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配慮は、無い
しおりを挟む男の処分は忙しい兵士達が合間を縫ってやってくれるそうで、手と腰を縛られてどこかに連れてかれた。
「ウバダぎゅうん!ごべんだぁあああいっ!」
落ち着いたと思ったらコレだ。地べたに座り込み、頭を地面に擦り付ける勢いで詫びを入れるジュン。多分謝っているのだろうけど何を言ってるかは分からない。
「死ぬかと思ったけど、アレ凄いね。動けなかったし息吸うのも大変だったよ」
「ばんがじゅごぐでごべんばひゃぁああいっ!」
やっぱり何言ってるか分からない。伏せているのを起き上がらせたけど涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。マキに頼んで馬車に戻してもらおう。
「ご無事で何よりね」
「今生きてるのはジュンのおかげなんだけどなぁ。エリザベス様も出て来てくれて助かったよ。ありがとうございます」
「その言葉をジュン嬢へ贈りなさいな。さ、貴方もお休みなさい」
エリザベス様に指示を出されたメイドさんに背中を押され、僕は馬車に連れ込まれた。
「うぅ、ユカタ君…」
「ジュンのおかげで助かったのは確かだよ。だから泣かないで。ありがとね、よしよーし」
車内でベソかいてるジュンの前に押し出された僕は必死にフォローする。
「僕も寝るから一緒に寝よ?」
手を繋いだら落ち着いたみたいなので横になったら抱き着かれた。諦めてそのまま寝た。
朝日が登り朝食の時間。動けるようになったレイナと水魔法のメイドさんが合流した。全快とまでは行かないが、みんな表情に余裕が見える。暖かい食事に笑顔が戻り、女子達は湯浴みもして昼前に村を出た。
「ユカタ、また体拭いただけ?」
「じゃぶじゃぶしながら拭いたよ?」
「濡れたウォリスみたいな匂いするよ?」
「だったらくっ付くなよ。馭者席行くぞ?」
「お待ちしております」「開けんな!」
ロシェルはたまにとても失礼だ。全身くまなく擦って揉んで、水もたっぷり掛けたのに酷い奴だ。
「慢心は敵。お分かりね?」
「は。心得ましてございます」
「お嬢様、このままの速度ですとご夕食の時間が遅れてしまいます。いかがなさいますか?」
「ふむ、多少の遅れは仕方ないでしょう。それより到着が夜になるのが問題ね。宿があれば良いのだけれど。それに」
それにと続けようとして言葉が止まる。皆の目がエリザベス様に向かう。
「敵が村を避けて襲い来る可能性を忘れてはなりません。どこかで倒さねば休み期間に依頼をこなす事が難しくなるでしょう」
「大人が処理してくれる事を祈るよ。子供にやれる依頼じゃないもん」
「報酬ないしねー」
「んだんだ」
僕を膝枕にしようとするロシェルをするりと避けて、足の方に座り直す。
「足退けろよ。ウォリスの匂いがするぞ?」
「しないもん!」
結局、アッゼニに着いたのは夜。貴族特権で開門させて中に入ると、体術使いのメイドさんは宿を取るそうで、一足先に街へと消えた。
「うおおおーっ!ジューーーンッ!!」
宿屋の前にはジュンのおじいさんが待っていて、最初に降りたメイドさんに威圧されていたが、ジュンが降りて来て元気を取り戻している。もう暗いのだから静かにして欲しいものだ。
「ぬ、お前もおったか」
「おりましたよ、こんばんは。明日お店に顔を出すのでその時にでもゆっくり話したら良いですよ」
「お爺様、また明日に」
そう言われたら退かざるを得ないのだろう。何度も振り向きながら職員に囲まれて帰って行った。
「メイドさん、クリスエス商会に飛び込んだんだね」
「多分、そうだね」
今夜の宿も、前回泊まった宿なのだ。部屋割りは最上階の大部屋と個室が1つ。ちゃんと配慮してくれたのかと思ったら、個室は馭者さんの部屋だと言う。何でよ?
「僕が個室の方が絶対良いよね?ねえ?」
「パーティーメンバーに溢れ者を出す事等許されませんわ」
みんな頷いてるけとエリザベス様はパーティーメンバーじゃないからな?口には出さないけどさ。
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