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価値は、知らない
しおりを挟むキングさんには苗字がある。即ち貴族様なんだけど、服装からして完璧に平民だ。けどどうしてとは聞かない。聞いてどうこう出来る程僕は有能でも冒険者でも無いし、面倒事は避けるに限るのだ。
「私、名前を聞いたの。苗字で呼んだら余計に面倒よ?」
「そ、そうね…レイ…レイで良いわ」
「よろしくねレイ」「同じくよろしく」
「よろしく頼むわね」
「よろしくするのは良いけど、貴女お金はあるのよね?」
「それは勿論、銀座に行けば」
「その格好で?」
「ああ……」
レイさん頭を抱えてしまった。面倒事があるんだろうなぁ…。
面倒な時はギルドに頼む。冒険者ギルドでギルドカードを作ってしまえばヨレヨレな格好で何度も銀座に行かなくて済むし、カードで買い物出来るのだ。僕も切実に欲しい。
「お待たせ致しましたー。ご依頼ですか?」
「此方の方登録に来たのよ」
「それではコチラにお名前を「お待ちなさい」はぁ」
「私、此方の方、と言ったの。見た目で判断しないでね?」
受付嬢の言葉を止めて、声を潜めてカウンターに身を乗り出すセーナ。ヒソヒソと言葉を交わすと受付嬢は失礼しますと席を外して階段を上がって行った。直ぐに交代が来たので僕達は場所を空ける。
「面倒を掛けるわね」
「早く公衆浴場に行きたいわ」
「公共浴場じゃ無いんだ?」
「一緒よ」
「先程受付に来られたお客様ー。此方へいらして下さーい」
受付嬢が戻って来たせいで注目を浴びる事となった。
「お呼びです、セーナ、様」
レイはセーナとお連れ2人に見えるよう取り繕う事にしたみたい。僕は1番後を付いて行く。
「これはこれはキング様、ようこそスコフィールド冒険者ギルドへ」
「私じゃ無いわよ?気を付けなさい」
セーナをレイさんと間違えたギルマスは、レイさんを見て明らかに訝しげな目を向ける。
「レイさん、不敬罪だよねこれ」
「まあ、そうね。こんな格好してるから、しっかり誤魔化せてる証になるけど」
「し、証拠を見せて、頂けますかな?成り済ましは極刑ですから」
はぁ、と息を吐き、カバンから皮袋を取り出すと、中から光り輝くコインを取り出した。
「触らないでね。反応してしまうから」
「お…王金貨……」
「キレイだね。使えるの?」
「私達には使えないわね。迂闊に触ったら首が飛ぶわよ?」
「権利者以外が触ると国の造幣院に通知が来てしまうの。それが泥棒目的の者なら兵隊が飛んで来て首が飛ぶわ」
「キング様、お調べしてもよろしいでしょうか?」
横に控えていた職員の女性がトレイと鉗子を持って来た。直接でなければ持ち上げられるみたいだな。
「私、当ギルドでギルドマスターの補佐を務めております、キングスコートと申します。キング様とは遠縁ですね」
「世間は狭いですね。どうしてここに?」
「私は妾腹ですので。普段姓は名乗りません」
「迷惑を掛けます」
「ここで話せる事でもありませんし、確認が終わりましたら別室にて伺いましょう」
「お、俺は部外者だ!席を外すぞ!?」
「そうですね。そうなさって下さい」
別室に行ってしまったのはギルマスの方だった。
「僕達も出ようか?」「そうね」
「いえ、居てくれても構わないわ。あの人は貴族だから出て行ったのよ」
成程。平民には聞かれても関係無い訳か。もしくはベラベラ吹聴したら首が飛ぶヤツだな。
「確認が終わりました。レイチェル様」
「レイ、と呼んでくれ」「ではレイ様、その様に」
聞かれても関係無い話であったが、敢えてその話はしないみたい。レイさんのお父さんが残念な人で、平時なら平時で…って事らしい。
「今の話、解った?」
「…分からない事にしておくわ。あンたもそうなさい」
突っ込んだ首の上に刃物なんて嫌だもんね。で、レイさんが銀座に行くためのお洒落をするから協力しろって話になって、まずは風呂に行く事となった。正直風呂は暗くなってからの方が良かったな…。
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