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11話「悩みとアドバイス」
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スランプに陥っている白の元に、更に彼を悩ませる原因が舞い込んできた。
それは1通の電話からだった。
「ゲーム雑誌の取材ですか?」
それは、『フェアリーワールドストーリズ』の担当者からだった。
キャラクターデザインの話かと思い少し重い気持ちで通話ボタンを押したので、少しホッとしてしまう。
『そうなんです。フェアリーワールドストーリズの新キャラが登場するという事で、私たちもいろんな媒体で紹介していくつもりなんです。そこで、さつき先生もインタビューをお願いしたくて。インタビュー自体は、キャラクターが完成してからになるんですが。』
「なるほど………。どういった内容になりますか?」
白は、前向きに検討しようと詳しく話を聞こうと思った。普段は、子育て中の親のための雑誌やネット情報サイト、本関連の雑誌などが多く、ゲーム系は初めてだった。
きっとキャラクターを産み出した時のエピソードなどだろうと思った。それぐらいならば、断る理由はないと思ったのだ。声を掛けてもらった仕事はなるべく受けたい、それが白の考えだった。
『もちろん、デザインしていたキャラクターの話とかこだわりとかですね。後、さつき先生がどうして妖精が好きなのかとか、ですかね。』
「そうですか。では………。」
『あと、学生の時に絵本王子と呼ばれていたという事も話してもらえれば。インタビューでは写真もお願いしたいと思っていて。』
「…………写真ですか………。」
受けようと思っていた気持ちが、その言葉で一転した。呼び名については、絶対に話してもらいたくないが、写真が更に難点だった。
「すみません。今までも顔出しはNGにさせてもらったんです。顔なしでしたら写真は可能ですが………。」
『そうなんですか!?それは勿体ないっ!きっと写真を見てファンになってくれる人も増えるだろうなってぐらいイケメンなのに。』
「………そんな事は。」
『インタビューはまだ先なので、少し考えて見てください。では、デザインの方と一緒に、よろしくお願いします。』
「え、ちょっ…………切れてる。」
担当の男は強引に自分の希望を押しつけたままブチッと通話を切ってしまう。
白は小さく息を吐いて、スマホを作業机に置いた。
「写真か………。それだけは、なるべく避けたいな。……どうやって断るか………。はぁー、また、厄介な事が増えちゃったな。」
髪をくしゃくしゃにかきながら、白は作業台にある時計を見つめた。もう少しで正午になるという時間帯。今日は、平日なのでしずくは仕事中だな、と白は思った。
1度連絡をしなくなってから、何となく気まずくなり、その後から彼女に電話もメッセージも送っていなかった。しずくも行事で忙しいのだろう、彼女からの連絡もなかった。それだけで、彼女との繋がりがなくなったわけでもないのに、白は妙に寂しくなってしまっていた。
それでも、自分から連絡する事も出来なかった。今会っても、仕事の事が頭にあり、彼女と共に笑える自信がなかった。
「はぁー………行きたくないけど、行くしかないかな。」
作業がはかどらなく、どうしていいのかわからなかった。煮詰まる事など何度もあったが、ここまで酷いのは初めてで、白自身もどうしていいのかわからなかった。
そのため、白は今日は家で作業はせずに、ある所に向かおうと思っていた。
気は進まないが、白は外出の準備をし、車を走らせたのだった。
「それで、僕の所に来たんだねー。」
「………本当には来たくなかったですが。」
「相変わらず、つれないなー!白くんは。」
白の恩師であり大学教授のキタシタイチは、大きく口を開けて豪快に笑った。それを見て、白ははぁーとため息をついた。
この日、白が訪れたのは卒業した母校だった。その大学でお世話になった教授であり有名絵本作家のキタシタイチの研究室に来ていた。
相変わらず、物が散乱している部屋だった。白に出されたコーヒーは、いつもと同じようにテーブルの上に重なった紙類の山の上に置かれていた。
「さすが、白先輩!すごいです!」
「どんなゲームだろう。楽しみです!」
そして、たまたま研修室に居た白の後輩である心花と青葉も話に混ざっている。白がキノシタイチに話しをしている所に勝手に飲み物を出してきて、ソファに座り混ざり始めたのだが、2人が1番盛り上がっていた。
『フェアリーワールドストーリズ』の担当者から白がキャラクターデザインをする事になったのを、バラさないよう口止めされていた。ただ、白が1人だけ伝えたい人がいる話すと絶対に口外しない事を条件に、教えていいと言われたのだ。もちろん、伝えたい人とはしずくだ。
そのため、ここに居る3人にも、どの、ゲームかは伝えてはいなかった。
それでも、後輩の2人が喜んでくれるのは、素直に嬉しかった。
「君がスランプなんて、珍しいね。難しい題材なのかな?」
「いえ……初めての系統の仕事なので、まだ試行錯誤してる状態なのかなって思ってます。クライアントが自分にどんな絵を求めているのか掴めなくて。描いても描いても、全部ダメみたいで………。」
「白先輩…………。」
心花は、心配そうに白の話を聞いていた。白はそれを見て苦笑しながらも、「大丈夫だ。」と、心花に言った。彼女は「……はい。」と、ちいさな声で言うだけで、安心はしていないようだ。
