アラサー女子は甘い言葉に騙されたい

蝶野ともえ

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15話「強引な添い寝」

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   15話「強引な添い寝」





   ☆☆☆



 そこまで話し終えると、吹雪はふーっと大きく息をついた。
 過去の話しのはずなのに、やはり思い出すだけで辛い気持ちになる。今まで引きずってきたのだから尚更だ。
 吹雪は、息を吐いた事で少しだけ落ち着きを取り戻すと、隣りで静かに話を聞いてくれていた周の方を見た。


 「ごめんね………楽しい話じゃないのに、聞いてくれてありがとう。………周くんに聞いてもらえて本当によかったよ」
 「…………」
 「あの………周くん?」


 周は何故かボーッとしたまま何かを考えるように前を向いたまま固まってしまっていた。
 吹雪は、彼の反応がないのが不安になってしまい、思わず彼の腕に触れながら周の名前を呼んだ。
 すると、周はこちらに視線を向けて、そのまま彼の腕の上にあった手を自分の手で包み、そのまま、また優しく抱きしめてくれる。
 また、彼のぬくもりが吹雪を支配する。何とも心地のよい瞬間だった。


 「………吹雪さん、話してくれて、ありがとう」
 「うん………」
 「俺が、俺は吹雪さんを傷つけたりしないよ………だから、信じて欲しい……」


 その言葉は吹雪を安心させようと言ったものだったかもしれない。けれど、吹雪には何故か周自身が強く言い聞かせているような、決意の言葉に聞こえた。
 けれど、吹雪にとってそれはどうでもいい事だった。周が自分の事をそうやって大切に思ってくれる事が嬉しかったのだ。
 出会い方は少し変わっていただったかもしれない。そして、関係も特殊かもしれない。こうやって傍に居てくれるだけで安心出来る、抱きしめてもらいたいと思える人に出会えたのだ。吹雪は、過去の思い出よりもその思いが今大きくなっていた。

 そのはずなのに、目に涙が溜まるのは何故だろうか。
 今、泣くのはダメだ、そう思っているのに、周は吹雪の頭に触れ髪をとかすように優しく撫でて始めた。


 「………俺、見てないよ」



 周の言葉は一つ一つが思いやりに満ちている。
 自分が泣きそうになっている事。
 そして、泣いてもいいよと言われている事。

 この人の前ならば涙を我慢しなくていいんだ。

 そう思った瞬間に、吹雪の今までの緊張の糸がプツンッと切れる音がした。途端に涙がこぼれる。次から次へと涙がこぼれ落ち、肩を震えてくる。涙が出ると何故が呼吸が苦しくなり、声もあふれてくる。そうなってしまうと、止められない。周の胸の中で、自分が使っている柔軟剤と彼の香りが混ざった少しくすぐったい香りを感じながら、吹雪は今まで我慢していた感情を爆発させたのだった。

 星の行動により、吹雪は人を、特に男性を信じるのが怖くなった。それでも、一人は寂しかったし、恋人に憧れていたので、好きな人が出来れば歩み寄ろうとしていた。けれど、その度に星の言葉が頭を過った。伸ばしてかけていた手を止め、開きかけた口を閉じた事は何度もあった。
 そして、家族の地位の恩恵を預かろうと寄ってくる人たちも多かった。そんな人から逃げていく自分も切なくて仕方がなかった。

 
 どうして?
 なんで?


 吹雪は、そんな感情を涙と嗚咽に変えて、その夜は泣き続けたのだった。










 どれぐらい泣いていたのだろうか。
 吹雪は泣きつかれたのか、そのままうとうとしてしまっていた。

 ハッと気づいたときには、彼の胸の中で目を真っ赤に腫らしながら少しだけ寝てしまっていたのだ。


 「…………っ………ぁ………」
 「あ、吹雪さん、起きた?」
 「周くんっっ…………ごめんなさい!いつの間にか寝てしまうなんて………」


 吹雪は咄嗟に彼から体を離して、乱れた髪を直したり、目を擦ったりしながら彼に頭を下げた。けれど、泣き晴らした後の顔を彼に見られるわけにはいかずに、吹雪は俯いたままだった。


 「いいよ。俺が泣かしたって事だから、最後まで慰めなきゃね」
 「…………あんなに泣いちゃうなんて、恥ずかしいな………。私、年上なのにな」
 「年上でも年下でも泣くときは泣くよ。でも、あんなに泣いちゃうなんて、本当に溜め込んでたんだね。吹雪さん、もう、大丈夫?」
 「う、うん………大丈夫だよ」


 顔を覗き込んでくる周に、吹雪はすぐに顔を逸らして返事をする。けれど、周は納得していないようだった。


 「目、こんなに腫らしてる」
 「ん………」
 「心配だな………こんな吹雪さんを一人にするの」


 そう言って、瞳に触れる彼の手を少し冷たく気持ちよかった。
 彼の手に触れられた目は自然と閉じてしまう。
 すると、突然体が浮いた。


 「えっ………ちょっと、周くんっ!?」
 「決めた」
 「お、降ろしてよ、周くん………!!」


 突然、周は吹雪の事を抱き上げたのだ。
 驚いた吹雪は彼にしがみつき、彼の顔を見上げた。すると、吹雪は笑顔で吹雪を見つめた。


 「悲しい時は寝るのが1番!でも、吹雪さんを1人には出来ないから、俺が一緒に寝るよ」
 「ね、寝るって………もしかして、泊まるの?!」
 「うん。でも、大丈夫。よしよしとか抱きしめるだけで、何もしないから。はい、寝てねてー!」
 「ちょっと、周くん!?」


 隣の部屋の寝室のドアを開けて、ヅカヅカと歩き始めた周は、そのままベットに近づいて吹雪をベットに下ろした。
 そして、驚く吹雪をよそに自分も同じベットに横になり、そして吹雪の手を握りしめた。


 「俺が隣にいるから。安心して寝てね」
 「あ、安心って突然そんなことを言われても………」
 「おしゃべりはおしまい!おやすみなさい」


 そういうと、隣の部屋の明かりがうっすらと見える薄暗い部屋で、周が目を閉じた。
 本当に泊まっていくようだ。
 吹雪は戸惑い、焦りながら彼の顔をジッと見つめた。けれど、彼は目を開ける事もなく本当に寝てしまうようだった。


 突然の事に驚き、どうしていいのかわからない。
 けれど、一人になりたくない。周の傍にいたい。その気持ちは確かなものだった。
 恋人でもない彼と一緒に眠る事が本当にいいことなのかはわからない。

 けれど、手を繋いで横になる事がとても安心するのだと吹雪は初めて知ることが出来た。

 一人じゃない。
 好きな人が居てくれる。
 それだけで、もう涙は出てこなくなったのだ。


 吹雪はもう何も考えずに、周が与えてくれたこの幸せな時間に甘えよう。
 そう思うと、すぐにまた瞼が重くなっていき、あっという間にまた眠りについたのだった。


 きっと、今日の夢には彼が出てくるのだろう。そう、吹雪は確信していた。



 
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