【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

もる

文字の大きさ
82 / 385

意外と、多い

しおりを挟む


 日は過ぎて休日。僕は町の門前にて物々しい装備の兵士の集団の中に居た。10人が1つの班となり、それが5つ。そしてそれを束ねる代表と補佐役が1人ずつの計52人。半個小隊と言われる集団で、エリザベス様が家に頼んで用意させた私兵の一部であるそうな。

「ささ、ユカタ。出立の合図を」

「僕軍属じゃ無いからそんな事出来ないよ。まあ気を付けて行こう」

「ええ、怪我無きよう」「行こ行こー」

 エリザベス様の声に応えると、エリザベス様とロシェルが揃って歩き出す。それに釣られて学生の残りが歩き始めると、すぐに後を52人の兵隊が移動を開始した。

「ユカタ~、そろそろ畑だよ~?」

「脇道から山に入るから前に出過ぎないでね。レイナは隊長さんに伝えて」

「分かったわ。ジュン」「承知しました」

 すぐ後ろに隊長と補佐が居るので聞こえてると思うけど、僕が直接話をする事は無い。レイナに指示を伝えると、ジュンが動いて補佐に伝え、補佐が隊長の許可を得て各班に指示を伝えた。

「3班は殿へ。1列で進め」

ガシャン!ガシャン!

 50人が左手で腰に差した剣を叩く音は凄く大きく聞こえる。コレが返事だったらしく、脇道を1列になって付いて来た。

 山に入り、斜面を迂回しながら谷間を進む。町が近く、住民が薪や落ち葉を集めてるので歩きやすい。踏み固められて下草も疎らだ。

「道、みたい…」

「道だよ。谷間に落ちて来る枝葉を集めてる人がいるんだ。足元滑るから下も見てね」

「ユカタ!ブフリムいたっ!」「数は3ですわ」

「前衛は前へ。後衛は火を使わないように」

 町の近くとは言え居る所には居る。けど運が無いな。斜面を滑るように降りて来る3匹のブフリムは、谷間の下まで降り切るとコチラに向かって走り寄る。どれも木の棒を持ってギャーギャー喚いてやがる。

 前衛の僕を挟むようにロシェルとマキが並び、射線を外すよう左右へ広がるように後衛のジュンと取り巻き達が2人ずつ並ぶ。火魔法を禁じられたレイナとエリザベス様を中心にした布陣だ。

 僕は槍を構えて飛び込んで来るブフリムの胸を突き刺す。痛みで硬直したブフリムは押し込まれて仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。マキは攻撃を捌くのに必死で殺れてないが、まだ敵を殺した事が無いのであれば仕方ない。ロシェルが背後から首を斬り付け、戦闘は終わった。

「へ~。ユカタって躊躇無いね」

「そりゃあ10になる前から殺るの見てるもん。袋の中身だけ取って行こう」

 ロシェルだって躊躇無いだろうに。ロシェルは魔石も取るかと聞いて来たが、武器が汚れるし臭いので止めておこうと伝えると彼女も納得していた。

「あ、あの、埋めたりしないんですか…?」

 ジュンの言葉は正しいが、敢えて僕は否定した。肉食が寄って来たりアンデッドになったりするから本来は焼いたり埋めたりした方が良い。だがその時間は無い。袋の中の小銭を空袋に移して移動を再開する。

 面倒な事にブフリムが出る。ロシェルの腹時計が限界を迎えるまでの間に更に3回遭遇し、無駄な時間を過ごす羽目に遭う。袋の中身は重くなったが目的が果たせてないのでイライラしてしまった。

「ユカタァ、ご飯食べよ?」

「ふぅ…。せめて崖の下までは行きたかったな」

「ユカタ、この先少しなだらかになっていますわ。どうされます?」

 僕からは斜面の先が見えないが、この先にひらみがあるとエリザベス様は言う。ロシェルはグーグー鳴らしているし、みんなも少し疲れが見える。食事と休憩は必要なので、そこまで頑張ろうって事で歩を進めた。

 着いたひらみは61人もの男女が入るには狭かったが、上り側斜面に兵隊さん達がはみ出して僕達の場所を空けてくれた。

「では、出しますので取りに来てくださいっ」

 ジュンの背嚢から絶対入らないであろう大きさの寸胴が出て来た。それもマジックバッグか。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です 再投稿に当たり、加筆修正しています

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -

花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。 魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。 十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。 俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。 モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。

異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。 ってことは……大型トラックだよね。 21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。 勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。 追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...