同じクリエーターとして、良いものを産み出せない時の苦しみを知っているからこそ、気持ちをわかってくれるのだろう。
「キノシタ先生は、スランプの時どうしますか?」
今日、この場所に来たのは、その話を聞きたかったからだ。同じ絵本作家として、そして白の恩師として体験談を聞きたかったのだ。
その人その人で脱し方は違うはずだが、どんな事でも試したいという、藁にも縋る思いだった。
3人の視線が自然とキノシタの方へ向く。
すると、キノシタは腕を組んで、「うーん……。」と考えるような仕草を見せた。そして、申し訳なさそうに、白を見て言った。
「僕はスランプとかあんまり経験したことなくてねー。いつでもいい案が浮かんでくるからさ。」
「……………。」
「教授、最低です。」
「………だから、教授はモテないんですよ。」
「みんな冷たいなー!それに、僕はモテてますから。」
「はいはい。子どもにですよね。」
「だから、違うって!」
教え子達からの冷めた目線に、キノシタは焦った様子で弁解は始めた。
「僕は絵本作家の仕事が多いから、結構自由に仕事ができてるからね。まぁ、それでもストーリーとかに悩んだり、思い通りに描けないときもあったよ。」
「そういう時は、どんな風に乗り切ってたんですか?」
「単純だよ。失敗しても、描いて描いて描いて………描きまくる。それでもダメなら、諦めるっ!」
「えぇ!?諦めちゃうんですか?」
真剣に聞いていた青葉が驚きの声を上げた。心花も同じ気持ちだったのが、目と口が大きく開いて唖然としていた。
「そう。心に余裕がないと、何事も上手くいかない。白くん、少し休んでみたらどうだ?………彼女にも会う時間が必要だよ。」
「………わかってます。けど、そんな余裕もないんです。インタビューの事も考えなきゃいけないですし……。」
「インタビュー?」
つい愚痴ようになってしまい、インタビューの事を口を滑らせてしまった。けれど、こちらに関しても口止めはされていないものだ。
インタビューを受けるか受けないか迷っている事も簡単に3人に説明をした。
すると、反応は三者三様だった。
「なんだ、受ければいいじゃないか!」
「それは迷いますね……。」
「えー……これ以上先輩が人気になったら寂しいですー!」
「……………。」
その反応の違いに、何も答えられずにいた。
すると、すぐに話し始めたのは後輩2人だった。
「教授ー!何で、顔出し賛成なんですかー?」
「そうですよ!顔出したら、知らないところでも誰かに見られちゃうんですよ!?女の子とイチャイチャだって出来ないじゃないですかー!」
「…………青葉くんはそこが重要なんだね。」
「そうじゃないですか!!」
後輩が盛り上がっているのを、教授はニコやかに見つめていた。だが、白はキノシタを見ていた。すると、その視線に気づいたキノシタが白を見た。それは、いつもと同じ穏やかな表情だった。
「この仕事は知られないと意味がない。まずは、何でもいいから自分の作品を知ってもらう必要がある。………そのためには、何でもやって見る事がいいだろう。君が受けたキャラクターデザインもそうだ。そこから、君の絵が気になって作品を知る人も増えるだろうね。」
「…………はい。」
「インタビューも同じだよ。君は容姿端麗だ。きっと、その作品の女性ファンが増えるだろうね。かっこいい、素敵……この人は何をやってる人なんだろうか。そうやって、作品を知ってもらえるのも、1つのきっかけだよ。」
「それはわかってるつもりなんですけど………。」
「顔で騒がれるのは苦手かい?」
「………そうですね。」
キノシタが話している事は最もな事だ。
クリエーターは有名になり、知ってもらい人気にならなければ仕事が来ない。本来ならば、どんな手でも宣伝する必要がある。もちろん、ひっそりとやりたい人もいるだろうが、それで暮らしていけるのは、よっぽどの人ではないと無理だ。
そうなれば、白は容姿を売りにしてでも、自分をアピールした方がいいのだ。
一般的に好まれる容姿に生まれた白は、恵まれている方なのかもしれない。けれど、普段から周りに騒がれるのが好きではない白にとっては、これ以上になると生活に支障が出るのではないかと不安になってた。
1度のインタビューで、そこまで売れるとはもちろん思っていない。けれど、有名ゲーム、そして有名なゲーム雑誌に出てしまえば、ネットでも拡散され、いろいろな所で顔が公開される事になるだろう。
百歩譲って、白自身はいいとして、しずくに迷惑はかからないだろうか。一緒に歩いていて嫌な思いをさせないか。それが心配だった。
考え込む白を見て、キノシタは苦い顔をしてまた話し掛けた。
「いろいろな考え方がある。君の思いもわかる。けれど………私はいいチャンスだと思う。君がこれかは活躍するには、少しぐらい挑戦してみてもいいんじゃないかな。」
「…………。」
「大切な恋人にも相談してみてもいいと思うぞ。まぁ……悩め、青年っっ!!」
そう言って最後は、大きく笑いながら白の背中をバシバシッと叩いた。
そんな痛い励ましを受けながらも、キノシタの気持ちはよく伝わっていた。
ふざけたり、からかってくる事が多い恩師だったけれど、いつも大切な事を教えてくれる。白にとっては大切な人だ。
売れるために生活を犠牲にするのか。
それとも、平穏な生活を優先するのか。
白は、また悩む日々が続くことになるのだった。
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