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エピローグ
しおりを挟むエピローグ
周と付き合い始めてから1ヶ月が過ぎた。
周はホストのバイトを辞めた。
そもそも、ホストのバイトは吹雪の家に酔っぱらったまま訪れた時のみだったらしく、その時が体験入店だったようだ。吹雪に開催したギャラリーを見に来て欲しいという夢も叶ったので、続ける意味はないと周は話していた。それにホストを続けるとなると、吹雪も不安になってしまうので、それには賛成だった。
この日は、吹雪の家に周が訪れる予定になっていた。
周は学生だったけれど、自分の作った食器などを店に委託したり、教授の工房で販売していた。そのため全く収入がないわけでもなかったが、それでも家賃や学費を払えないと、陶芸教室のバイトや居酒屋バイトもしていたようだった。そのため、なかなか合う時間が取れなかったけれど、あ互いに時間を見つけては会うようにしていた。
会いたいからこそ、時間を作る。そう言った方がいいのかもしれない。
ピンポーンッ、と呼び鈴がなり、吹雪は慌てて玄関に向かった。
「こんばんは、吹雪さん」
「お疲れ様、周くん。どうぞ、いらっしゃい」
「お邪魔します………というか、ただいま、かな?」
「ふふふ。おかえりなさい」
周の返事に合わせて言葉を帰すと、周は嬉しそうに笑ってくれていた。
「夕御飯出来てるけど……まかない食べてきた?」
「少し………でも、吹雪さんのご飯食べたいな」
「じゃあ、少しずつ準備するね」
「ありがとー」
周はそう言うと、部屋に入ってリビングに向かった。吹雪の部屋に来るのも随分慣れてくれているようで、緊張した様子は見られない。吹雪と言えば、まだ自分の部屋に彼が居る事が不思議な気持ちに思えていた。
「吹雪さん、お腹空いてる?」
「え?………別に何か食べたいわけではいけど……どうしたの?」
「あのさ……今日はどうしても吹雪さんのおうちでご飯食べたかったんだよね」
「ご飯?」
彼が言う事の意味が理解出来ず、吹雪は首をかしげて彼の方を見る。すると、周はニコニコしながら持っていた紙袋を吹雪に手渡した。
「これ、吹雪さんにプレゼント。まぁ、俺も使うものだけど」
「え……ありがとう。何だろう………」
突然のプレゼントに驚きながら、吹雪は紙袋を受け取り、中身を取り出す。厚紙で出来た箱が入っており、吹雪はそれを丁寧に開封した。
「わぁ………これ、周くんが作ったお茶碗?」
そこには、彼がよく作っている青い陶器のお茶碗が入っていた。手に取ると、とても持ちやすく手に馴染むのがわかった。そして、鮮やかな蒼が吹雪を魅了した。
「やっぱり綺麗な色………周くんの作る食器はすごいね」
「ありがとう。……でも、吹雪さん、まだ箱にまだあるよ」
「え…………あ、もう1つある」
そこには、先ほどのものより少し大きめで、蒼色も濃いめの茶碗が入っていた。
「これって………」
「夫婦茶碗だよ」
「………夫婦………」
その言葉に吹雪は思わずドキッとしてしまう。恋人になったのならば、未来を想像してしまうもの。彼との少し先の事を考えないはずもなかった。
彼がくれた茶碗はお揃いで使おうと思って準備してくれたのはわかっている。けれど、その意味を考えてしまうのは恋人として仕方がない事だろう。
「試作品なんですけど、これを発売しようと思ってて。お揃いの食器でご飯食べたかったんだ!だから、吹雪さんも少しでいいからご飯食べましょう?」
「そうだね。じゃあ、準備するね」
付き合い始めたばかりなのだ。
そんなに早く結婚の話しが出るとは吹雪も思ってはいない。それに、彼はまだ学生で若い。それも理解している。
けれど、少しだけ残念に思ってしまったのは彼には内緒にしよう。そう思い、周から貰った茶碗を持ってキッチンに向かおうとする。
「待って!」
「うん?どうしたの?」
立ち上がろうとした吹雪を呼び止めたかと思うと、周は吹雪を正面から抱きしめた。
吹雪は驚き「ど、どうしたの?食器持ってるから危ないよ?」と返事すると、周はいつもの笑みではなく男らしい真剣な表情でこちらを向いていた。
「俺が社会人になったらプロポーズしますから。この茶碗は予約だから」
「周くん………」
「まだ、恋人かもしれないけど、早く俺のお嫁さんになって欲しいって思ってるから」
「………そんなの反則だよ………」
「あれ?吹雪さんは違うの?」
ニヤリとした表情で真っ赤になった吹雪の顔を覗き込む周。吹雪の気持ちなど、とうにお見通しなのだろう。少し悔しさを感じつつも、その気持ちを隠せるはずも、誤魔化すつもりもなく、吹雪は「同じだよ」と答えた。
「周くんと同じ。周くんが大好きだよ」
「よかった。俺も愛してる」
周は、吹雪の頬に優しく触れるとそのままキスを落とす。
今はこうやって部屋の中が、彼の作った青の陶器で溢れるのを楽しみにしていこう。
もう彼の甘い台詞などはいらないのだ。
素直な気持ちと彼の大切な陶器を、いつまでも大事にしていこう。
吹雪はそう思い、彼にもう一度キスを求めた。
(おしまい)
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