶えながら頭を抱えた。
突然襲ってくる頭痛。風香はそれに怯えていた。
昼間になる事が多く、風香はなかなか仕事が進まないでいた。
「風香、大丈夫?」
「………柊さん………」
昼間にも関わらず、柊は自宅へと戻ってきてくれた。風香が一人の時に頭痛になったら、柊にメッセージすることになっていた。電話するのもメッセージするのを辛いため、SOSというスタンプだけ送信していた。仕事が抜けられない時以外は、こうして風香の元に駆けつけてくれるのだ。
「ごめんなさい………」
「気にしないで。それより、また頭痛酷いのに仕事しようとしてたでしょ?ダメだよ……」
「だって納期が……」
「間に合うよ。大丈夫だから………明日頑張ろう」
そう言って、柊は風香を抱き上げて寝室へとつれていってしまう。
風香は自分自身が情けなくて仕方がなくなってしまう。けれど、柊は「誰もそんな事おもってないさ」と、優しくそう言ってくれるのだ。
「さぁ、寝よう。寝て起きれば治っているんだから」
「うん………柊、ごめんね………」
「ごめんじゃなくて?」
「………ありがとう」
いつも繰り返しているやり取り。
柊の問い掛けに思わず笑みが出た。
「寝るまで一緒にいるから」
「………柊も少し寝て休んで?」
「ダメだよ。勤務中なんだから。夜に帰ってきたら、ね?」
「………うん」
そういうと、風香の横に体を倒してそのまま優しく抱きしめてくれる。
そうされる事で、精神的に安心するからか、風香の頭痛が治まるのだ。不思議な事だけれど、処方された頭痛薬よりも効く。
「………柊………早く帰ってきてね?」
「あぁ……帰ってくるさ。あぁ、そうだ。この症状が無事に終わったら、風香をあるところに連れていきたいんだ」
「え?どこだろう?」
「それは、その時のお楽しみ。ほら、眠くなってきた顔してる」
そう言って、柊は風香の目に触れた。
すでに重くなっていた瞼が温かい彼の指を感じると、自然に閉じてしまう。
寝てしまえば、彼がいなくなってしまうとわかっているので、本当は寝たくなかった。
けれど、体がいうことをきかずに、寝てしまう。その直前に、柊の「おやすみ、いい夢を」と言う柊の声が聞こえ、柊は抗わずに寝ることが出来た。
目を覚ましたら、柊はいないかもしれない。けれど、もう帰ってこない事も、記憶をなくす事もないのだとわかっている。
だからこそ、安心して眠れるのだった。
それから2か月という時間が経った。
その間も、風香は離脱症状の頭痛に襲われる日々が続いた。けれど、柊の協力あり風香は薬に頼ることがほとんどなく、耐えて過ごすことが出来ていた。頭痛に襲われる感覚も長くなっており、医者にも驚かれるほどだった。
この日、2人はいつものように通院すると「ほぼ完治したと言って大丈夫でしょう。また頭痛がきたら、薬を飲んで対応してください。お疲れ様でした。頑張りましたね」と、言われ禁断症状に風香が勝ったと認められたのだった。
風香は嬉しさよりも安堵を感じ、肩を下ろすと、横で「よかった」と、自分よりも笑顔になってる柊が居た。
風香は彼を安心させる事が出来た事が何よりも嬉しかった。
「おめでとう、風香」
「ありがとう………乗り越えられたのは、柊のおかげだよ。柊がいなかったら、私はまだ苦しんでいたと思うわ」
「お役に立てて何よりだよ」
柊は車を走らせながら、とても上機嫌でそう笑っていた。風香は、いつものお菓子の宝箱からキャンディを取り、車酔いを防ごうとした。
その時、柊が家とは違う道へと道を変更した事に気づいた。
「あれ………?柊?どこかに寄るの?」
「前に、完治したら連れていきたいところなあるって言ってただろ?そこだよ」
「あぁ。やっぱりに到着するまで内緒?」
「もちろん」
