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2話「四季の庭」
しおりを挟む2話「四季の庭」
元幼馴染みの突然の誘いに、響は唖然としつつ動揺してしまっていた。
一緒に仕事とはどういう事なのか?久しぶりに合い、何故誘われるのか?不思議に思いながらも、響はまた彼は激しく睨み付けた。
「何言ってるの?私が千絃と仕事するはずないじゃない!」
「でも、おまえ無職なんだろ?」
「無職でもあなたはと一緒はイヤッ!」
響は強く腕を揺すり、彼の手から離れた。
そうしないと、千絃の熱い手にずっと触れられているとどうにかなってしまいそうな気がしたのだ。
「………おまえ、まだ昔の約束なんて気にしてんのか?あんな約束、意味ないだろ……」
「……………」
あの日の彼の手のひらは今より暖かく心地よかった。今よりも小さい手のはずなのに、自分を包んでくれるような気がしたのだ。
大切にしていた約束。
それなのに、その相手は「意味がない」と約束を破るのだ。昔も、今も。
「…………あなたなんか嫌いよ」
「あぁ、そうかよ」
そう言うと、千絃は興味がなさそうに頭に手をやり前髪をあげた。
太陽の日差しをうけてキラキラと光る千絃の髪はさらに茶色が鮮やかになりとても綺麗だった。地毛だというその髪は、真っ黒な髪の響にとっては憧れでしかなかった。
早く彼から離れなければいけない。そう思っているのに、千絃から目が離せないのだ。
そんな響の視線に気がついたのか、千絃はこちらを見てバチリと視線が合うと、ニヤリと微笑んだ。
その瞬間に響は胸は高鳴り、そして体が熱くなるのがわかった。
「……っっ…………」
「明日の10時に、またここに来い」
「え?な、何を勝手に決めてるの?私はあなたと仕事なんて………!」
「じゃあな、ひび」
そう言うと、千絃は優雅に右手を挙げて去っていってしまう。
「あなたに会いになんて行かないわよ!待ってても無駄なんだから………っていうか、その呼び方止めてよっ!」
彼の背中に向けて抗議の声を上げるが、それに挙げた手をヒラヒラと振って返すだけで、千絃はさっさといなくなってしまった。
あっという間の出来事だった。
望まない再会の時間はあっという間で、彼は嵐のように響に爪痕を残していった。
再会の話しだけではなく強引に予定を取り付けてきた。
響は夢であったかのように思えるほどに冷静を装っていたものの、心の中は荒れていた。
「今さら何言ってるのよ………」
響は、顔をしかめて今はいない千絃の残像を睨んだ。けれど、それはただただ自分が悲しくなるだけだった。
「行くはずないじゃない………」
そう小さな声で呟きながら、響はまた桜の木を見上げた。
先程、あんな事を思ってしまっていたから、再会してしまったのだろうか。
「あなたのせいで会ってしまったじゃない」
新緑の桜に向けて苦笑しながらそう声を掛ける。けれど、桜はサワサワと風で揺れるだけだった。
目覚ましをかけずに寝てしまえば、待ち合わせに遅刻して会わずにすむ。
そう思って寝たはずだった。
だが、習慣というのはすごいもので、いつもの時間に目を覚ましてしまった。朝早い、まだ静かな時間。響はため息をついてベットから起き上がった。
昨日双虹に会ってしまい再度誘われてしまった。まだ返事の答えが出ていないので、会いづらくなってしまった。
そのため、このアパートの中庭を借りようと決めた。
このアパートは3階建てで少し古い作りになっているが、煉瓦模様の味のある建物だった。一つ一つの部屋が広く、住民も少ない。そして、コの字型に建てられマンションの中央にはちょっとした中庭があった。管理人が植物が好きなようで、四季折々に花が咲く木々や草花が育てられていた。
だが、それを見る人はあまり居ない。きっと管理人と響ぐらいだろう。響はこの中庭を見ると離れた実家を思い出すのだ。実家のものよりは小さいけれど、雰囲気が似ている。
