【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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女子からの、労い

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「同じ周回で終われば先に終わるんだろ?手加減も、何も無いじゃないか」

 女子の先頭集団の会話から、女子は男子より2週少ない事が分かった。男子は10周だとロシェルが言う。そこそこ広いが整地されて平坦な場所だ。10周なんてすぐ終わる。みんな頑張れと女子達に声を掛け、必死に走る男達の、目から光を消して行く。男子中団の真ん中辺りに位置を取り、先頭集団の動きを見ながら走る。前の動きに合わせてペースを上げると中団達も付いて来る。いつもは怠けているのだろうな。

「ユカタってさ、結構体力あるよね。鍛えてた?」

「夜明け前から日が沈むまで、外で何かしらやってたから、かな」

「町生まれとの差、だねー」

「ロシェルは町生まれじゃ無さそうだね」

「まーねー」

 「俺だって女子と並んで走りたい」「俺も女子とお話したい」男達の荒い吐息がそんな感じの声に聞こえてるが、幻聴だろう。とっとと2周先行すれば女子と並走出来るだろ?学園男子の頭は悪そうだ。

「あ、先頭が出るね」

「やっちまうか」

「くそっ!やっちまえ!」「俺も負けねえぞっ」「全員っ、2周っ、させちまえっ」

 ペナルティを受け入れた者、抗う者、道連れを願う者。三者の言葉を背に受けて、僕とロシェルはペースを上げる。抗う者達は頑張って付いて来たが、先頭集団に加わった時点で息を入れるしか無くなった。

 装備の負荷が地味に体力を削って来るが、本物の得物よりはずっと軽い。楯、持たなくて良かった。ロシェルはこれを見越してた?僕の内側を並走するロシェルは軽いナイフを二振り腰に差し、負荷と距離を稼いでる。狡いけど、講師が何も言わないので許される範囲なのだろう。男子と同じペースで走ってるのだから叱りようが無いのかもな。

 先頭集団が女子後方周回に合流する頃、先頭を捕まえた僕とロシェルは、既に女子達と2周差を付けていた。いやそれにしてもこの男、早い。僕も彼もかなり体にキているが、それでもペースが落ちないのが凄い。

「君、早いねっ」

「お前が言うなっ。うちは、伝文走者の家っ、だからなっ。ガキん頃から、走ってんだっ」

 なるほどな。伝文走者。手紙の輸送を専門に扱う仕事だ。手紙だけとは言え盗賊や魔物は襲って来るので、戦う手段を得る為に学園に通っているみたい。

「卒業したら、伝文走者にっ?」

「従軍走者だっ」

 危険が増える代わりに貰いも大きい方に行くって訳か。木剣振るって待つマッチョの元へ、最初に到達したのは彼の方だった。能力劣って無いじゃん。尖った奴、ここに居たじゃん。

「2人共、お帰り~」

 女子だから、先にゴールしてたロシェルはケロリとした顔で労いの言葉を掛けてくれる。

「む、報われた…」

「それは、良かったね…。君本当に凄いや」

「お前こそ、走者になれるぞ。俺はタイグ、お前ユカタだったな。俺の尖った所なんて、学園ではほとんど評価されん」

「俺は評価しとるぞ?」

 どうやらマッチョは評価してくれてるみたいだ。戦闘ではからっきしなタイグだが、目的のある移動ではその走りは強みとなる…なんて事を語っていた。戦えるようになるに越した事は無いとも付け加えていたが、この学園は能力の平均を上げる場所なんだな。尖っている者を無能と言う意味も少しだけ解った。

 他の生徒が10~14周してる間に息を整え、先に武器を振るう。3日前に見たアレだ。杭の本数に生徒数が足りてないので順番待ちが出てしまうと、僕の叩く杭の反対側からナイフでカツカツ叩くロシェルが言う。まだ本数に余裕あるんだから他の杭に行けよ…。

「このっ、ナイフで受けるなっ」

「死体を壁にする奴とか、居るからね」

 振るった剣を時折ナイフでいなして来るロシェル。ズルッとして切った感触がしないので、体を持って行かれて体力が削られる。勘定の時の意趣返しだな?









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