とても楽しそうに笑う柊に教えてと言おうと思ったが、彼は意外にも頑固なのできっと教えてくれないだろうと思い、風香は大人しく待つことにした。
すると、予想外に早くに車が停車した。
沢山のビルが立ち並ぶ中にひっそりと佇む、1階建ての建物だった。
車を止め、柊が建物に入るが中に誰も折らずドアだけが並んでいた。
「こっちだよ」
そういうと、柊はカードキーを取りだしドアの横にあった機械に通した。すると、「ピピッ」という音の後、鍵が開く音が響いた。柊は迷う様子もなく中に入っていく。風香はこの施設が何なのかわからなかったが、ドアの先の物を見た瞬間にここが何なのか理解した。
そこには、沢山の金庫が並んでいたのだ。
「………ここって貸金庫?」
「そうだよ。そこに入っているもの。もちろん、もうわかっただろう?」
柊はニヤリと笑うと持っていた鍵で、1つの貸金庫の前に止まりドアを開けた。そこには、小さな黒い箱がポツリと収まっていた。
「はい。これ、預かってたもの」
「…………久しぶりだな。会うの………」
そう言ってその箱を受けとると、中からはワイン色のキラキラと輝くネックレスが出てきた。ロードライトガーネット。祖母から貰った、風香の大切な宝物だった。
風香はそのガーネットを柊に預けていたのだ。そして、彼がどうやって持っていたのか知らなかった。
「柊に持っていた貰ってたけど……まさか貸金庫まで借りててくれたなんて」
「愛しいフィアンセの宝物ですから」
「ふふふ………ありがとう」
風香はそう言ってガーネットに触れた。ひんやりとした宝石は、しっかりと手に馴染む。不安になった時は、いつもこのガーネットを持って大好きな祖母の事を思い出していたのだ。
「………おばあちゃん。久しぶりだね。また、時々こうやって触れさせてね」
「持って帰ってもいいんだよ?」
「ううん。今はまだ………大丈夫」
「そうか」
風香の気持ちを察したのか、柊はそれ以上なにも言う事はなかった。
「それ首につけてみて」
「え………いいよ」
「いいから」
そういうと、柊は宝石を取り風香の首にかけてくれる。豪華な宝石が胸元を飾り、風香は気恥ずかしくなる。
「私にはまだこの宝石は似合わないわ」
「そんな事はないさ。結婚式にはこのネックレスを選ぼう。これに、合うドレスを早く見つけないとな」
「………柊………」
柊はそう言うと、風香を引き寄せ、ネックレスのすぐ傍の肌にキスを落とした。それだけで、体がゾワリと震えてしまう。
「結婚式は1度中止になってしまったけど……そろそろ準備をしよう。早く風香のドレス姿が見たい」
「………うん。私も早く柊のお嫁さんになりたいよ」
「じゃあ、まずは結婚指輪を探しにいこう。ガーネットがついた指輪なんてどうだ?」
「うん!それがいい!」
柊の提案に、風香は笑顔で堪える。
すると、彼は穏やかな笑みを浮かべて風香の頬に触れた。
「………二人で幸せな時間を守っていこう」
「うん」
「今度こそ薬になんて頼らない。嘘なんてつかない………必ず幸せにする」
「………ねぇ、柊。メモリーロスは危険立ったかもしれない。けど、あなたを守るためなら、きっとそれは私にとって甘い媚薬になったの」
「………風香?」
「薬を飲んだ事、後悔してないよ。柊がもっともっと好きになれたの。だから………」
「もう、媚薬なんか飲まなくても俺に夢中になって?」
柊は熱を帯びた視線を向け、ゆっくりと風香に顔を、近づけてきた。
風香が頬を染め彼の言葉と視線に釘付けになりながら小さく頷くと、柊はすぐに風香にキスをした。
出会った時から、あなたに夢中になっていたよ。そんな気持ちを込めて、風香は宝石と共に柊を強く強く抱きしめた。
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