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11話「甘え上手」
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ゲームセンターからの帰り道。
周はすっかり元気になっていた。吹雪が取ったぬいぐるみを持って、ウキウキと歩いている。このゲームはどんなゲームなのか、このキャラクターはどんなキャラなのか。楽しそうに話していた。
「吹雪さんもやってみよう?俺がやり方教えるから」
「んー………そうだね。でも、ゲームなんてほとんどやった事ないから出来るかなぁ」
「楽しいから、やりましょー?一緒にやりたいなー」
「………じゃあ、やり方教えてね」
「もちろん!やったー」
彼の甘える顔には弱い吹雪は彼のお願いをついつい聞いてあげる。けれど、周のお願いはいつも些細な事だ。そんな事で彼が喜んでくれるなら、笑顔を自分に見せてくれるなら、と吹雪は思ってしまう。
繋いだ手をブンブンッと揺らし、嬉しそうに歩く周を見て、吹雪も自然と笑顔になる。
周はまだホストでいい結果が残せていないのかもしれない。だから、吹雪が聞いてしまった時に言いにくそうにしていたのだろう。吹雪はそう感じたので、しばらくは彼にホストの仕事については聞くのを止めようと思った。
きっといい結果が出たら、教えてくれるはずなので、周が話してくれるまで待とうと決めた。
「ねぇ、周く…………」
「吹雪っ!!」
彼の名前を呼んで、そのゲームの話を聞こうと思った時だった。吹雪の後ろから、自分を呼ぶ声がした。
その声はとても懐かしく、そして耳に入るだけで体が固まってしまうほどの力を持つ。吹雪にとって特別な声の持ち主だった。
恐る恐る振り向くと、そこには爽やかな笑顔を見せてこちらに駆け寄ってくる男性が居た。サラサラの黒髪に、柔和な雰囲気の容姿、ほどよく鍛えられた体と、長い脚。どこから見ても紳士的な雰囲気の大人の男性だった。
けれど、吹雪はその笑顔がとても怖くて仕方がない。
「………星くん」
「すれ違った時に気づいたんだ。偶然だなー。元気だったか?」
「う、うん。星くんも元気そうだね。………あの、私、急いでるから」
「なんだよ。久しぶりに幼馴染みに会ったのに!少しぐらいいいだろ?………そっちの彼は?友達………ではない、よな」
吹雪が手を繋いでいる周をジロジロと見つめていた。周も突然の事で驚きながらも、頭を下げて「初めまして」と挨拶をしてくれている。
けれど、吹雪はその場から逃げたくて仕方がなかった。どうしていいのかわからずに、周にすがるように繋いだ手を強く握りしめてしまう。だが、周を巻き込むわけにはいかずに、パッと手を離して、声を掛けてきた相手を見据えた。
「あの、周くん………。こちら、私の幼馴染みの桜堂星(さくらどう せい)さん。そして、右京周くん」
そう言うと、星は「どうも」と挨拶をした。 そして、星は周をジロリと一瞥した後に、ニッコリと笑った。
「今度は年下の男を捕まえたんだ。まぁ、何だか学生みたいはお子さまだし、おまえの本当の価値なんかわからない奴だろうから、吹雪も傷つかないだろうな」
「…………っっ………」
「よかったな、右京周くん、だったかな?こいつに目をつけるなんてお目が高いよ。でも、面倒くさい女だから、付き合う前なら止めておくのをおすすめするよ」
星の言葉に、吹雪はカッとなり頭が真っ白になる。それと共に羞恥心からか顔が真っ赤になり、瞳にも涙が溜まってくるのがわかった。
「……………ごめんなさい。周くん、行こう……」
星から逃げるように、頭を下げて去ろうとした。けれど、周は頑なに動こうとしないため、吹雪は戸惑ってしまう。すると、周は吹雪を背に隠すように星の前に立った。
「俺は吹雪さんの恋人です。幼馴染みだか何だか知らないけど、吹雪さんが嫌だってるので、今は帰って貰えますか?」
「あ、周くん?!」
「へー………やっぱり彼氏だったんだ。幼馴染みだから仲良くしてただけで、こいつみたいな暗い奴はお断りだからいいけど」
「………だったら何で声掛けてきたんですか?」
「おまえに忠告してやるためだよ。めんどくさい女だって」
「………そうですか。では、もう話しは終わりですよね。失礼します。………いこう、吹雪さん」
「う、うん………」
吹雪は戸惑いながら、周が歩き出した後ろについていく。後ろを振り向くと、ニヤニヤと笑みを浮かべながら吹雪達を見つめる星と目が合ってしまう。ハッとして、すぐに前を向くけれど、しばらくの間、星の表情と言葉が頭から離れなかった。
「………吹雪さん、」
「…………」
「吹雪さん?」
「え、あ………周くん……」
無心のまま歩いていたようで、すっかり辺りは夜になり、気づくと吹雪の家の最寄り駅まで来ていた。
「恋人なんて言ってごめん」
「いいの、気にしないで。それに助けてくれたんだから。私がお礼を言わなきゃいけないぐらいだよ。………ありがとう、周くん」
「………幼馴染みさんに会ってから、ボーッとしてるね。あんな事言われたんだ……仕方がないよね」
「ごめんね………私のせいでこんな風になっちゃって………」
「吹雪さんのせいじゃないよ。………家まで送ってくよ。確か、駅から近いんだよね?」
「うん………ありがとう」
周の好意に甘えて、吹雪は彼と一緒に夜道を歩いた。すると、途中でポツリポツリと雨が降りだした。
「あ………雨………」
「吹雪さん、風邪引いちゃうね。急ごう」
「うん、あの見えてきた茶色の煉瓦模様のマンションだよ」
「わかった。そこまで走ろう!!」
そう言うと、周は吹雪の手を繋いだまま走り出した。彼に引っ張られるようにして走る。けれど、周は吹雪が無理ない程度のスピードで走ってくれる。
雨のせいで、彼との時間が短くなってしまうのは嫌だったけれど、涙は隠せるので吹雪は安心した。我慢していた涙は、雨水と共に頬を伝って落ちていく。それと一緒に悲しみさえもなくなればいいのに、と吹雪は思った。
マンションのエントランスに着く頃には、雨足は強まってしまい、2人は見事にびしょ濡れになってしまった。
「吹雪さん、大丈夫?女の子なのに……濡れちゃったね」
「私は大丈夫だよ。風邪ひきにくいし」
「ダメだよ、油断しちゃ。家に帰ったらちゃんと温かいお風呂に入ってね」
「………うん」
「じゃあ、俺は帰るね。タクシーに乗れれば大丈夫だから」
そう言って、おでこや頬についた髪を拭いながら、ニッコリと笑ってこちらに手を振る周。ずぶ濡れのまま帰ったら彼こそ風邪をひいてしまう。それにこんな急な天気でタクシーも捕まらないだろう。
そんな事は言い訳だと思いながらも、吹雪は咄嗟に手を伸ばし周のジャケットの裾を掴んだ。
「…………待って!」
「え………吹雪さん?」
「その………風邪ひいちゃうから。私の部屋に寄っていって………」
自分から誘っておきながら、どんどん声が消えそうなぐらい、小さくなってまう。
恥ずかしさで、彼の顔を見る事など出来ず、ただただ濡れた手で彼のジャケットをつかんでいる事しか出来ないのがたまらなく悔しい。
「まだ、帰らないで」なんて、可愛らしい言葉を言えるはずもなかった。
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