春は桜や木蓮、梅雨は紫陽花。夏は向日葵や朝顔、秋は金木犀、冬は牡丹。四季それぞれに楽しめる植物が植えられているのだ。
今は、あの公園と同じように小振りの桜の木は緑に染まっていた。それを見ると、響は心が乱れてしまう。
響は頬を手でパンパンッと叩き、気合いを入れる。
そして、一心不乱に竹刀を振った。
静かな庭に、自分の足音と、振り下ろす際に竹刀が震える音が響く。
いつもならば剣の事だけを考えたり、無心なのだが、今日は違った。
頭の中では、昨日の千絃の事が浮かんでくる。
どうして街中で自分を見つけられたのか。そして追いかけてまで仕事に誘ってくれるのは何故?考えると、胸がドキッと高鳴る。
けれど、遠い記憶が頭を過ると、その興奮は一気に冷めたものになるのだ。
その度に響は肩や手に力が入ってしまう。それではダメだと思いつつも竹刀を振ることを止める事は出来なかった。なにもしていないと、考えてしまうから。
「今日はどうしたの?怖い顔をして」
「っっ!!和歌さん………びっくりした……」
響に声を掛けたのは、部屋の窓を開けて腕を窓辺に置き頬杖をついていた和歌だった。響より年上で長い黒髪はぼさついており、何か紐で縛っている。趣味なのか和装を身に付けており、それが妙に似合う男性だった。和歌という名前だが、彼は男。和歌は小説家であり、「偽名だよ」と笑って教えてくれた。
驚きすぎて、竹刀を落としそうになった響は彼に向かって「急に声を掛けないで下さい!」と抗議の声を上げるが、彼は「ごめんごめん」と笑って謝るだけだった。
「剣道の選手、引退したんだろう?なんで、また竹刀振って鍛えてるの?」
「……体を動かしていないと、変な気分になるので」
「へー。僕は体動かした方がへとへとになって気持ち悪くなるけどね」
「和歌さんは運動不足すぎるんですよ」
響が苦笑しながら言うと「運動は嫌いなんだよ」と、顔をしかめながら和歌は言った。
その後、響の顔をジッと見つめてきたので、響はドキッとしてしまう。和歌の顔は少し色が白すぎる所があるが、それ以外は整ったもので、長い睫毛や形の綺麗な唇はとても大人っぽさがあるものだった。そんな和歌に見つめられると、緊張してしまう。
響は彼に気づかれないように平然を装いながら、「和歌さん?」と声を掛ける。
すると、彼が一言、言葉を発した。
「何かいい事あった?」
「え………」
「明るい雰囲気を感じたんだけど」
彼は妙に勘が鋭い事が多い。けれど、今回は外れだ。響は「はずれです」と返事をした。
「むしろ、イヤな事がありました」
「あら、外れてしまったか。でも、今日は僕に、会えたんだ。いい日なっただろう」
「………そうですね」
自信たっぷりの言葉に、響はわざと感情のないのまま返事をした。
「新しい仕事はゆっくり決めるといいよ。家賃なんて払わなければいいんだ」
「管理人さんがそんな事を言ってはダメですよ」
そう。彼は小説家兼このアパートの管理人だもあった。けれど、かなりいい加減なようで、家賃を滞納しても起こらずに「しょうがないね。今月はだけだよ」と言ってただにしてくれる時があるようだ。もちろん、響はしっかりも払っていたが、隣の学生さんはよく助けてもらっているようだった。
そんな不思議が多い和歌は、にっこりと笑い響を見た。
「僕は君の剣のファンだからね。また、何か違った形で見たいものだ。まぁ、こうやって近くで一人占め出来るから今は幸せだけれどね」
「竹刀を振っているのを見て喜ぶのは和歌さんぐらいですよ」
「焦らずゆっくり決めるといい」
そう言うと、和歌は満足したのか古い窓をギギギッと閉めた。閉め終わる直前に彼は小さく手を振ったので、響も小さく頭を下げる。
「ゆっくり決めたいのだけれど………彼はせっかちなのよね」
昨日の強引に勧誘してきたら千絃を思い出して、響はまた大きくため息をついた。
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